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UE:キャッチ・ザ・クイーン

蒼天の中央、妖精めいた陽炎が座す。そこを中心とし空を埋め尽くすほどに空色のフェアリーがその可憐さが禍々しく思えるほどにイナゴ禍のごとく飛び交う。

恐怖を通り越して美しささえ感じる光景に量産型密林迷彩巨人兵器群は硬直し銃を向ける意欲さえ失い棒立ちとなる。襲い来るフェアリーの群れ。
フェアリーが巨人達にぶつかるほどに氷禍となってまとわりつき、氷の檻へと閉じ込めていく。

即席ツンドラ地帯となった大地に向かって空の陽炎は手にした槍杖を掲げれば紫電が走る。投擲された槍杖は無慈悲なる断命の魔と化して氷柱に囚われた巨人を粉砕し灰塵に変えた。

一方的な蹂躙をモニターにて愉悦の表情で見届けた男がいた。
高層ビルの都会を見渡す一室で妖精女王の戦いを見届けた男は決意を新たにする。

「エアリエル・クイーン……なんとしてもワシの物にしてみせるぞ……!」

ーーーーー

「ワナだな、こりゃ」
「ハガネもそう思うかい?」

深夜のありきたりなチェーン・ファミレス。
その一角で二人の男は顔を突き合わせてテーブルに映し出されたホログラム映像にしわを寄せていた。
一人は短い黒髪の精悍な顔立ちにすこぶる目つきもガラも悪い男、もう一人は栗色の髪に彫りの深い整った顔立ちに穏やかな雰囲気をまとった紳士だ。
二人の様子を退屈気に眺める白衣に色素の薄い長い髪をシニヨンにしてまとめた少女もまた、傍らにいた。

「そりゃな、露骨すぎるぜコレ」

ガラの悪い男、ハガネが美形の紳士、オベロンに指し示したのは映像が表示する地域。
砂丘、である。からっからに乾いており、水分のすの字も感じられないような環境だ。
オベロンが駆るソウルアバター、エアリエル・クイーンに対するランキング戦……その指定地である。どこで試合を行うかはランカーへの挑戦者側が指定できるのだ。

「オベロンの愛機は大気中の水分が主な弾薬だろ」
「ああ、ハガネの御存じの通り」
「だよな。砂丘、それもこの地点の大気中の水分は滅茶苦茶少ない。それだけエアリエル・クイーンの火力も控えめになる」
「つまり、少しでも私の戦力を削ぎたいってわけだね」
「ああ、加えてこの砂丘ってのも気に入らんぜ。砂中になんでも仕込めるからな」

ハガネの回答に肩をすくめてため息をつくオベロン。

「で、ハガネにお願いがあるんだけど」
「奇襲対策の護衛だろ?いいぜ。報酬だけしっかり頼む」
「助かるよ」
「お互い様って、な。俺も食い扶持が増えちまったからな」
「そこ、なんだけど。その子とはどんなご関係?」

暇そうにドリンクバーで混ぜ合わせたジャンク・コーラを飲む少女・カナメを指さすオベロン。先ほどのオベロンのため息とは比べ物にならないふかいふかいため息を吐くハガネ。

「うち専属のSAエンジニアだ。養う羽目になっちまったのは、まあ、成り行きでな」
「ふぅん、てっきりそういう趣味なのかと」
「勘弁してくれ、将来はわからんが今はいくら何でもちっこすぎる」

コップを置けば不満げにハガネの頬肉をつまむカナメ。

「……なんだよ」
「確かにハガネさんとはビジネス・パートナーですけど、異性として全く眼中にないのはちょっとムッとします」
「実際問題未成年なんだから仕方ないだろ」
「年齢問わずレディとして扱ってくれてもよくありません?」
「考えとく」
「仲がいいんだね」

オベロンの指摘にむくれるハガネ。構わず空いている頬も引っ張るカナメ。

「それは置いとくとして、作戦はたてるぞ、と」
「ああ、無策だと相手のおもうさまだね」

ーーーーー

蒼天の直下、どこまでも青空の続く砂丘に100メートルを挟んで二機の人型兵器が対峙した。
かたや幻想の妖精女王めいた優美なる巫女型機動兵器「エアリエル・クイーン」そしてもう一方は四肢のすべてを推進機に置き換えた奇妙なる人型兵器、「アンバック」だ。

