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アイデア閲覧と検索の環境/太陽の塔とフォントのサイズ/The PARA Method その4

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2020/10/19 第523号

○「はじめに」

前回紹介した以下のポッドキャスト番組の第三回で、ゆうびんやさんの『日記のすすめ』が紹介されています。

番組制作を担当されている方と打ち合わせしていたら、「次回は、倉下さんが知っている方が登場されますよ」と教えてもらったので、一体誰なのかなとワクワクしていたら、本当に知っている人(というか、今noteで共同連載している人)でびっくりしました。

こうした番組によって、オーディオブックが盛り上がりつつも、セルフパブリッシング本の注目も上がってくれたらいいなと思います。

〜〜〜noteの読書感想文コンテンスト〜〜〜

noteにて、複数の出版社さん共同の読書感想文コンテストが開催されております。

課題図書から選ぶ形なので、自由度は高くありませんが、もしこの中で読んだ本があるならば、本の紹介のトレーニングがてらにチャレンジしてみてもいいかもしれません。

〜〜〜挫折の象徴としての分厚い参考書〜〜〜

自分の過去の体験を振り返っての話です。

だいたいにして、「新しい参考書を買うぞ!」という気持ちのときは、分厚いものを選びがちです。金銭的な制約がないならば、「これ一冊ですべてをマスター」的なものをついついチョイスしてしまうのです。

しかし、すでに何冊もの参考書をクリアしているのではなく、まだ一冊も完走した経験がないならば、分厚い参考書を選んでしまうのはミスチョイス以外の何ものでもありません。むしろ、挫折に向かってまっしぐら、といった感じです。

そうした状況で必要なのは、「とりあえず始めてみて、一冊をやり遂げる」経験です。一冊が終われば、同じ参考書をもう一周することで理解を深められますし、違う参考書を手に取った場合も、差異から特徴が見えてきます。なんにせよ、一歩前に進んでいるのです。

しかし、分厚い参考書は終わるまでに時間がかかりますし、1ページ進めたときの進捗感も小さくなってしまいます。継続には不向きな環境で、なかなか「一冊をやり遂げる」経験が得られません。

にも関わらず、私たちは強い決意を持っているとき、分厚い参考書を選びがちなのです。行動経済学で言うところの「不合理な選択」です。

だから、何かしら新しい決意を胸に秘めたとき、その計画(ないし選択)をする場合は、分厚い参考書を頭に思い浮かべてみてください。はたして自分はそれを選んではいないだろうか、と。

〜〜〜モーニング・コーディング〜〜〜

最近毎朝コーディングをしています。自分の作業環境を構築するためのコード書き作業です。

あらゆる執筆作業の前に、5〜10分程度時間をとり、ちょこっとだけコードを書きます。どれくらいちょこっとかというと数行くらいです。実現したい機能を小さく分け、それをさらに1/4程度だけ実装する。そういうミニマムなコーディングです。

当然、一日では目覚ましい成果は生まれませんが、その分、着手するために大きな決意を必要としません。しかも、それが毎日続くので、慣れ効果によって余計に着手のための心理的な敷き居は低くなります。

にも関わらず、何もしないことに比べれば、間違いなく進捗は生まれてくるのです。それが肝心ですね。

とにもかくにも、小分けがポイントです。少々ばからしく感じるくらい小さく分けるのです。そうすれば、気負うことなく作業に取り掛かれます。

でもってこの話は、分厚い参考書と対になる話でもあります。

〜〜〜まとめは次にいくためのステップ〜〜〜

とても嬉しいページができました。

これでアウトライン・プロセッシングに関する基礎的な話が誰でも確認できます。つまり、私たちはこれを土台にして、次なる一歩を踏み出せる、ということです。

でもって、ブログ文化に欠落していたのも、こうした次にいくための「まとめ」なのだと最近強く感じます。

〜〜〜本をリストアップするサービス〜〜〜

イラストレーター界隈では、「スケッチブック」(略してスケブ)という文化があります。ごく簡単に言えば、イラストレーターさんに簡単なイラストをお願いすることです。(サービスとして)無料の場合もありますし、有料の場合もあります。

で、同じようなことを物書き・文章書き・ライターに適用すると、どんなサービスができるかなとちょっと考えてみました。これが案外難問です。

小説家なら、好きなキャラクターでショートショートを書いてもらうとかになりそうですが、さすがにちょっと仕事量的にハードですよね。せいぜい、キャラ同士の会話を数行書いてもらうくらいが妥当でしょうか。

