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死の砂漠に破滅の雨、死地を渡るは岩山

 枯れ果てた、生命の気配がない砂漠の中で、岩山がゆっくりと歩いている。否、それは岩山ではない。分厚い岩壁の厚鱗に覆われ、遠目からはうごめく岩山にしか見えないが、生物である。四つの岩が、中央の大岩を支えているような造形の、その存在は、竜だ。
 ずしりと足を下ろした巨竜は、縮こまっていた首を伸ばし、おもむろに砂を噛んだ。そのまま、粉剤でも飲むかの如く、すすっていく。
「美味くもねぇ……が、贅沢は言ってられねぇな」
 竜の名は、岩竜イワンナ・ガバンナ。その身の堅牢さでは竜族随一の巨大なるドラゴンだ。そして彼は今、十年に一度の約束をはたさんが為の旅の途中であった。
「やれやれ……いつもながら、自分の鈍重さに辟易するってもんだ」
 イワンナの歩みは、怠けている象の半分も出ていない。もっとも、彼の威容からすれば、動いて前に進むというだけで驚きの域であった。
 彼の視線の先には、死の砂漠の果てに、不可解な豪雨の降る終着点がある。しかし、ただの雨ではない。万物万象に終わりをもたらす、強酸の雨だ。桁外れの生命力と強靭さを持つ竜種といえど、例外ではない。イワンナは、あの破滅の雨に耐えうる、ごくわずかな例外なのだ。その彼とて、生命の危険なくとどまれるのは、極々僅かな時間であったが。
「ハッ……俺がいかなきゃ、一体誰があの、寂しがり屋の嬢ちゃんの所に行ってやれるんだ」
 イワンナは自身に気合を入れて、歩みを進める。局地地震めいた振動が絶え間なく続き、遅々とした歩みの先に長い時間をかけて、破滅の雨の眼前までたどり着いた。目的の相手は、この中心に居る。
「どれ……行くか」
 前足を振り上げ、酸雨の中に足を踏み入れる。じわりと、酸が分厚い甲殻を侵す。一般的な生物どころか、竜族でも厳しい、死の雨の中をイワンナは一歩一歩、迷いのない足取りで進んでいった。
 この雨のテリトリーは、深く広い。愚かな勘違いを起こした、英雄気取りが原因にたどり着く事は絶対に無いと言えるほど、広いのだ。
 どれほどの時間がたっただろうか。代わり映えしない雨の中、自身の殻が溶け落ちているのを横目で見ながらも、彼はたどり着いた。
 曲線的な形状に、白いベールをかぶった花嫁の様な姿。死を招くのでなければ、あるいは芸術品として讃えられたかもしれない。雨竜ベラカクトラは、その様な竜であった。
「ああ!ああ!イワンナ……逢いたかった!」
「おうよ、待たせたな……ベラカクトラ。さ、話そうぜ、時間はたっぷりある」

空想日常は自作品のワンカットを切り出して展示する試みです。
要するに自分が敬意を感じているダイハードテイルズ出版局による『スレイト・オブ・ニンジャ』へのリスペクト&オマージュになります。問題がない範疇だと考えていますが、万が一彼らに迷惑がかかったり、怒られたりしたら止めます。

現在は以下の作品を連載中!

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ロボットが出てきて戦うとかニンジャとかを提供しているぞ!

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