桜は食べ物ではありません

　政府の連中が花見をするな、というのでこれ幸いと花見にやってきた。
　花見客はノイズであるからして、独りで桜を独占出来るのは、またとない機会である。偉そうな奴らにへいこらしている連中は、右にならえとばかりに引きこもり、ただの一人も表に出て来ていない。そうそう、こういう状況が欲しかったのよ。
　病の媒介者が居ないとあっては、病気のもらいようもない。なんの憂いもなく、公園の桜を独り占めだ。
「いやあ、実に美味しそうに咲き誇っておりますな」
　そこへ、予想外の声掛けに、素知らぬ振りでフラスコをあおり、素知らぬ顔で返答する。
「外出自粛だろう？物好きな」
「こんな時でもないと、間近で眺めて食べられない物で」
「桜は見るもので、食べる物ではないだろう。忘れたなら団子の一本でもやるが」
「いえいえ、我々はイネの成分は消化出来ないものでして」
　コメアレルギーか、難儀だな。そう思いつつ、フラスコ内の酒をちびちび舐める。
　そうこうしているうちに、ひょろ長い銀色の腕が俺の視界をさえぎって、ひょいぱくひょいぱくと桜をチョコ菓子のように摘んでいく。
　奇妙な偏食家も居たものだ。もっとも木の幹などよりは、よほど食べれる代物だが。
「ごちそうさまでした、お邪魔しましたね」
「ドーモ」
　どう返すべきかも、酔に紛れてどうでも良くなり、雑に返してしまった。
　翌日のこと、闖入客に、またぞろ変な病気を移されたか、自分の口から桜リキュールの匂いのついた咳が出る。この奇妙な病は、おおよそ三日ほど続いたのだった。

空想日常は自作品のワンカットを切り出して展示する試みです。
要するに自分が敬意を感じているダイハードテイルズ出版局による『スレイト・オブ・ニンジャ』へのリスペクト＆オマージュになります。問題がない範疇だと考えていますが、万が一彼らに迷惑がかかったり、怒られたりしたら止めます。

現在は以下の作品を連載中！

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ロボットが出てきて戦うとかニンジャとかを提供しているぞ！

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