課題を寝かせる/ブログと晩御飯/知的生産の技術本はいかに書かれるべきか
Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2019/06/10 第452号
はじめに
はじめましての方、はじめまして。 毎度おなじみの方、ありがとうございます。
現在、プライベートが忙しい状況になっており、タスクやら割り込みスケジュールやらが爆発的に増えています。睡眠時間的にも、あまり良い状態とは言えません。
というわけで、仕事のタスクに関しては、必要最低限の量に留めて、進行しています。ほんとうに、ごくわずかだけの実行。
状況としては、まったく「自分の思い通り」にはなっていませんが(なにせ一週間の予定みたいなものは見事に崩壊しています)、それでも、コントロール感のようなものはギリギリキープできています。
それはおそらく、「プライベートタスクが逼迫しているから、仕事タスクは必要最低限に抑えよう」という調整という行為がもたらしているのでしょう。
逆に言えば、そうした調整すらもできなくなってしまうと、コントロール感は失われ、いわゆる「タスクに追いかけられている」(あるいは「タスクに追い立てられている」)状況になってしまうのだと思います。
よくよく考えれば、私たちの体は常なる「調整」を行っています。
たとえば、ごく普通に歩くときでも、単に足を前に突き出すだけなく、地面の硬さやデコボコからフィードバックを受け、足の踏み出し方を無意識で「調整」しています。その他の動作でも、基本的には同じでしょう。
そして、そういうことができているとき、私たちは自分の体に違和感を覚えません。つまり、状況を意のままに操ることではなく、状況からの影響を調整してアクションを変えられること。それが、人間感覚における自然なコントロール感なのではないかという気がします。
〜〜〜些細な疑問〜〜〜
Gmailをブラウザで開くと、「ソーシャル」や「プロモーション」のタブには広告が表示されます。
無料で使えているのですからそれ自体はぜんぜん構わないのですが、広告が表示される際、一瞬だけローディングのような間があったときに、ふと気になりました。
こうした「最適な広告」を表示するために、世界中のパソコンのパワーがどれだけ使われているのだろうか? と。
もちろん、私のパソコンに2つの広告を表示することくらいは些細なものでしょう。しかし、世界中のGmailユーザーのパソコンで同じ処理が行われています。そして、「最適な広告」が表示されるのはGmailだけではありません。検索結果、Web記事などにおいて、大量に広告が表示され、そのたびごとに何かしらのアルゴリズムが走っているわけです。
そうした「最適な広告」の表示は、Googleに莫大な売上げをもたらしているわけですから、パソコンのパワーはペイできているのかもしれません。ツールを使うユーザーもそれによって無料で使えているので、文句を言える筋合いはないでしょう。
ただ、問題は、そうして表示される広告の広告効果です。言い換えれば「最適な広告」って本当に最適なのだろうか、という疑問があるわけです。
世界中のパソコンのパワーを大量に使いながら、しかし、心が躍り、ついついクリックしたくなるような広告は表示されていない。
この状況って、本当に適切なのだろうか、という気がしないではありません。インターネットの未来というのは、はたしてこの方向だったのか、と。
まあ、気になってクリックしてしまう広告ばかり表示されたら、それはそれで困りものなわけですが。
〜〜〜疲れと決断〜〜〜
あくまで印象ですが、どうも人が疲れているときには、極論が出やすい傾向があるようです。
「AだからBだ!」のようなまったく留保のない意見となり、しかも、そのBに極端なものが当てはまりやすい──そんな状況です。「俺はもうダメだ」みたいなのも、同じ系列ですね。
基本的に、そうした意見は現実にそぐわないものが多いので、あまり出したくはありません。
とは言え、こうした傾向は、人間の(脳の)体力的に致し方ない面はあるでしょうから、疲れているときには大きな決断はしない方がよい、というアドバイスを心に留めておくくらいが対策なのでしょう。
あるいは、他の人に積極的に相談する、というのも状況を緩和させてくれる一手かもしれません。その相手が疲れていなければ、ですが。
〜〜〜質問返し〜〜〜
「それって何の役に立つのですか?」
「その質問は何の役に立つのかお答えくだされば、お答えします」
〜〜〜text digger〜〜〜
次の次の本に向けて、2015年に連載で書いてた原稿をEvernoteから発掘しています。
で、やはりこういう使い方ではEvernoteはたいへん便利です。ノートブックを選択し、そこからタグなりキーワード検索で絞り込む。
その後はテキストを全コピーしていってもいいし、数が多いならAppleScriptを使うことで、50以上のノートの本文を一気に取得することも可能です。少なくとも、Scrapboxはあまりこういう使い方に適していません。やってやれなくはないですが、「むっちゃ便利!」ということにはならないでしょう。
だからまあ、ツールは使い分けが基本となりそうです。ひとつですべてを満たす、というのは基本的には幻想なのでしょう。
〜〜〜ちょっと考えれば〜〜〜
「こんなの、ちょっと考えれば騙されないよね」
と思うことがたびたびあります。でも、前提条件はしっかり詰めておきたいところです。
まず、「ちょっと考える」には、そのための思考力が必要です。上記のように思うときは、万人が等しい思考力を有していることが前提になっていますが、実際はそうではないでしょう。数字や論理や統計に強い人と、そうでない人がいます。そうでない人が、ちょっと考えても、成果は得られないでしょう。
