夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -11- #ppslgr
「結局、何もなかったの?」
「ない」
「むしろ何があるの」
三日目の夜。細く光る月明かりがわずかに山脈の尾根を照らし出す。深山幽谷という表現が相応しいこの険しい地形こそが、次に虚実転換事象が起こるとM・Kが推定した場所だった。
俺達が既に踏破してきた、辛うじて整備されている登山客用の道は四方から張り出す枝が狭めている。光量の低いシチュエーションと相まって迷い道以外の何物でもない。
「良かったのか、そのままの恰好で来て」
「……いいでしょ、支障はないもの」
シャンティカの方はと言うと如何なる心境故か、S・Rに勧められたロリータドレスに矢筒やポーチを身に着けたどうにも森林探索にはちぐはぐな恰好でやってきていた。
「まあまあ、もうじき環境が変わるからその恰好で不利とは限らないよ?」
「むしろこの恰好で有利な環境が思いつかないのは俺の想像力不足なのだろうか……」
どうにもしまらない状況だが、ここまで来た以上は帰って着替えさせてくるという訳にもいかないだろう。事実、虚実転換事象は既に始まっていた。
既視感のある、光の粒が大地から放出されて目の前の山脈から上空までを覆いつくしたかと思えば、光が収まるにつれて全く異なる光景がそこに現れていく。
煤けた金属で出来た幾何学的構造物の住居群、その内側より漏れ出すのは溶岩色の明かり。そして未知の街並みを寸詰まりのブリキ缶で出来た人形みたいな連中が行き来している。
何よりこの街は酷く熱い、顔を見回して原因を探ってみれば、本来の山頂にあたるところにはさらにもう一段高い活火山が形成されていた。マグマこそ噴出してはいない物の今も活きている事が火口の光で把握できた。
「おい、オヌシ達いきなり現れたが一体どこからやってきたんじゃ!?」
ブリキ人形、否、どうやら耐熱装甲服らしいそれをまとった人物の一人が俺達の存在を見とがめては歩み寄ってその頭部の前面をぱかりと開けて見せる。その内側にあるのは、髭ずらのむさい顔立ちのオッサンだ。
「ドワーフ?」
「なんじゃそれは。オヌシらはここがどこで、ワシらの事も知らずにやってきたのか?」
「お恥ずかしながらそういう事になる、な」
俺の回答に怪訝な顔を見せるドワーフっぽい、しかしてドワーフではない装甲服のオッサンはこちらには構ってられんとばかりに言葉を返す。
「そうかいそうかい、また随分と運のないこった」
「不運だと?」
「そうとも、ここはじき戦場になる。巻き込まれないように精々祈るんじゃな」
「一体何が……」
M・Kの疑問は回答をもらう必要もなく氷解した。俺達の頭上を超音速で通過した怪物によって。
灼熱の戦車の傾斜装甲めいた分厚い鎧で身を覆い、幾何学形状市街地を暗くする程の影をもたらす大翼。その存在の飛翔がもたらした衝撃波は熱風と共にさらなる熱さを俺達にもたらした。
「ヴォルギアの奴め、もうやってきおったか!」
目の前のオッサンは即座に装甲服のマスクを閉じると他の装甲服達と同様都市施設内に入っていく。迎撃施設かあるいは避難施設かまではその外観までははかり知る事が出来ない。
「ドラゴンが相手なら、何を着た所で大した違いはない、か」
【夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -11-:終わり:その-12-へ続く】
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