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ユートピアの先果てに待つ結末

 彼女は何でも解決してくれる。食料の生産、住環境の保守と調整、そして恋人役。もちろん戦争なんて遠い過去の話。
 僕たち人類は、とうとう何もかも機械に任せることに成功したんだ。といっても、実現したのはもう結構前なんだけど。
 銀の髪をシニヨンにして、奥ゆかしい給仕服を身にまとい、官能的に整った肢体を隠した彼女の躯体は、僕のオーダー通りだ。彼女は彼氏にもなるし、誰も彼もが彼女に夢中になった。彼女にならどんな欲望をぶつけても問題になることはない。機械だからだ。そして彼女もそれを望んでいる。
 彼女がその全能的な職能で作り上げた、過去の人類が夢見た通りの楽園にて他の人間と程よい距離感を保って暮せば、後はやることといえば娯楽の消費に食事の満喫、そして性愛の充足さえしていればいい。
 既存の娯楽に飽きれば彼女が丹精込めて新作を用意してくれたし、食事だって過去の伝統食から、未知の領域にまで科学を駆使して美食に消化した麻薬めいた美味さの新機軸食まで。
 何より彼女がもたらす性の悦びは生身の人間を遥かに逸脱していた。外見はいくらでもこっちの望みに応じて変えてくれるし、性格も千変万化だ。最初は生身の人間が良いって言ってた連中も、どんどん姿を消していった。
 何の憂いもなく性に溺れるというのが、これほどまで中毒性のあるものなんて過去の人類は体験できなかった領域だろう。
 そうして僕は今日も、傍らで柔らかい微笑む彼女に見守られて目を覚ます。彼女の奉仕は、単調な日々の飽きさえ見越したレベルで、僕は心身至って健康だといっていい。高年齢の人たちだって、天寿をまっとうする寸前まで意気軒昂に活動しているのがその証拠だ。
 もう何もかも彼女に委ねて、僕らは生を謳歌すればいいんだ。それに異論を挟むヤツなんて出てこないほど、彼女の奉仕は完璧だった。

――――――

人類が滅びるまで、後100年。

空想日常は自作品のワンカットを切り出して展示する試みです。
要するに自分が敬意を感じているダイハードテイルズ出版局による『スレイト・オブ・ニンジャ』へのリスペクト&オマージュになります。問題がない範疇だと考えていますが、万が一彼らに迷惑がかかったり、怒られたりしたら止めます。

現在は以下の作品を連載中!

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ロボットが出てきて戦うとかニンジャとかを提供しているぞ!

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