また仮に、基礎となる思考力を持っている人であっても、ちょっと考えるための時間や余裕がなければ、その力は発揮されないでしょう。でもって、何かを騙しにかかってくる主体は、常にその「ちょっと考えるための時間や余裕」がない人を狙い打ちにして、そうでない人は余裕がない状況に引きずりこもうとします。
だから、自分の対策としては、なるべく基礎的な思考力を身につけ、ちょっと考えるための余裕を持つように心がけながら、しかしうっかり騙されてしまった人を自己責任と責め立てないようにする、ということが大切なのかなと思います。
〜〜〜Q〜〜〜
さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、脳のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。
Q. これまで読んだ知的生産の技術系の本の中で、「面白く」読めた本は何かありますか?
では、メルマガ本編をスタートしましょう。
今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。
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2019/06/10 第452号の目次
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○「課題を寝かせる」 #BizArts3rd
タスク的なものの扱い方について。
○「ブログと晩御飯」 #物書きエッセイ
この二つって、似てるんです。
○「知的生産の技術本はいかに書かれるべきか」 #知的生産の技術
次を見据えた企画案を構築中。
※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。
○「課題を寝かせる」 #BizArts3rd
先日、R-styleのWordPressテーマを変更しました。令和が到来した記念です。
嘘です。
単に変えたい気分だったからです。どうも、周期的にそういう気分が訪れてしまう性分なのです。単に飽きっぽい性格なだけかもしれません。
とは言え、まったくノーリーズンだったわけでもありません。以前のテーマに違和感を持っていたことが起因しています。
■メディアの方向性
以前のR-styleのテーマには、Honkure( http://honkure.net/rbook/ )と同じものを当てていました。「Stacker」というカード型のテーマで、本やメディアなどを一つひとつ紹介していくサイトにはピッタリのデザインです。
そのHonkureがなかなかかっこよく仕上がっていたので、同じテーマをR-styleや他のブログにも当て、すべてのブログのテーマを統一するという計画を思いつきました。ブログ大統一場理論です(理論ではない)。
試みとしては非常に面白いものでしたが、それが違和感の元でした。結論を先取りしておくと、R-styleとHokureとはメディアの方向性が違っていたのです。
時系列順には特に意味はなく、また粒度があらかじめ固定されている(1記事=1メディア)Honkureでは、「Stacker」のデザインはうまくマッチしていました。しかし、粒度がバラバラであり、しかも読み物主体であるR-styleでは、カード型で記事が並んでいても、あまり面白みはありません。
それよりもむしろ、「縦に一列に並ぶ」といういわゆる古めかしいブログのスタイルがよいのではないか。そんなことをふつふつと考えていたので、新しいテーマとして「Treville」を選択しました。
まだまだ手を加える必要はあるものの、今のところは満足しています。やはり、コンテンツ・メディアの方向・デザインは、マッチさせる必要があるのでしょう。万能の一つがあれば、すべてが解決、というわけにはいかないようです。
■湧き上がる課題たち
さて、ここからが本題なのですが、R-styleのテーマを変更した後に、たくさんの「課題」が生まれました。細かいデザイン上の変更や、機能で微妙に気になる点がわんさか飛び出てきたのです。
もちろん、それらを一気に片付けることはできませんので、「記録しておき、順番に片付ける」というリスト化の手法を採りました。タスク管理の初歩中の初歩です。
しかしながら、「タスクリストを作り、そこに登録」という形にはしませんでした。やったのは、「課題」の形で「気になったこと」を書きつけておいただけです。
(以下のページの中ほどのその書き付けがあります)
この「書きつけ」は、広義の意味ではリストであるものの、「次にやることリスト」ではありません。実行日の設定もなく、優先順位なんてもってのほかです。気になっている事柄ではあっても、タスクではないのです。まだ、その時点では。
■タスク化の弊害
「いや、こうして〈やること〉を書きつけているんだから、これはタスクリストみたいなものだろう」
という意見はあるでしょうし、その意見は半分あっていますが、もう半分は間違っています。なぜか。
たとえば、こんなことがありました。新しいテーマ「Treville」であ、ホーム画面の上部に「スライダー」が設置できます。いまどきのWebサイトでよく見かける、スライドショー型の記事紹介ガジェットです。
せっかくなので、R-sytleもそのスライダーを設置していたのですが、気になることがいくつか出てきました。
・この「スライダー」にどんなカテゴリの記事を表示させればいいのだろうか?
