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秘密の朝の物語【短編小説】

あなたのために、と  
薔薇は精一杯背筋を伸ばし
大切にとっておいた 朝露の最後の一粒を
差し出したのだった

僕は手でそれを受け止め
澄んだ一滴を舌に載せた
芳しい香りと冷たい味わいが 
身体の隅々に染み渡る
その滴は 薔薇の涙 薔薇の魂

大丈夫だ、僕は。もう大丈夫だよ


 時間は一ヶ月前に遡る。

 僕は作家を生業にしている。業界内でしか名前は知られていない。いわゆるゴーストライターだ。
 その事実を僕は気に入っていた。僕には、幾らか文章が書けることしか取り柄がないので、それで生計を立てていたけれども、特別な思い入れは無かった。だからその事で他人に煩わされたくない。そういう意味で、これ以上ないくらいピッタリしている仕事だ。

 仕事する時は、庭に面した机でパチパチとキーボードを叩く。作家たるもの原稿用紙と万年筆で、などという拘りはない。
 生きていくための欲が薄い。他人に興味が無い。よくそう評された。そのとおりだと思う。そのことも気に入っている。僕は自分にできる方法で世の中とつながり収入を得、それで満足している。

 庭には、雑草が生い茂り、梅と桜の小さな木があり、どこから来たのか、植えた覚えの無い細い木が一本、雑草からひときわ背を伸ばしてすっくと真ん中に立っていた。
 たぶん、薔薇の木。茎に棘がある。人に興味が無いように、僕は、草にも興味が無い。

 ただ、視線、気配、のようなものを感じていた。薔薇からの。

 僕が朝起きて、コーヒーを淹れるとき。パンを齧りながらパソコンの前でメールをチェックしているとき。電話で担当の三笠(みかさ)さんと話をしているとき。
 薔薇はいつも僕を見ている。じっと。
 人間のそれと違って不快ではない。物言いたげな視線。時には僕の方がぼんやり薔薇を見つめることもあった。薔薇に目があったとして、どこから、どうやって、見ているんだろう?一株の植物に意識はあるんだろうか。きっとあるんだろう。薔薇は自分をどう感じているのか。自己と他者の区別があるんだろうか。

 季節は冬を過ぎて、早春。薔薇に蕾が膨らみ始めた。まだ固く緑色で、花の色は分からない。
 蕾が付くと、不思議な事に、薔薇の顔がそこにあるような気がしてくる。ヒト以外のものの擬人化。花が咲いたからといって、そこが顔とは限らないだろうに。人間は無意識のうちに自分を基準に物事を測っている。

 星の王子様、という物語がある。そこには薔薇の女の子が登場する。薔薇の女の子は自分勝手に王子を振り回す。まだ子供の王子は、何とか薔薇の期待に応えようとするが、やがて我儘に疲れ果てて逃げ出す。
 その場所から移動できない薔薇にとって王子は唯一無二の他者なのだけれど、取り返しがつかなくなってから、文句ばかり言ったけど本当は好きだった、と王子に告げる。それでも王子は去ってゆく。二人の、初めての他者との交流は失敗する。
 完結していた王子の世界に現れた侵入者。そういう意味で、庭の薔薇と僕の関係に似ている。物語では、王子がいなくなった星での、薔薇のその後は描かれない。


「すみません鳴海(なるみ)先生、本当に助かります!明日の夜、直接、引き取りに伺ってもいいですか?」
三笠さんが電話の向こうで盛んに恐縮している。
「メールしますから。来ていただかなくても大丈夫ですよ」
「いえ、今回はこちらから無理にお願いしたわけですし。時間は22時で如何でしょうか」
「……じゃあハッキリ言います。男の一人暮らしだし何もお構いできないので、来られても困ります」
「……あの、私、鳴海さんにまだ一度も直接、ご挨拶してないですよね。お時間は取らせませんから……」
「メールで送ります。何時までに完成させれば良いですか」
電話の向こうで微かに溜息が聞こえた。
「……分かりました。えーと今日の夜、途中経過をメールで下さい。21時までに頂けると助かります。では宜しくお願いします。失礼します」

