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Weekly R-style Magazine 「読む・書く・考えるの探求」 2018/08/20 第410号

はじめに

はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。

ついに『Scrapbox情報整理術』のKindle版が発売となりました。

個人的な心境では、いまオーケストラがマックスのボリュームでファンファーレを鳴らしているところですが、それを文章で表現するのはいささか困難なので、「大喜びしております」という表現に留めておきます。

これで日本全国どこからでも買えるようになりました。24時間365日購入することができ、品切れの心配もありません。私の家の近所の書店さんでは、ほとんど取り扱いがなかったので、結構純粋に電子書籍版の発売を喜んでおります。

タイムラインを見る限りでは少しずつScrapboxの認知も広まっているようなので、この本も少しずつ売れてくれればいいなと思います。

〜〜〜Vivaldi〜〜〜

Vivaldiというウェブブラウザを使い始めました。私は、Firefoxをメインブラウザにし、Google Chromeをサブブラウザにしているのですが、Scrapboxを使っていると、2つ以上のページを同時に開いておきたいことが多発するので、それがやりやすいと噂のVivaldiを使ってみた次第です。

Vivaldiの画面表示のイメージは、MacOSのSplit Viewを思い浮かべてみるとわかりやすいかもしれません。画面を二分割にして、左右で異なるアプリを表示させられる。Vivaldiでも似たようなことができます。むしろVivaldiでは、二分割以上の表示も可能です。横に並べたり、縦に並べたり、タイルっぽく配置することもできます。

この機能により、たとえば左側でデイリータスクリストのページを開いておき。右側で原稿のページを開いておく、といった使い方が可能になります。他にも、複数のページを同時に開いておきたい受容はあるでしょうから、そうした場面でVivaldiは活躍しそうです。

さらに、VivaldiはChromeのベースとなる機能を用いて作られているので、Chromeの拡張機能をそのまま使うことができます。

でもってScrapboxには、「ScrapScripts」という便利なChrome拡張があるので、それをそのままVivaldiでも使えるわけです。

というわけで、一通り触ってみた感じですが、なかなか快適な使い心地でした。もしかしたら、Scrapbox専用ブラウザとして今後使っていくかもしれません。

〜〜〜適切な休息〜〜〜

仕事をしていて、特に難しいと感じるのが「適切に休むこと」です。このことは、年齢を重ねるたびに実感が強まっています。体力が落ちてきて、無理がきかなくなってきているからでしょう。

「たぶん休んだ方がいいんだけど、まだ一応仕事はできる」

という状況で、つい「仕事をする」という選択をしてしまい、結果的にヤバい状況に足を踏み入れてしまう。こういうことがちょこちょこあります。すでにそれで大きな失敗を経験しているのですが、それでも同じような過ちを繰り返してしまいます。

労働基準法というものがあり、それによって労働時間の上限が決まっていますが、あれと同じように何かしら機械的な基準を設けて、「それ以上は仕事をしない」という強制的なルールを持っておいた方がよいのかもしれません。自分の裁量で、いつまででも仕事ができてしまうフリーランスだからこそ、「仕事を止めるタイミング」については、慎重になるべきなのでしょう。

〜〜〜人生が二度あったら?〜〜〜

ときどき、「一度きりの人生なんだから、後悔がないように〜〜しよう」というキャッチコピーをみかけます。

たしかにそうだなと頷きたくなる反面、ふと疑問も浮かびます。

もし人生がn回(n > 1)あるとしたら、その〜〜は実行に移されるのだろうか。あるいは、無限回ならばどうか。

もし、人生が二回あるならば、おそらく一回目の人生は「捨てて」もOKと考えるのではないでしょうか。だとしたら、しがらみに束縛されず、思うままに行動を取るのではないでしょうか。ということは、その「〜〜」は実行に移されるのではないでしょうか。

ということを考えてみると、実際あまり意味のないキャッチコピーだということがわかります。

〜〜〜構えない〜〜〜

何かしら大きいこと、大切なことを伝えようとすると、ついつい身構えてしまいます。大威力の呪文を詠唱するのに時間がかかるように、脳内で大きな情報を構築してからそれをアウトプットしようとしてしまうのです。

しかし、残念ながら私たちは大賢者ではありません。そのような構築を脳内だけでできるほど優れた人間は、この世界にはほとんどいないでしょう。

だからこそ、ぱっと思いついた段階で、あまり大きなことを気にせずに、そのまま小さく書き出してしまう。それが有効です。でもって、それが「メモの極意」でもあります。

そうしてメモがたくさん集まれば、最初に書こうとしていた大きな構造にたどり着けるかもしれませんし、あるいは別の構造ができあがっちゃうかもしれません。それがどうなるかはわかりませんが、単に小さなメモで終わることはないでしょう。アイデアはつながっていきます。

「困難は分割せよ」

というのは大切な教えです。ブログ記事でも、マニュアル作りでも、読書感想文でも、偉大なる思想でも、同じことが言えます。

「身構えないこと」

それが動きをスムーズにする一つのコツです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、脳のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. 後悔しないように気をつけていることは何かありますか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。

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2018/08/20 第410号の目次
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○「足がかりはScrapboxで構築されうるか」 #物書きエッセイ
 次の本の執筆に向けた準備段階のお話。