・スライダーの記事紹介内に「Rashita」という投稿者名が表示されているが──ここでは私しか書かないのだから──消してもいいだろう。
・タイトルが長い記事の場合、上が切れていてうまく表示されていない。
その「気になること」を書き留めたものが以下です。
・スライダーで表示させる記事の選定
・スライダーの投稿者表示を消す
・スライダーの高さ(タイトルが二行だとうまく上の部分が表示されていない)
私がもしこれらの「気になること」を素直に処理したら、それぞれがタスクとなり、すぐに片付けられそうなものから取りかかったことでしょう。「スライダーの投稿者表示を消す」は、該当部分のコードを削除するだけなので、すぐさま実行に移されていたと予想します。
逆に、「スライダーで表示させる記事の選定」は、時間がかかりそうなので、毎日少しずつ考えるというリピート・タスクに変換していたかもしれません。これも合理的な取り組み方です。
最後の「スライダーの高さ」については、なぜそんな表示になっているのかをコードを読んで理解しなければ解決できません。もしかしたら、非常に込み入った状況になっている可能性もあります。ちょっと尻込みしてきますね。
では、実際にはどうなったでしょうか。
R-styleの記事には、アイキャッチ画像はほとんどつけないのですが、たまたま「かーそる第三号」を紹介する記事に表紙画像を設定したところ、即座に「スライダーの高さ」問題が理解できました。ある程度高さがあるアイキャッチ画像がつくと、綺麗にタイトルが表示されるのです。
アイキャッチ画像が設定されていない記事についてはダミー用の画像が表示されるのですが、その高さが若干低く、タイトル部分が隠れてしまう事態が起きてしまう。そういう問題でした。
逆に言えば、この「Treville」テーマのスライダーは、毎記事にアイキャッチ画像をつけることが前提となっています。
しかし、私にとってその作業は面倒なものです。書評記事に表紙画像をつけるくらいなら問題ありませんが、毎日の更新にアイキャッチ画像を設定するのは無理ゲーです。
ということは、細かいデザイン上の調整をするのではなく、いっそ「スライダー」を撤去する手もあるのではないか?
そんな考えが浮かんできました。
もちろん、それも一つの選択でしょう。
■固定化するタスク
さて「サンクコストの呪縛」という概念をご存じでしょうか。
サンクコストとは「既に回収が不可能であるコスト」のことで、人はついついそのコストを計算に入れて決断を行ってしまう、というのが行動経済学が提唱する「サンクコストの呪縛」です。
たとえば、私が「スライダー」に関してさまざまな細かいタスクを実行し、さらにそれについて毎日考えていたとしましょう。仮にそのような状況になったとして、「いっそスライダーを撤去する手もあるのではないか?」と思いつけたでしょうか。
おそらく、簡単にはいかなかったでしょう。なにせ必死に手間暇かけたコストがそこにあるのですから。
あるいは、こんなページもあります。
なかなか刺激的な内容ですが、個人的には非常に納得できます。
上のページでは「ユーザーから来る機能追加要望はだいたい間違っている」とユーザー:開発者の構図になっていますが、タスクを思いつく自分:タスクを実行する自分の構図に置き換えても同じことが言えるでしょう。自分が思いついたタスクが、自分が実行すべきタスクとイコールではあるとは限らないのです。
私がもし「R-styleにスライダーはいらない」と決断したら、さまざまな関連タスクは、即座にゴミ箱行きです。効率的にすばやくタスクを実行済みにしていたとしても、それらが一気に無に帰すのです。これは、全体的にみれば、ぜんぜん効率的とは言えないでしょう。
■タスクとして扱う/扱わない
つまりはこういうことです。
もし気になった課題を、そのままタスクリストに登録してしまうと、それは「やるべきこと」として確定されてしまいます。言い換えれば、そのタスクリストの中では、スライダーの設置は暗黙の前提になってしまうのです。
そして、細かくできる作業を積み重ねれば積み重ねるほど、その暗黙の前提を疑うのは難しくなります。「せっかく見栄えが良くなったしな」という気持ちが、「R-styleにスライダーはいらない」という決断を遠ざけてしまうのです。
そういう状態になるのが怖かったので、私は「気になったこと」を単に書き留めておくに留めて、それを「タスク」としては扱いませんでした。
