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アンブレイカブル・エゴ

朝日の中、轟音をたて鈍色の巨人が荒野に倒れ伏して光の粒子となって消え行く。
巨人の倒壊の衝撃で天高く砂塵が舞い上がる中を切り裂き宵闇色の甲冑をまとった騎士にも武士にも見える巨人……いな、機動兵器が次の獲物に肉薄する。その腕に血脈めいて流れる溶けた鋼のごとき陽光。

急襲を受ける荒野迷彩色の鎧巨人は人間が扱う銃器と同様の武装、その銃口を宵闇の騎士に向けるがあまりにも遅い。銃口は騎士の手甲ではね上げられ、その腹部に騎士が掌底を当てた途端にびくん、と荒野色の鎧巨人は打ち震え、上下に分割され倒れゆく。またも光の泡が解けゆく様に消え去る巨人。

舞い上がった砂塵が風に洗われ、視界が晴れる。宵闇の騎士を囲む巨人は残り七機。だがしかして宵闇の騎士、その乗り手は眼前の七体など話にもならぬ脅威を察知した。

「お前ら、なんでもいいから早く退避しろ!」

共通通信帯域で呼びかける宵闇の乗り手、だが対峙する七体が言葉の意味を理解する前に「ソレ」は来た。

地平線の彼方より無数に飛び来る円筒状のミサイル。その飛翔速度は巨人を駆る乗り手達の反応速度を大きく凌駕し、まともな回避運動さえできることなく七体の巨人を爆発の猛火で呑み込む。爆炎が晴れた頃には巨人達は完全に消し飛んでいた。

「いわんこっちゃねぇ……」
「仕方ないですよ、マイマスター。ノーアポで突っかかってきたハイエナ連中に気を使ってやる必要なんてあります?」
「逆恨みなんぞされたらメンドクセエだろ」

自身をサポートする独立型戦闘支援AIの言葉に軽口を返す乗り手。
機体が消し飛んだ直前で騎手の保護機能が働き戦闘領域外へと転送された、はずだ。ゆえに懲りていなければまた突っかかってくる可能性は充分にある。

「おい、試合開始時刻の10分前だってのに対戦相手の俺をさしおいて何をやってるんだ貴様」
「俺が突っかかってくれって頼んだわけじゃねぇ」

通信が入った『本来の試合相手』に愚痴で返す。ハイエナ狙いの巨人達をミサイルで全滅させたのもコイツだ。既に地平線の彼方より凄まじい速度で接近中。

荒野の大地に轍を残す脚部の無限軌道。隙間あらばとばかりに数えきれないほど積載された多種多様なミサイルランチャー。その両腕には今回は重機関アサルトライフルと大口径散弾銃が。現れたソレは言うなれば人型重武装殺戮戦車と言ったありようだ。

登録名「アナイアレイター」、それが人型重武装殺戮戦車の名だ。
虚無になさしめる者、すなわち殲滅者の意味に相応しく圧倒的な火力、生半可な攻撃など歯牙にもかけぬ装甲、無限軌道の領域を逸脱する機動力を併せ持ったトップクラスのランカーに相応しいバケモノ。

「勝算はざっくり計算で8対2でほぼ私達が負けます。ホントにやるんですか?」
「おうとも、コイツに勝つために俺はここに来たんだからな。だから情けない事は言うんじゃねぇ」

先ほど試合前にワンチャンハイエナ狙いで奇襲して来た奴らは完全にサンシタで宵闇の騎士にダメージすら与えていない。そしてアナイアレイターのミサイル掃射もほぼ小手調べ程度の物、双方ほぼ万全な状態での試合となる。

VR3Dモニタに浮かぶ「Get Ready」とカウントダウン。そこに表示される「アナイアレイター」と自身の登録名である「フルメタルドーン」。

「事前の打ち合わせ通りだ、いいな」
「わかってますよぅ、負けちゃったら素直に帰りますよ!」

この期に及んで後ろ向きな相方を叱咤すると騎手自身も決意、覚悟を決める。より強さの高みに至るため、コイツを斬る。

カウントダウン、3、2、1、ゼロ!!!