(この挑戦者は私とエアリエルを翻弄、トラップに誘導するおとりか)

機械の様に試合前のコミュニケーションも取らないアンバックにオベロンは事前の危機感を再認識する。この挑戦者はビジネスで雇われたのだろう。

(理解しがたいよ、レプリカじゃ気が済まないとか)

どうにもエアリエル・クイーンのシンパはデータを模したレプリカではなくオベロンが駆るオリジナルにこだわってるようだ。その事実に軽い頭痛を覚える。人の愛機は強奪しちゃいけませんとか習わなかったのか、と。

コックピットのVRモニタに試合開始を知らせるカウントダウンが点灯する。
3、2、1、GO!

先に動いたのはアンバックであった。その四肢をヒレめいた推進器に置き換えている異形の兵器はその速度においてエアリエルを凌駕する。急襲するアンバックを紙一重で上体をそらして回避するエアリエル。だがアンバックは攻撃の手を緩めない。ブーメランめいて戻ってくれば幾重にも円軌道を描き機体その物を凶器と化して妖精女王を追い詰める。

「これは厳しいね!」

エアリエルはというと、やはり大気中の水分が余りに不足しており主力である氷結フェアリーを生成する速度が大幅に落ちていた。だがしかして……

(武装は極力温存、本番は私を、エアリエルを鹵獲する捕縛機を釣り上げてからだ!)

手にした槍杖を駆使しアンバックの直撃を逸らすエアリエル。上位ランカーは伊達ではない、本来不利極まりない状況でさえ機体へのダメージを最小限に抑えていた。だがこのまま凌ぎ続けるだけではサカナは食いついてこない。

そこでオベロンは一計を案ず、まずアンバックの一撃をかすめバランスを崩したようによろけて見せる。当然の様に好機とみて真正面から突っ込むアンバック。人型手裏剣めいた一撃を槍杖を構えて真正面からガード、衝撃を殺しきれずエアリエルが転倒したその時である!

砂丘を貫き巨大なる女郎蜘蛛の頭部に人間の上半身を搭載したかの如き異形の兵器が妖精女王をその足で絡めとり蜘蛛糸を射出して拘束する!

「女王さんよ、大人しく来てもらうぜ」
「残念女の子はエアリエルだけだよ、私はそんな趣味ないしね!」
「ちっ、騎手は男かよ……つまんねぇ」

共通通信を介して脅迫してくる下卑た声に挑発しかえしてやるオベロン!
拘束を振りほどこうとするもなるほど鹵獲に特化した機体だけあり生半可なもがきでは抜けれぬ!

「なかなかの拘束力だ、SA専門の誘拐魔なのかい?」
「テメェには関係ねぇな、SAを剥ぎ取られた騎手なんぞ屁でもねぇ」
「そうだね、まあ剥ぎ取れればの話なんだけどね!」
「……なに?」

見よ!蒼天の中央に映る影を!遥か上空から雲耀のごとく下りくる鎧武者を!

黒き武者は全速力で降り来て女王を拘束する蜘蛛糸を両断!そのまま刀を返し機体を抑え込んでいた蜘蛛脚をも斬り裂く!

「な……っ!?」

仕事は終わったとばかりに傍観していたアンバックはすぐさま黒武者と女王に強襲するも武者の一刀に弾かれる!

「コイツは俺が斬る!そっちの蜘蛛野郎は任せるぜ!自分でボコりたいだろ!」
「もちろん!私の愛機に蜘蛛糸プレイなんてしてくれた輩はただでは返せないさ!」

背中合わせの二機はすぐさま自分の担当に立ち向かう!武者はヒトデめいた人型手裏剣に!妖精女王は女郎蜘蛛に!

先ほどとは打って変わり速度を増して黒武者を襲う人型手裏剣!黒武者はその身にマウントされた苦無を四本掴むとそのまま投げ放つ!人型手裏剣に弾かれる苦無!そのまま突進するアンバックの機体を黒武者はスウェー回避!