もっと難しいのは、小説家以外の文章書きです。ちょっとしたアウトプットで価値を生み出すのは、相当に困難な気がします。険しい道のりです。

というようなことを考えていたら、ふと思い出したことがあります。以前、小鳥遊さん(@nasiken)が、教養書をこれから読み始めるので、何かお勧めの本はありませんかとツイートされていたので、なんとなく面白がってもらえそうな本をいくつか推薦しました。

その後も、読み終えた本の感想を聞き、その次に読んだら良さそうな本をピックアップする、ということを繰り返しています(現在も継続中です)。

こういうやりとりって、もしかしたら仕事になるかもしれません。画一的なお勧めでもなく、またリファレンスを頼るような選書でもない。ある程度の好みと感想を把握して、本のリストを更新してくれるサービスです。

当然、何を勧めるのかは一人ひとりの読書家によって違うでしょうから、それでサービスの差異化も生まれるでしょう。相性みたいなものもあるかもしれません。

みたいなことを考えましたが、じゃあ自分でそれを仕事として展開するかというと、まあやらないわけですけれども。

〜〜〜アランちゃん〜〜〜

衝撃の発見をしました。

光文社新書は好きなレーベルの一つで我が家の本棚にもたくさんあるのですが、カバーなどに描かれているキャラにきちんと名前があったのです。

名前は「アランちゃん」というのですが、その由来についてはぜひ上の記事をお読みください。一瞬ネタ的な名前かと思いきや、一周回ってガチな名前でした。

〜〜〜分冊の是非〜〜〜

今執筆している『僕らの生存戦略』は電子書籍で発売しようと考えていて、当初は5万字くらいの小冊子以上書籍未満なサイズにしようかとたくらんでいたら、結局内容が膨らんできて12万字くらいになりそうだということがわかり、、さてどうしようかと頭をひねっておりました。

電子書籍なので、上下巻や1〜4巻の分冊もありと言えばありです。一冊あたりの価格も抑えられますし、必要なところだけ買って読めばいい、という判断もできるでしょう。

しかし、以下のツイートを拝見して考えを改めました。

まあ、そうなりますよね。連載ものでも、だいたい第一回が一番多く読まれて、回が進むごとに読まれなくなっていきます。せっかく「本」というパッケージにして、大切なことを伝えようとしているのだから、わざわざ読者さんが「とりこぼす」可能性を増やすのは違うな、と思い至りました。

手に取りやすい低価格版を作るなら、詳細を省いた「エッセンシャル版」を作ればよく、部分部分だけを読める枠組みは、少なくとも『僕らの生存戦略』には合わないと思います。

むしろ、電子書籍の分冊は「どれを読んでも一冊分の価値があるが、合わせて読むとさらに価値が上がる」という形に、始めから構成を整えて作った方が良さそうです。

〜〜〜今週見つけた本〜〜〜

『科学の人種主義とたたかう: 人種概念の起源から最新のゲノム科学まで』(アンジェラ・サイニー)

客観的だと思われている科学ですが、もちろん人間が行う営為なので、偏見を完全になくすことはできません。特に歴史を振り返ってみたときに、人種差別を念頭にした主張、あるいはそれを助長させてしまう論説があったことは確認されるべきでしょう。本書では、人種について科学で何が言えるのかを検討しているようです。ちなみに著者は、『科学の女性差別とたたかう』も著しています。

『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』(クリストファー・ライアン)

これはよく語られる難しい問題です。文明が発展したことによって、豊かで安全な生活を送れるようになった反面、地球環境を壊し、貧富の差はこれまでになかったくらいに拡大しています。はたしてそれは望ましい文明の発展だったのでしょうか。とは言え、そうした考察ができること自体が文明の発展に支えられていることも間違いないので、そう簡単に悪いことだと断じられるかどうかは微妙なところです。

『中年の本棚』(荻原魚雷)

紀伊國屋書店の小冊子「scripta」で連載されていた読書エッセイの単行本化です。何となく悲痛な雰囲気が漂うタイトルですが、中年に足をどっぷりとつっこみつつある私としても、無視できないテーマではあります。「小説・エッセイから自己啓発本・実用書まで、中年期に書かれた、あるいは中年をテーマにしたありとあらゆる本を手に思考をめぐらせた」とあるので、ブックガイドとしても面白く読めそうです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 最近何か情報をまとめた経験はあるでしょうか。それは何についてのどんなまとめでしたか。