両者共に駆け出す。騎士は前へ、殲滅者は後方へ。殲滅者より放たれる無数のミサイル。

「仮想装甲カット、余剰出力をすべて推力と兵装に回します!強力なのが当たったら一発で終わりですよ!わかってますよね!」
「あたりめぇだっての!」

双方の基本戦術はシンプルであった。騎士は食らいついて両断する。殲滅者は距離を取りながら火力で擂り潰す。有利不利で言えば騎士の方針が不利。ゆえに最速最短最小の過程でもって斬る以外に勝ちの芽はない。

迫りくるミサイルに対し腰部にマウントしたカタナを握り、抜刀。居合の斬撃で目の前のミサイルは起爆せずに地上に落下する。続いて撃ち込まれるライフル弾と散弾をバレルロールめいた跳躍で回避しながら突貫!間合いを詰める!

「スタンネット、来ます!」
「おうとも!」

AIの予測警告に騎士は急ブレーキからの反動を使い高々と跳躍!身をひねりながら通り過ぎた電撃のスタンネットを飛び越えさらに前へ!殲滅者は火力だけではなく搦め手も十二分に活用してくる!当たれば敗北あるのみ!

殲滅者は既に騎士の目前!ここに至って殲滅者はバトルスタイルを変える!殲滅者の身より火器兵装が切り離され、銃も地に放られる!新たに手にしたのはポールアックスとバックラーだ!

それまでキャタピラによる後退に徹していた殲滅者は不意に前進へ転向、目前の騎士をバックラーによるシールドバッシュで打ち払う!騎士のコクピット内にアラートが紅く瞬く!宙で身をよじりながら衝撃を殺し大地に立つ騎士!

殲滅者が振るう戦斧を騎士が太刀でいなす!アウトレンジの戦いからインファイトへ!轟音と共に両者の獲物が激突し蒼く火花を散らす!

「不味いですマスター!インファイトに持ち込んでもまだ6対4でこっちが不利です!近接に限ってもここまで強いってドンだけなんですかこの人!」
「だからこそ戦う意味があるのさ!」

振り下ろされる戦斧を紙一重で避けざまに柄を斬り飛ばす!得物を失い隙を晒す殲滅者!出力をすべて太刀に回し必殺の一撃を繰り出す騎士!

「チェエエエエストオオオオオオオッ!!!!」
「ちいいいいぃぃっ!」

騎士の斬撃が殲滅者に達する瞬間に殲滅者の肩部胸部の装甲が展開!高出力の三連装レーザー砲が輝く!だが遅い!破滅の閃光が放たれようとした瞬間には既に半ばまで太刀が食い込んでいた!暴発するレーザーに荒野は蒼く染まる!

輝きが収まった後に残っていたのは未だ物質化を維持した殲滅者の残骸と太刀を支えに半壊したその身を支える騎士の姿であった。
コクピット内に点灯する「アナイアレイター・戦闘不能:勝者・フルメタルドーン」の3D文字。

「かっ……たあ……な」

決着を確認しコクピットで脱力する騎手。

「ウェー、毎回毎回綱渡り過ぎますよぅ……そろそろ機体性能の向上も検討しましょ?」
「考えとく」

ぶっきらぼうな回答にブーブー不満を漏らすAIをなだめながら対戦相手を助け起こす。決着がつけばそこに争う理由はなかった。どちらもただ己の力を証明するために戦っているからであった。

「そろそろ昼だし、メシにしようぜ」
「ふん、もちろん勝った貴様のおごりだろう?」
「いいけど、あんまたけーとこ無理だぜ」
「かまわん」

お互いに支えあって動くのが精々の機体を操りながら、戦士たちは昼食に向かうのであった。

【アンブレイカブル・エゴ:導入エピソード終わり】

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