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夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -6- #ppslgr

「待ってくれ、俺達には君らの風習はわからんのだが」
「じゃあ知らずに私の耳を引っ張ったの!?」

アレか、もしかして。何という事だ、コスプレか何かと思って耳を引っ張ったのがそんな意味合いを持つとは……異文化コミュニケーションとは難しい。

「その、なんだ。彼から説明があった通り俺達は君達とは異なる世界の住人だし、俺達にはそういう耳に触れて求愛を示すような行為はないんだ」

まさかまさかの展開に驚きつつも自分では平静さを保っているつもりで弁明するが、となりでM・Kが笑いをかみ殺している様子が見える。何なんだこの状況は。

「これはもう責任を取るしかないんじゃない、R・V。なんたって傷物にもしてるんだし、ね?」
「勘弁してくれ、とても誤解を招く表現だ。それに俺は恋愛云々は苦手だ、一人の方がいい」

赤い布で挑発された猛牛めいた勢いで威嚇してくるシャンティカを、平手で押しとどめながらM・Kに抗議する。一体全体どうしてこうなった。

どうにも妙な空気になってしまった場を里の長が咳払いして引き締める。そういう所作はこちらの世界と一致しているようだ。

「シャンティカよ、アルヴァ族の長として命ずる。この方達に同行し、この森に起きている異変の真実を確かめなさい」
「はぁい。とても気乗りしないですけど、行ってきます」

相応の威厳を見せて命じた長に対して、不良女子高生みたいなノリで渋々引き受けるシャンティカ。しかし一つ懸念がある。

「ついてくるのは良いが、あなた達がこっちの世界に居られるのは現状夜だけで……」
「ああ、それについては僕が楔を打っておくよ。彼らも実情が知りたいだろうし、夜の度に場所を特定して迎えに行くのも時間のロスにつながるから」

M・Kがまたさらりとスゴイ事を言う。彼がそれだけ世界間を隔てる虚実の仕組みに通じているという事がわかるが……

「いいのか?」
「一時的な期間、一個人をとどめるだけなら、ね。僕が問題視しているのは無秩序な、あるいは悪意のある広範な入れ替えな訳だし」
「フムン」

現状、一番事情に通じている彼の判断を信じる他あるまい。
俺達のやり取りをジト目で視線を往復させながら伺うシャンティカは、諦めたように深く深くため息をついた。

「要するに、昨日と違っていきなりアナタが目の前から消えたりしないってこと?」
「そういう事だ。俺からしたら君の方がいきなり消えたんだがね」

世界の虚実転換、幻想世界の同行者、今回の件は実に前途多難に過ぎないだろうか。

―――――

「……なにこれ、石像?」

準備を終えて着いてきたシャンティカの前で、山林の中で辛うじて開けたスペース……元は畑だったかもしれない領域に俺の愛機である黒騎士めいた造形の機体、イクサ・プロウラを出力する。

M・Kの方は、先に次のポイントを探るとの事で一足先に戻っていってしまった。その為、彼女は俺が連れていくほかない状況だ。

物質転換を果たして片膝立ちで姿を見せた人型機動兵器「ソウルアバター」を前に彼女が困惑するのは、まあ当然の反応だろう。遠隔操作でイクサの手を彼女の前に降ろして、胸部コクピットへの足場として差し出してやると驚嘆の声があがった。

「動いた!これアナタが動かしてるの?」
「そうだ」
「ふうん……今までちょっと信じてなかったけど、本当に違う世界の存在なのね」
「そうとも。だから耳に触れてしまったのは事故で……」
「もしそうだとしても、そこは許してないから。初恋の人にだって触らせてなかったのに」
「むむぅ……」

ぐうの音も出ない。軽率に彼女の耳に触れてしまったのはここ最近で一番の大ポカではなかろうか。

【夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -6-:終わり:その-7-へ続く

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