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○「アイデア閲覧と検索の環境」 #知的生産の技術

今回は、最近の私の「アイデア環境」をご紹介しましょう。

といっても、とある環境変化のせいで(具体的にはEvernoteのアップデートでAppleScriptがまるっと使えなくなったせいで)、現在の環境はさらに変化しているのですが、それまでは以下で紹介する環境でうまくやっておりました。

ちなみに、なかなかデジタルな方法だと思います。

■作業記録にメモする

まず、何かアイデアを思いついたら、作業記録にそれをメモします。ここで指すメモは、文章化されたメモではなく、一行だけの見出しメモです。そのメモを、連番のナンバリングと共に書き込みます。

具体的には以下のようなメモです。

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「アルゴリズム」の対立項は何になるだろうか。

もし、見出しメモにタイトルがある場合は、ナンバリングの後にそれが記述されます。具体的には以下のような形です。

1044 排他的多様性
明らかに矛盾しているが、企業や個人などが説く「多様性」は、特定の他者を完全に除外した後の多様性な気がしてならない。それは、多様性っぽいものであって、むしろ多様性から一番遠いものではないだろうか。

ちなみに、長く蓄積した結果として、できるだけ見出しメモにもタイトルをつけておいた方がよいことがわかりました。それは、書き留めたアイデアの閲覧のときに効果を発揮するのですが、その点は後ほど紹介しましょう。

ともかく、その日に思いついたことは、そのジャンルがなんであれ、すべてその日の作業記録ノートに集中的に書き込んでいきます。

■すぐに作業記録に書き込めないときは

私は作業記録にEvernoteのノートを使っていました。で、Evernoteなら一応iPhoneからでも書き込むことはできますが、積極的に行いたい動作ではありません。また、単純に見出しメモを書き込んでる時間がないときもあります。

そのような場合には、直接Evernoteのノートに書き込むのではなく、いったんWorkFlowyのデイリー項目に書き込んでいます。

デイリー項目の上部は「その日やること」で埋まっていますが、下の方に「--------memo---------」という項目があり、その下部に(下位にではなく)未処理の情報を書き込むようにしています。「見出しメモ」や「文章メモ」にできていないメモたちも、そこに書き込まれます。

超理想的な状況では、その日の「--------memo---------」の下部に書き込まれたメモはすべて処理されて空っぽになるわけですが、現実的日常ではやはりそううまくはいきません。処理できないメモはどうしても出てきます。

そういう場合は、デイリー項目の下部にある「▶︎Think notes」という項目の下にそれらの未処理メモを移動させます。

文章でごちゃごちゃ書くよりも、以下のページから画像をご覧いただくほうが早いかもしれません。

その日のデイリー項目と▶︎Think notesの項目は階層が揃っているので、移動させたいメモ群を選択状態にし、ショートカットshift + command + ↓を押せば、すぐにデイリーから▶︎Think notesにメモが移動してくれます。

で、一日が経つ度に、この▶︎Think notes項目は保有項目が増えていきます。当然、この中から取り出されて処理されることもありますが、一日の中に「▶︎Think notesの中身を処理する」という時間は設けていないので、何もしなければ基本溜まりっぱなしになる場所です。

言い方を変えれば、「基本的に放置されることが決定しているinbox」がこの▶︎Think notesという項目の役割です。

まずここで、一段回目のフィルタリングが行われていることに注目してください。私はすべてのメモをこの▶︎Think notesに保存しているわけではありません。あくまで「その日のうちに処理できなかったもの」を移しているだけです。

でもって、「その日のうちに処理できなかったもの」は高確率で、「たいしたことがないメモ」です。よほど疲れているときは除いて、あえて処理するための手間をかけようとはしなかったメモで、そうしたものを積極的に処理していっても、大きな成果は望めません。特に、メモの処理にかけられる時間が限られているならなおさらそうです。

とは言え、そうしたメモをゴミ箱に捨てているわけではありません。保存はされていますし、しかも日々参照するデイリー項目の直下に置いています。移動して間もないものは、ちょこちょこ目に入ったりもします。