 僕はスマホを置いて、大きく息を吐いた。なんでわざわざ来ようとするんだろう。担当が三笠さんに変わって半年、やり取りは電話とメールだけで、まだ直接会った事がなかった。着任の時、挨拶に行くと言われて、僕は固辞した。たぶん、相手が若い女の人だから。仕事の人間関係に私的な関心を持ち込むとロクなことにならない。
……のんびりしている時間はない。僕はすぐに仕事に取り掛かる。

 仕事がひと段落ついたのは夕方だった。僕は椅子から立ち上がり、身体を伸ばした。腹が減ったな。冷蔵庫の中には何もない。何か買いに行くしかない。
 ふと、気配を感じる。薔薇の木は夕暮れの庭に、いつもと変わらず、微かに風に揺れている。……いやまてよ、そういえば、ここしばらく雨が降っていない。僕は思い立ち、コップに水を汲むと、庭に出て、薔薇に振りかけた。

(いかないで)

「……?」
 何か聞こえた気がして周りを見回し、耳を澄ませた。しんとした静寂。遠くで電車が走り去る音が微かにする……気のせいか。
 僕はその場を離れようとして、シャツを引っ張られる。ハッとして振り向くと、薔薇の棘がひっかかっている。僕はシャツから棘を外そうとする。でも、中々外れず、棘の方がとれてしまう。面倒になって、棘を服に付けたまま庭を後にする。

 上着を羽織り、財布を上着のポケットに捩じ込んで、玄関を出た。ここはかろうじて首都圏に引っかかる場所。程よく人が少なくて、でも店は結構ある。コンビニはあるけど近くはないし、店を離れればあまり人を見かけない。
 春はまだ浅く、日が暮れるのは早い。僕は急速に暗さを増してゆく街に向かって歩き出した。

 歩き慣れた道のりを進むうちに、仕事内容から思考が離れ、彷徨い始める。
 去年の秋、母親が死んだ。父親は中学の時に死んでいる。大人になってからは一定の距離を保った付き合いだったけど、仲は悪くはなかった。僕の事を誰よりも理解してくれていた。

 僕が他人に心を開かないのはずっと前からだ。それはゆっくりと徐々に深まっていったので、始まりはいつだったのか思い出せない。ひとつひとつの小さな選択が降り積もって、気がつけば、想像したことも無いような場所に居る。

 病気もそうだ。母は癌だった。亡くなる3年前、この家に来た。ここで会ったのはそれが最後で、次に顔を合わせた時には既に、手術の為に入院していた。一度の手術で手遅れだということがはっきり分かった。それから母は僕の心配ばかりしていた。この先の困難な道のりと先に待つ死よりも、遺してゆく者のことを。
 それが僕には堪らなかった。同時にこの人の息子で良かったとも思った。辛い日々の中、僕は母の顔を最後までまでちゃんと見てあげられただろうか?……思い出せない。

 コンビニが視界に入ってきた所で、ふいにチクっと小さな痛みを感じた。僕は薔薇の棘の事を思い出す。シャツに付いた棘を探して立ち止まった。
 暗くてよく見えない。俯いて手探りしていると、出し抜けに車のエンジン音、ハッと顔を上げた時、猛スピードで走り抜ける車に接触して身体が弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。轟音と地響き。血が目に流れ込み、赤く染まる視界と急速に霞む意識の中、紙のように潰れた車が一瞬視界に入り、

────意識が途切れる。



 僕は辺りを見回した。見覚えがある。古いマンションの一階に、申し訳程度に付いている庭。小さな鉢植えがいくつか、そして薄い桃色の、沢山の花を咲かせた見事な薔薇。庭の殆どのスペースを薔薇が占拠している。
 マンションの窓が開いて、中から母が出てくる。なぜか僕は驚かない。これは夢なんだな、と腑に落ちる。母は庭の鉢植えと薔薇にジョウロで水をやり、薔薇を一輪切り取った。それから赤くて丸いものも、幾つか摘み取る。