○「〈考える〉と〈思う〉」 #リベラルアーツ再考
 「考える」という言葉について考えています。

○『Scrapbox情報整理術』構成の注意点 #物書きエッセイ
 新刊の構成で注意したポイントをご紹介。

○「出版のこれから」 #「本」を巡る冒険
 「本」についてのいろいろなテーマ。

○「あるはずのない広告」 #ショートショート
 読み切りのショートショートです。

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

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○「足がかりはScrapboxで構築されうるか」 #物書きエッセイ

先週号で、大型の付箋メモに書いたものを、WorkFlowyに転記した話をご紹介しました。その後、同じものを、Scrapbxoxにも入れました。今回は、そのお話の続きです。

まず考えたのは、保存の形式です。どのような粒度で、情報を保存するのか。いくつかの選択肢が考えられ、それぞれにメリット・デメリットがありそうですが、今回は1付箋=1ページの形を選択しました。

別のやり方として、付箋を貼り込んでいた落書き帳の1ページをScrapboxの1ページとし、付箋の中身をそれぞれのページに書き込んでく方法もありそうですが、その場合はいささか階層的になりすぎるかと考えて、今回はよりネットワーク志向な、言い換えれば断片性の強いやり方で進めることにしました。

さて、WorkFlowyでは、そのように項目を並べた結果、全体を分類する大きな項目が三つ(コンセプト、本文、素材)を見つけることができました。では、Scrapboxではどうなったでしょうか。

結論から先に書いておくと、どうにもなりませんでした。何も起こらなかった、というのは言い過ぎかもしれませんが、WorkFlowyで生じたような変化は生まれませんでした。

この点から改めて感じたのは、Scrapboxは(階層)構造化に向けたツールではない、ということです。言い換えれば、二つかそれ以上の小さな断片があり、それらを組み合わせることでより大きな(あるいはより高次の)構造へと至る、というツールではないわけです。

『Scrapbox情報整理術』では、Scrapboxを使って本を書きました。しかし、執筆の工程をすべてScrapboxで進めたわけではありません。最初の段階ではWorkFlowyを使い、全体の構造の見通しを立ててから、そこら生み出されたアウトラインをScrapboxに転記したわけです。つまり、Scrapboxに入った段階では、もうすでに(おぼろげであっても)構造は見えていました。

しかし、今回進めた方法では、Scrapboxに入れた時点では、文章的構造は頭の中にはありませんでした。そして、Scrapboxに、それらの断片を並べたところで、自然とその構造が立ち上がってくることもありませんでした。むしろ、そのような立ち上げを意図的に抑制するような役割が、Scrapboxにはあるのかもしれません。

では、Scrapboxは本の執筆には役立たないのでしょうか。

答えはイエスでもあり、ノーでもあると言えそうです。まず、イエスの面について言えば、執筆工程の、「文章を書き進める段階」においてはScrapboxは有用です。そもそも、テキストエディタさえあれば、大抵の執筆構成は進められるわけで、文章が書けるScrapboxもその工程を担えるのは自明のことでしょう。

しかも、Scrapboxではリンクが使えます。この点が、ノーマルなテキストエディタとの違いです。

たとえば、通常のテキストファイルであれば、第一章のファイルと第二章のファイルは別々に管理されるでしょう。Scrapboxでもそれらは別々のページとして管理されますが、それをリンクで繋げることができます。つまり、第一章のページの最後に第二章へのリンクを貼っておき、第二章のページの冒頭に第一章へのリンクを貼っておけるのです。そうすれば、ファイルを開き直すことなく、情報をつなげて(実際には連続的に)確認することができます。これは、プレーンなテキストエディタではなかなか難しいでしょう。

一見すると、ノーマルなテキストエディタのように振る舞いながらも、必要とあればリンクが使える。これがScrapboxの面白いところです。

以上が、Scrapboxが執筆でも役立つイエスの面です。

では、ノーの面はどうでしょうか。

先ほども書いたように、Scrapboxでは、二つかそれ以上の小さな断片があり、それらを組み合わせることでより大きな(あるいはより高次の)構造へと至るというプロセスは別段支援されていません。

この点は、Scrapboxの標準機能からもうかがえます。テキストを選択して、「New Page」を選択すれば、その内容を持つ別のページに「切り出す」ことはできるのですが、二つ以上のページを選択して、それを統合するような機能はありません(※)。
※最近追加されたマージという機能は、統合のツールですが、このような使い方のためのものであはありません。

基本的には、大きいものを小さくする機能がある一方で、小さいものを大きくまとめる機能はほとんどない状況です。言い換えれば、分割する行為は支援されているものの、統合する機能はさほど支援されていないわけです。つまり、統合ツールとして使うのは、かなりの困難を伴うことが予想されます。

そして、この点が、本の執筆構成作業に向いていないこともまた意味します。完全に不可能というわけではありませんが、シェイクのような上から下へいき、そこから切り返して下から上に向かい、さらに上から下に向かうというような行ったり来たりする構成の立て方はまったく向いていません。

逆に言えば、そうしたシェイクを入れない本の構成作業で良いならば、Scrapboxは役には立ってくれるでしょう。

総合的に見てみると、執筆という知的生産行為において、Scrapboxは大して役立たないような印象があるかもしれません。でも、視野を広げれば話は変わります。

執筆に着手するはるか前段階にある、「考えを広げていく」という工程においては、Scrapboxは有用に活用できるでしょう。言わば、「研究ノート」「情報カード」としての使い方です。

その点に関しては、8月26日に行われるイベントにて詳しく検討していく予定ですし、その結果もどこかで書くと思うので、楽しみにしておいてください。

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