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「僕は今日も違うカメラマンの男とデートをする②」 special by 蒲生ススム

1/4 19:10
もともと19時のお約束だったのに、年始の仕事を詰め込みすぎたせいでつい残業をしてしまった。
三が日最終の週末の夜は、皆早歩きの人が多くてJR天王寺改札口を出る人達は足早に帰路に着く。
『今日は受けてくださってありがとうございます!あ!あけましておめでとうございます』
僕はちょっと慌てながら挨拶すると彼は、ペコッとお辞儀をする。
今日の男は無口タイプ。

てんしば、動物園前ルート。
JR天王寺を出ると冷たい空気が一気に駆け抜ける。顔に当たるとなぜか人の温もりが欲しくなるような冷たさだった。
毎度お馴染みのpowershot G12が今日の僕のツレ、コイツは本当に賢い。僕より頭がいいし、良くできた妹のような感覚。
真冬の夜のてんしばは、人があまりいなかったが、この真冬の夜にも関わらず大阪のカップルは芝生の上を寝転がり抱き合っている。
彼は『ホテルが近くにあるのにな』とボソッと喋る。おやめなさい、2人の世界観に部外者はいらないのよ。
前から彼とは何度か面識があったが、このボソッと喋る癖はなかなかに面白い。ボソッと話すから彼の話は大半に聞き取りにくいんだけど、そこが良かったり悪かったりする。
てんしばを通り抜けて、天王寺動物園の真上の橋を渡り、通天閣。
彼は通天閣を見上げると、『登ったことある?』と聞いてきた。
そういえば、18歳から和歌山の私立高校を卒業して以来大阪府民になったけど、一度も登ったことがない。僕は首を横に振ると、「登ろっか、通天閣」とチケット売り場まで連れてってくれた。

108mの通天閣はとても大きくて、大阪市内を一望できた。7年前、初めて純粋なお付き合いをしようと同い年の彼にアタックしたJR天王寺駅も、出会い系で知り合ったカメラマンの男性と一夜を過ごしたラブホテルの建物も全部小さいジオラマのように見えた。なんだか小さく見える大阪も悪くはない。彼は自前のコンデジで黙々とシャッターを押していたので、僕も負けじとシャッターを押した。小さい液晶に移る彼の後ろ姿がなんとなく初々しさを感じた。通天閣を降りてお腹も空いてきたので夕ご飯を一緒に食べた。通天閣通りの王将の味噌ラーメンは真冬の夜にピッタリの濃い味。互いに箸が止まらなくて黙々と食べ続けた。

帰り道、彼はおもむろにカバンから黒いサングラスを出し自前のRICOHのGRⅡを僕に渡してきた。

「撮って。俺、普段撮られられないから。」

謎の彼の小道具チョイスはさておき、内臓のストロボを大きく焚いてシャッターボタンを押す。なんだかやんちゃな少年感。撮影後、彼の写真を少しだけ見せてくれた。その写真はセミヌード撮影だったが、彼女の目線や唇の写真映りがどことないエロスを感じてなかなか良い。他人の買ったエロ本を読んでいる感覚でいる。僕は「むっつりスケベやん」っていうと「違うよ、RICOHが悪いんだよ」と恥ずかしそうにはにかむ。そうしておきましょう。別れ際に「さっちょん、今日の写真、俺にくれよ。ほしいから」とせがまれた。その表情はまさに少年だった。

彼は無口な人、でもたまに出るデレと力強い写真は、僕だけが知っているのかもしれない。

Special Thanks..
蒲生ススム
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写真を撮るOLです。