「ちぃ……っ!そりゃそうか」
「今敵の特性の分析結果が出ましたよマスター!」
「ハガネさん!アンバックはその見た目の通り最大速度をもって体当たりをするのが特徴です!強力な音の壁が生じてそれが防御壁の役割を果たしています!」
「サンキュー!それだけわかれば十分だ!」

アンバックの突進を刀で逸らせばあえて黒武者は納刀し居合の構えをとる!
真っ向勝負とみて今までよりもさらに早く襲い来る人型手裏剣!

「斬り散らす……っ!沈め!」

弾丸めいて突っ込んできた恐るべき巨大手裏剣を黒武者、フルメタルドーンはすれ違うように踏み込みの加速をつけた居合を抜き放つ!研ぎ澄まされた黒武者の斬撃は音の壁を貫いて人型手裏剣を横薙ぎに両断!斬撃箇所から崩壊し花びらが散るように四散するアンバック!機体の破片が蒼天の元で光の粒子となって消える!

一方エアリエル・クイーンは女郎蜘蛛型SAを相手に膠着状態におちいっていた!射出される捕縛蜘蛛糸の粘液弾を舞い踊るようにバレルロールにて回避する!散発的に氷結フェアリーを放つも女郎蜘蛛兵器の分厚い装甲とフェアリーの数の少なさにより決定打にならない!

「このまま拘束しなおしてやんぜ!」
「二度とごめんだ!君とはこれきりだよ!」

エアリエルの振るう槍杖に氷ではなく燃え上がる炎がまとわりつく!そう!妖精女王の能力は氷だけではない!大気その物こそが彼女の武器なのだ!そして乾燥しきったこの砂丘では炎は容易に強大な熱を持つ!

慌てて蜘蛛糸弾を大量射出するも氷の妖精から燃え上がる焔の精霊と変じた女王にはその炎に阻まれて焼き消える!

「グッバイ!ストーカー!」

エアリエル・クイーンが振り上げた焔の大剣は女郎蜘蛛の装甲を容易に溶断しその巨大な機影を幾度となく焼き払う!焔が行きかうほどに燃え上がり光の泡となって消えゆく女郎蜘蛛!

蒼穹が見下ろす砂丘の大地は決着がついた後も戦いの前と何一つ変わらない風景を保っていた。

ーーーーー

夕闇が夜とまじりあう逢魔が時、その高層ビルの一室には黒武者によって巨大な刀の切っ先がねじ込まれていた。寸止めされた自身を容易にひき肉に出来る凶器に失禁、腰をぬかす首謀者のカネモチ。

「ランカー相手に誘拐ゴッコたぁ舐めた真似してくれるじゃないか、ええ?」
「な、なんのことだかさっぱりわからんな!」
「とぼけても無駄だよ、あなたが依頼した相手は私達に負けて全て白状したからね」
「……クソゥ!役に立たん奴らめ!」

罵倒するカネモチに巨人の振るう刀の切っ先が鼻先まで迫る。

「ヒエッ……オ、オタスケ……」
「迷惑料」
「へっ?」
「ランキング戦を利用してワナしかけといてゴメンナサイだけで許されるだなんて、なぁ?」

巨大なる刀の先がカネモチの腹に触れる!

「払います、払いますからお許しを!もうランカー相手にSA強奪とか考えません!ユルシテ!」
「ならばよし」

刀が引かれて離れていくのを確認すると脱力して失神するカネモチ。
制裁を終えると興味を失ったかの如く高層ビルから離れる妖精女王と黒武者。そのまま推進モードとなり空を飛びゆく。

「もう来ないといいんだけどな」
「はは、きっと他の人がちょっかい出してくるよ。私の女王様は人気だからね」
「俺の機体は面白味のねぇ黒武者でよかったぜ……」

オベロンの気苦労にコクピットで嘆息するハガネであった。

【UE:キャッチ・ザ・クイーン:おわり】

本シリーズは以下のマガジンに収録されます。

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