 切った花を一輪挿しに生けて仏壇の前に置き、果物ナイフを持ってきて、先程取った丸い物に、慎重に切り込みを入れる。
 切り開くと中に白い種のようなものがギュッと詰まっている。母はそれを丁寧に取り出して、洗う。

 電話がかかってきて、母は手ぬぐいで手を拭くと受話器を取る。顔に懐かしい笑みが浮かぶ。
「……ああ……来週の金曜ね。何か作って持っていこうか?……あんた好きじゃない、柚子胡椒きんぴら……コンビニばっかじゃダメよお。添加物だらけなんだから……うん、いい、大丈夫……うん、着いたら連絡ね。番号同じよね……じゃあね」
 母は電話を切る。相手は、恐らく僕だろう。柚子胡椒きんぴら。そんな話をした気がする。最後に、僕の家に来る前に。


 世界が急に暗くなり……再び明るくなると、見慣れた庭の光景に変わった。ここは僕の庭。母は屈んで、足元の雑草を抜いている。雑草の無いスペースがある程度できると、ポケットから包みを取り出す。包みを開き、中にある種を幾つか、間隔を開けて埋めて、土を被せる。
 それが終わると立ち上がり、腰を押さえて伸びをした。腰をさすりながら数歩歩き、首を僅かに傾げて、先程種を埋めた場所に目をやる。母の顔にまた、あの懐かしい微笑み。
 母はその場を離れ、室内に入ると、コップに水を入れて戻ってきて、種を埋めた場所に少しずつ振りかけながら、呟いた。
「芽が出ますように。花が咲きますように。良いことがありますように……真斗(まさと)が優しいひとに出会えますように」
 母は室内に戻る。部屋の中に僕が入ってきて、二人は会話を始める。僕は庭に立ったまま、濡れた土の表面に水が染み込んでゆく様子を見つめた。

そうか、あれは。

母の家の薔薇。

もう咲いただろうか。


再び世界が暗くなる。


 ────目を開く。
 ベージュのカーテンに覆われた狭い空間の真ん中にベッドがあり、僕はそこに寝ている。出し抜けにカーテンが開くと、看護師が入って来て僕と目が合う。
「あっ、鳴海さん。分かりますかー?ここは病院です。吐き気とか、痛み、ありますか?」
「……少し、頭痛が……」
 僕は自分の手で頭に触れようとし、左腕がギプスで固められ、右腕に点滴の針が刺さっていることに気づく。そのまま右手で慎重に頭に触れてみる。何か色んなもので頭と額が覆われ固められている感覚だ。包帯、絆創膏、テープ。
「今、先生呼びますね」
 看護師はポケットから携帯を取り出すと話し始めた。すぐに医者がやって来た。


 僕は事故に遭ったらしい。
 猛スピードで突っ込んだ車に掠って、衝撃で跳ね飛ばされ倒れて、地面で頭を打った。その時に頭皮を切って何針か縫う怪我をし、左腕を骨折した。
 尋ねて来た刑事に、もう1メートル進んでいたら、車と塀に挟まれてぺちゃんこになっていた所だったと聞いて、ゾッとする。
「この規模の事故に巻き込まれてこの程度の怪我で済んだことは、もの凄く運が良かったと思いますよ。検査でも異常は無いって。良かったですねぇ。運転していた方は即死でした。相当スピード出てたんでしょうね。アクセルとブレーキを踏み間違えたと思われますが、詳しい原因は調査中です」
 刑事は警察での手続き、保険のことなどを話し、書類を置いて帰っていった。入れ替わるように、スーツ姿の女性が面会に来た。

「はじめましてー!三笠です。新調社の。はあぁ、ようやくお会いできました!まさか、鳴海先生に初めて会うのが病院になるなんて、思ってなかったです」
 言われてみれば、名刺を僕に渡してにこやかに笑う女性の声に覚えがある気がした。
「いやもおビックリしましたー。事故に遭われたって聞いて、生きた心地しませんでした。怪我が軽くて良かった!あ、事故に巻き込まれたのに、良かったは無いですかね。こめんなさい」
 三笠さんは笑ったかと思えば気まずそうな顔をし、再び笑ってペコリと頭を下げた。本来なら苦手なタイプの筈だけど、彼女の発散する明るい空気は、久々に浴びる陽の光みたいに心地良い。