しかし、新規項目は上に追加されるので、もともと上にあったものでも、時間が経つとどんどん下に追いやられ視界に入らなくなります。ずっと私に向けて「処理せよ」と迫ってくるわけではないのです。

この保存しつつも、利用可能で、近日のものくらいなら目に入る、という切り分けができるのが、デジタルならではの特性でしょう。

■一日が終わった後の処理

そのようにして、私のメモは、作業記録に書かれるものとWorkFlowyに書かれるものとして蓄積されていきます。

そのうち、作業記録に書かれたメモは一日の最後に「処理」されます。具体的には、Evernoteの作業記録ノートから、上で示した連番が振られているメモだけを抽出し、自作のWebツールで表示できる形式に変換されるのです。
*具体的にはjson形式のデータとなります。

しかるのちに、そうして作成されたデータがサーバーにアップされて、いつでも閲覧可能となります。

ここでデータは三つに分かれます。

まずEvernoteに蓄積している日ごとのノートで、そこにアイデアメモが含まれています。

次に、そのEvernoteから抽出したテキストデータで、そのテキストデータが変換されてjsonファイルが生成されます。その(一枚の)テキストファイルには、すべてのアイデアメモが含まれています。

最後に、テキストファイルから変換したjsonファイルで、上のテキストデータと(情報的には)同じものが含まれていますが、人間が読みやすい形にはなっていません。その代わり、そのファイルをサーバーにアップすと、一つひとつのアイデアがカード形式で表示されるページとなります。

このように、私は毎日Evernoteのノートにアイデアを書いているだけなのに、それを利用するための異なるデータが日々生成されていく、というのがデジタル的な特徴だと言えるでしょう。

■それぞれのデータの役割

これら三つのデータは、それぞれに役割が異なっています。

まず、Evernoteのノートは「一日」の情報を保存するものであり、「その日」のアイデアを確認するものです。

日中作業記録を書いていると、当日の記録を振り返ることもあり、そのタイミングで「その日」書いたアイデアを振り返れます。また、後日そのノートを振り返ったときは、アイデアメモ以外の情報に触れることもできます。総合的・統合的な情報です。

一方、アイデアメモだけを抽出したテキストファイルは、アイデアメモ以外の情報は抜け落ちていますが、代わりに日ごとに情報が分断されることなく一連の塊として閲覧することが可能です。

これは、通時的にアイデアを振り返る際にたいへん便利です。Evernoteで特定のキーワードで検索した場合、それが含まれるノートはリストで閲覧できますが、それぞれのノートで具体的にどう記述されているのかはノートにフォーカスを移動させるまではわかりません。

一方、テキストファイルなら、単にcommand + fで検索すれば、それが含まれる箇所を次々見ていくことができますし、grep検索すれば、そのキーワードが含まれる行だけを抜粋表示することも可能です。自分の思いつきの全体的統合がそこにはあるわけです。

最後のjsonファイルは、そのままでは人間の閲覧に不向きですが、その代わり、単純なテキスト表示ではなく、(大げさにいえば)ビジュアライズされた状態でアイデアを閲覧できます。

この閲覧では、具体的な何かを探すのではなく、(テレビ視聴における)ザッピングのような姿勢でアイデアを見返すことが可能です。

また、そのザッピング閲覧の際に、タイトルがついていると強力なのです。いちいち中身を読まずに、タイトルだけをつつ〜と追っていけるからです(だからできるだけタイトルをつけた方が良いわけです)。

また、本文のフォントサイズに比べて、タイトルのそれを大きくしておくことで、より「タイトルだけを流し読み」がしやすくなる特徴もあります。これも、単純なテキストファイルではなかなか実装できないことです。

■さいごに

このように、私自身は単一の場所に入力するだけで、閲覧のスタイルに合わせたデータを作成できるようになっています。こうした使い分けができるのが、デジタルにおけるノーティング(ノートを取るという活動のこと)の面白さでしょう。

少なくとも、こういうスタイルはアナログツールではどだい無理か、ないしは手間がかかりすぎます。しかし、見た目の違いや保存のされ方の違いは、情報の利用に大きな影響を与える要素です。せっかくデジタルではデータをさまざまに加工できるのですから、その力を最大限に発揮させていきたいところです。

もう一点、データが複数に分かれることには、「アイデアのログ性と素材性」的なメリットがあるのですが、その点については次回書くとしましょう。

(つづく)

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