なぜなら、R-styleのテーマを変えた時点では、さまざまなものが未確定であり、しかも相互作用していたからです。
「スライダーを使う?使わない?」「マガジン・ガジェット使う?使わない?」「スライダーに何を表示させる?」「マガジン・ガジェットに何を表示させる?」
このようなふわふわしている状態で、それぞれの要素(スライダー/マガジン・ガジェット)に関する「気になること」をタスクとして登録しても、どう転ぶかはわかりません。というか、どう転ぶかわからない状態を維持したいために、タスクとしては登録しなかったのです。
■課題の相互作用
もう一つ、別方向の話もあります。
気になったことを「課題」として書きつけていた中の一つに、上にも出てきた「マガジン・ガジェット」の扱いがありました。マガジン・ガジェットとは、特定のカテゴリーの記事を、Honkureのようにカード型(セル型)で自動的に表示してくれるガジェットのことです。
今のところは、「本の紹介」カテゴリーの記事を表示するように設定してありますが、「これで良いのだろうか?」という疑義は残っていました。何か違うものがいいのではないか、という気がしていたのです。
でもって、ぜんぜん違う方向から記録していた「課題」がこれに反応しました。セレクション記事に関する課題です。
かなり長く更新を続けているので、R-styleもそうとう記事数が多くなっています。そのままでは、一見さんはきっと戸惑うに違いありません。
というわけで、「このテーマなら、この10記事だけとりあえず読んでみて」のような、セレクションの記事を作ろう、と思いつきました。全部は読まなくてもいいから、これだけ読めばエッセンスは掴めるよ、を紹介する記事です。
当初これは、投稿ページではなく固定ページとしてメニューバーに表示させようと考えていたのですが、あるとき突然、ほとんどなんの脈絡もなく、「それ、マガジン・ガジェットでいいのでは?」という閃きがやってきました。
で、完成形を想像してみると、「すごく良さそう」という気持ちになってきました。
ほとんど断言してもいいくらいですが、私がもし「固定ページに、セレクション記事を作っていく」とタスク化したり、あるいは「セレクション記事作成プロジェクト」というプロジェクトを作って、その下に「Evernote紹介のページを固定ページに作る」「Scrapbox紹介ページを固定ページに作る」のようなタスクを設定したら、「それ、マガジン・ガジェットでいいのでは?」という閃きはすごく遠ざかっていたことでしょう。
特に、数ページ作ってしまった後であれば、その遠ざかり方はさらに強まっただろうと予想できます。やはり、サンクコストがそこに発生しているからです。
■まとめ
今回のお話から得られる教訓はなんでしょうか。「タスクを登録してはいけない」? もちろん違います。
私がもし、使い慣れたR-styleのテーマに関して、何か気になることを思いついたら、それをタスク化してツールに登録していたでしょう。それが、その「気になること」を達成するために一番確実性の高い方法であるからです。
でもってそれは、その「気になること」が、たしかに「やること」であると、私が疑っていないからでもあります。疑う必然性がない、という言い方もできるでしょう。
逆に言えば、その確信が不確かなものならば、それを達成しようとやみくもに「処理」を進めるのはあまり効率的ではないかもしれませんし、創造的ではないかもしれません。先走った「固定」が行われ、しかもそれが徐々に変更しにくくなる可能性が出てきます。
そこで、そうした状況を回避するために、課題を寝かせておくのがポイントとなります。
思いついた「気になったこと」が、まだ明確な輪郭線や実行の確定性を持たない場合は、いったんそれを書き留めるだけ書き留めておいて、処理に関しては保留にしておく。そして、それらを眺め、何かを考えたり、情報を集めたりする。
その結果で下される決断ならば、思いついた直後の決断よりも、より適切さが期待できるでしょう。
つまり、間です。
着想と実行の間。
これを作ること。
「実行の数を最大化していく」という理念のもとでは軽視されがちな「間」ですが、「気になること」が多すぎる現代においては、むしろこの「間」の方が重要ではないかと考えています。
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