 そして僕はようやく、仕事の事を思い出した。
「仕事……すみません、まだメール出してなかった……いや、もう間に合いませんよね」
 三笠さんは驚き、また笑顔になった。
「そんな!事故は仕方ないですよ。仕事の件はまあ、色々ツテもあるんで、何とかしました。大丈夫です。……それより、先生、左腕怪我されてますけど。色々不便でしょ。明日、退院ですよね。迎えに来ますね」
「……はあ、すみません助かります。……何かほんと申し訳ないです。仕事で役に立てないどころか、いらん手間ばっかりかかる人間で」
 三笠さんは、真面目な顔になった。
「先生……前から思ってたんですが、思い切って言いますね。先生は一人で何でも抱え込みすぎると思います。仕事も、打ち合わせの後は、相談も殆どなくて確認も最低限っていうか。修正もほぼ無いですし。いや先生の仕事の質に問題はないですよ?けど、担当としてはちょっと寂しいです。……周りからは、鳴海先生、楽だよって言われますけど」
 三笠さんは僕の目をじっと見つめた。僕は胸の動悸を意識する。

「私、まだ新米だし頼りないですよね。だからたぶん、鳴海先生なんです。先生は出来る人なので、担当は誰でもいいっていうか。新人にすぐ辞められても困るし、鳴海先生なら担当に負担かからないから、仕事に慣れるまで鳴海先生でって。けどそれは違うって思うんです。先生だって人間なんですから、困る事も、誰かに頼りたいって時もありますよね?むしろ先生みたいに独りで何でも出来て、こっちの意図汲んで進めちゃえる人ほど、言外を感じ取る力のある担当が付くべきだよなって思うんです。……未熟者が生意気言ってすみません」
 三笠さんの表情は優しくなった。

「……先生の事は、会社に入って聞きました。でも、それで私、自分の好きな文章を書く人が誰なのか分かったんです。私、実は “先生の文章”が好きだったんです。先生のファンなんです。好きすぎて会社に入っちゃうほどの」
 僕は不覚にも、目頭が熱くなってきた。ヤバイ。歯を食いしばる。こんな所で泣きたくはない。
「だから、今回の事故は、先生にとっては災難だと思いますけど、私にはラッキーでした。こうしてお目にかかる事も出来たし、お役に立てるし。ね、だから、すみませんとか、申し訳ないとか、もう言わないで下さい。嬉しいんですよほんとに。……明日、また来ます。何か欲しいものとか、買っておいた方がいいものとか、考えておいて下さい。……ではまた、明日」
 彼女は照れ臭そうな様子でピョコンと頭を下げると帰っていった。僕は人前で泣き出さずに済んだ事にホッとし、長い溜息をついた。
 僕の文章は都合の良い換えのきく部品のようなもの、そう思っていた。……けど、あなたの文章が好きだと言われる、それがこんなにも嬉しいなんて。
 この仕事ができて幸せ。初めてそう思えた。


 昼過ぎ。自宅に戻ると真っ先に、居間を突っ切りカーテンを開けた。
庭に薔薇は居た。何も起こらなかったように。蕾は開き、花弁が覗いている。

「せえんせえ〜、開けてくださーい」
三笠さんの声に我に帰ると、玄関を開ける。荷物を山のように抱えた三笠さんがよろよろと中に入ると、ドサリと荷物を下ろした。
「助かりました。どうか中に入って。コーヒーを淹れますから」
 僕が声をかけると、三笠さんはハッとしたように
「いえっそんな、お構いなく!てゆーか私がやりますよ。えっとコーヒー?冷蔵庫ですか?」
「いや、お湯沸かすから」
「え?……あっ、コーヒーって缶の奴じゃなくて、本格的な方ですね!喫茶店のみたいな。えっ先生、コーヒー自分で作るんですか?」
「僕は豆は作らないよ。淹れるだけ。……もしかしてコーヒー淹れたことないの?」
 三笠さんは赤くなり、小さい声で言った。
「すみません、あの、お手伝いするんで……淹れるとこ、見せて貰ってもよいですか?」
「勿論」

