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【note小説】パルプ屋より文芸家に寄せて

この街では、大抵の事は自由だ。良識の範囲でならば。

秋の令嬢が冬将軍に追い出された頃合いは、noteの街も季節柄にあった装いに変わる。ホワイトとエメラルドグリーンを基調にした街の意匠を縫って、各々に割り振られた場所をクリエイター達が思い思いの店を出していた。

今日、俺はいつものnote辺境、メキシコの荒野などと呼ばれるエリアからラインを引いて反対側、文芸小説が主に立ち並ぶ区画へと足を向けた。
同じ文字媒体による小説作品といえど、ジャンルが変わるとテナントの雰囲気もがらりと変わる。特に、パルプと文芸、私小説に娯楽小説、恋愛、異世界転生、サイバーパンクにミステリー、そのいずれも異なる空気を纏うものだ。

すれ違うクリエイターの異物を見る視線を、そろそろ季節柄おかしくはなくなってきた黒尽くめに受けながら俺は目的の場所にまでたどり着いた。

淡い蒼穹のカラーリングで彩られたその一角には、奥ゆかしく『世瞬舎』の屋号が掲げられていた。

木枠ガラス張りのドアを開けると、表紙が大きく展示できる立て掛け型の本棚が壁を専有した店内にカフェのそれと同様のカウンターの奥に目当ての人物が細々した書類を右から左へと記述しては移していた。

「ごきげんよう」

作業に集中していた、細面の柔らかい雰囲気の青年は俺の声かけに顔を上げては何やら驚いた様な表情を見せた。

「あれ、わざわざ来てくれたんですか?」
「ああ、イチから出版をやってみるって聞いてな」
「ハハ、パルプスリンガーの人が来てくれると思わなかった」

彼が勧めてくれたカウンター外側の椅子に腰掛けると、コート裏の目的の封筒を確認する。それはあやまたず、そこにあった。

「そんなにおかしいかい」
「ほら、やっぱりジャンルが違うと線引きみたいなの、ありません?」
「それはまあ、個人個人、だな。俺は少なくとも文字書きに対しては大抵敬意を持っている。あまり内に閉じこもるのも視野が狭くなって良くないのもあり……というわけでご祝儀だ、受け取ってくれ」

すべらかな所作で俺は目的の封筒を彼に差し出した。

「いいの?」
「もちろん、文字書き同士、微力ながら力になろう」
「助かる、正書版の出版があんなにお金がかかるだなんて思わなかったし」
「印刷形態によって変わるな、そこは。パルプは元の由来が三文刷りだから、むしろ安い出来の方が雰囲気が合うんだがね」
「じゃあパルプを出すことがあったら選択肢に入れようかな。それにしてもどうして一体?」

彼の質問に、俺は苦笑して答えた。

「ジャンルが違えど、同じ書かずには生きられない人種としてシンパシー的な……アレだ。であれば手を貸すのはやぶさかではいんでね」
「そっか、同じか。うん、ありがとう。頑張る」

回答に驚いた様な表情を見せたあと、不器用なはにかんだ笑みを見せた彼にうなづいてみせると、こちらもそっと席を立つ。

「あれ、もう帰っちゃう?」
「ああ、諸々の作業が済んだ頃にまた顔を出すつもりだ。グッドラック、ブックメイク」

手をふって別れを告げると、速やかに『世瞬舎』のドアをくぐる。
向こう側には、多分俺と同じ用件のご婦人が同様にドアを開けようとしていた。

「失敬」

会釈して先に退出する。
空は爽やかな秋晴れに、冬混じりの風が吹き抜けた。

この街は自由だ。大抵のことならば。

【パルプ屋より文芸家に寄せて:終わり】

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