 僕はポットに水を入れて火にかけた。マグカップを取り出して、フィルターをセットし、コーヒー粉を入れる。右手だけでやるのはちょっと難しいけど、三笠さんが手助けしてくれる。
「……蒸らしが終わったら、こうして少しずつ、円を描くようにお湯を注ぐ」
「わ。いい香り」
「三笠さんは、何か入れるひと?ミルク?砂糖は?」
「私、ブラックが好きです」
 三笠さんはコーヒーを口に含み、笑顔になった。
「美味しい!……あっ、先生、飲み終わったら買い出し行きましょう。その後、カレー作りますから。カレーなら任せて下さい」
「ありがとう」
「どういたしまして!」
 三笠さんはまた笑った。つられて、こっちも笑ってしまう。僕は忘れないうちにと、コップに水を汲み、庭に出て、薔薇に水を振りかけた。窓の側から、三笠さんが呼びかける。
「ピンクの薔薇ですね。……先生、三笠って名前の薔薇があるんですよ、ご存知ですか?」
「そうなんだ。知らなかった」
「その薔薇みたいなピンクの薔薇で。でね、もっと凄いのが」三笠さんは興奮したように「鳴海って名前の薔薇もあるんですよ!やっぱりピンクの薔薇で。私、先生の名前を初めて聞いた時、運命だ!って思いました。……凄くないですか?!」
「すごい」
 僕は三笠さんの目をじっと見つめた。
「運命だ。運命にしよう、僕達で」
「でしょう!凄い作品が産まれる予感がしますよね」
 三笠さんはニコニコしている。僕は拍子抜けし、そういう意味じゃないんだけど、と、言おうとしてやめた。



 まだ朝靄がうっすら庭に残る早朝。なぜか目覚めてしまった。
 今日の午後、三笠さんがここに来る。資料を届けてくれるらしい。以前の僕なら、送料を払ってでも送ってもらうところだ。でも今は、彼女に会うのが楽しみだ、と素直に感じる。

……逢いたい。
顔を見て話し、ここでまた一緒にコーヒーを飲みたい。どうにかして、三笠さんをここに呼ぶ口実を考えないと。

(よかったね)

 桃色の見事な薔薇は、周囲に芳しい香気を漂わせ、かすかな輝きをまとっている。僕は薔薇を見つめる。薔薇も僕を見つめる。
 僕は庭に出て、薔薇の前に跪く。ここに種を埋めた母の姿を思い出す。

 星の王子さまは、遠く離れた地で、置いてきた薔薇が唯一無二の存在だったと気づく。けれど、王子はその気持ちを薔薇に伝えることはできない、最後まで。
 僕は幸運にも、まだチャンスがある。他者と触れ合うことは怖い。でも踏み出さねば何も始まらないのだ。

あなたのために、と  
薔薇は精一杯背筋を伸ばし
大切にとっておいた 朝露の最後の一粒を
差し出したのだった

僕は手でそれを受け止め
澄んだ一滴を舌に載せた
芳しい香りと冷たい味わいが 
身体の隅々に染み渡る
その滴は 薔薇の涙 薔薇の魂


大丈夫だ、僕は

もう大丈夫だよ





(完)



こちらの物語は、シモーヌさんの「はじまりのはじまり」マガジンの中のひとつ
『秘密の朝の物語』のはじまり
、から始まっています↓

シモーヌさんの中にいくつか「降ってきた」一節を「はじまり」として、ここから始まる小説や、詩や……何かを始めてくれる方を募集しています!
……とのことです。

手を挙げてみました〜コラボづいてるなあ、我ながら(笑)
なんか「文字数◯◯で!」とか「この文章とこの文章を、始まりと終わりにして物語を考える」とか、何らかの制限があるものほど燃えるのですよね……。

「はじまり」は、ほかに「黄泉」とか「キス」「夢の鯨」など14個、あります。
皆さんもお〜レッツチャレンジ!!


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