Weekly R-style Magazine 「読む・書く・考えるの探求」 2018/11/19 第423号
はじめに
はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。
締切です。締切が迫っています。
って、先週も書きましたね。
とりあえず、手持ちの時間をほとんど投下して原稿作業を行う日々です。幸いなのは、「詰まっていてなかなか進まない」という状況ではなく(これがストレス溜まるんですよ)、「あれを書いて、あの部分は書き直して、それとこれを接続する」とはっきり進むべき道が見えていることでしょうか。
こうなったら、あとはもうひたすら書くだけです。
まったく個人的な印象ですが、かなり面白い本になりつつあります。お楽しみに。
〜〜〜進捗と文字数〜〜〜
書籍執筆というのは、たとえば10万字なら10万字のテキストを書き上げる、という作業になるのですが、問題は「文字数」というのが指標になりにくい点にあります。
文章を書くためのメモも、文章なので、それを書きつけると文字数は増えます。でもそれは、文章以前の状態なので、しっかり文章に直すと、文字数が増えたり、あるいは極端に減ったりします。安定的な増加ではありません。
おそらく、グラフを書けば、株式チャートみたいなジグザグ模様で完成文字数に向けて進んでいくのではないかと想像します。
なので、「文字数を増やす」ことだけを考えていると、文字数が減ったときに精神的ダメージが発生してしまうので、文字数以外の進捗感を得るための指標も確保しておきたいところです。
単純な作業量(作業時間)とか、コミットした回数とか、あるいはメモと完成原稿を分けるとか。いろいろ工夫はありそうです。
〜〜〜低評価〜〜〜
ふと思いました。
アマゾンで低評価が付いていたから無益な本を読まなくて済んだ」というのと「低評価が付いていたせいで有益な本を見逃してしまった」というのと、どちらが多く発生するだろうか?
というのも、自分にとって無益な本は、星評価が付いていなくてもだいたいそれと分かるからです(星5つ評価がついていても分かります)。つまり、低評価が付いていたことによって、はじめてそれを避けることができた、という現象はあまり考えられません。
そもそも、本を買う/読む、という行為は、欲しいという欲求が一定の閾値を超えたものに対してのみ行われるので、低評価がついていようがいまいが、買わないものは買いません。逆に、低評価がついていても欲しい本はやっぱり買うでしょう。
しかし、欲しい/欲しくないの微妙なライン(若干欲しい寄り)というのもあって、これが低評価の影響を受けてしまうことは考えられます。
もし、Amazonの書籍ページからすべての星が消えたら(ただしコメントは残る)、人々の購買傾向はどう変わるのでしょうか。そういう実験をしてくれると面白いのですが。
〜〜〜今週見つけた本〜〜〜
今週見つけた面白そうな本を二冊ご紹介。内容紹介はAmazonページよりの引用です。
『歩行する哲学』(ロジェ=ポル ドロワ)
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歩く(=倒れかけては持ち直す)、この動きのなかに人間が言葉をつかって考えるときの「隠された型」がある。プラトンからニーチェ、ウィトゲンシュタインまで哲学者27人を「歩く」観点から照らし出し、思想の「生きた動き」そのものを伝える驚くべき哲学入門。
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『日本の伝統 発酵の科学 (ブルーバックス)』(中島 春紫)
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味噌、醤油、納豆、清酒、酢、漬物、鰹節──。微生物を巧みに使いこなし、豊かな発酵文化を築いてきた日本。室町時代にはすでに麹菌を造る「種麹屋」が存在し、発酵の技術は古来から職人技として受け継がれてきました。多様な発酵食品の歴史をたどりながら、現代科学の視点からも理にかなった伝統の技を紹介、和食文化を支える世界に類を見ない多彩な発酵食品、その奥深い世界へと読者を誘います。
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〜〜〜口頭読書メモ〜〜〜
音声入力での読書メモについてご質問をいただいたので、それに答えてみます。
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最近当メルマガで『ホモ・デウス』を読み込む連載をお送りしていますが、毎回それぞれの章について書く前に、その章についての読書メモを作成しています。
で、そのときに音声入力が活躍しています。
まず、紙の本で普通に読みます。で、気になった部分は赤ペンで傍線を入れたり、何かしらの印を打ちます。自分で考えたことのメモは欄外に記入します。
そして、しばらく後に読書メモの作成です。
使うのは、MacかiPhoneです。
まずMacから。
その本のページをScrapboxに作ります。今回の例なら、「『ホモ・デウス』」というページです。そこに書籍情報を書き込み、「『ホモ・デウス』の読書メモ」、というページの空リンク作ります。
で、その空リンクをクリックして、ページ作成へ。さらにそのページの中に、「『ホモ・デウス』第1章読書メモ」、という空リンクを作って、それを踏みます。
ここからが音声入力です。
Macで、fnキーを二回トトンと押すと、音声入力がスタートします。自分で赤線を引いた箇所を、Macの前で読み上げます。iPhoneの純正イヤフォンはマイクもついているので、それを接続しておけば、そんなに大きな声を出さなくても大丈夫です。
普通にテキストタイプする場合は、面倒さが先に立つので、傍線を引いた部分だけを転記しがちですが、読み上げるだけならば大した手間ではないので、一つの文章をまるごと、ときには前後の部分までしっかり読み上げます。
ついでに、自分が書いたメモも一緒に読み上げます。
残念ながら、変換精度は完璧とは言えません。よって、そこに書き付けたものをそのまま引用として使うのは厳しいものがあります。後々引用として使用するものは、音声入力した後で、本文と照らし合わせて細部のチェックが必要です。
が、単にこういうことが書いてあって、面白かったな、というのを残すだけならば、多少の間違いはスルーします(どうせ本を書くときには、もう一度原典を当たるので、この時点であまり細かいことは気にしないようにします)。
以上が、Macでの音声式読書メモ作成方法です。
iPhoneでやる場合もあります。その場合は、直接Scrapboxには入力せず、まずFastEverで音声入力します。なぜかと言うと、iPhoneのSafariだとScrapboxへの音声入力が若干面倒だからです。押さなければいけないボタンがいくつか増えるだけなのですが、iPhoneでその手間は若干重いのです。
なので、FastEverを立ち上げて、後は同様に傍線箇所を読み上げていきます。入力が終わればEvernoteに送信し、あとでパソコンを開いたときにScrapboxにコピペして終了です。
iPhoneの場合は、自由な体勢──たとえば寝転びながら──でメモが作れるのがいいですね。「もう、パソコンなどに向かい合いたくない!」みたいなテンションのときは、iPhoneでの音声入力が活躍します。
だいたいこんな感じです。
〜〜〜BookWalkerへの不満〜〜〜
今の所、電子書籍はKindleとBookWalkerの二本柱で読んでいます。実用書系はKindle、ライトノベル系はBookWalkerの使い分けです。
BookWalkerは、日本企業提供ということで、漫画などシリーズ物がある作品の扱いに非常に長けています。Kindleはその辺がまだまだ弱いですね。
逆に、BookWalkerは、読書メモが致命的にダメです。
Kindleであれば、Webサイトでハイライトとメモが一覧できますが、BookWalkerにはそのような機能が見当たりません。小説の中に気に入ったフレーズがあっても、それをあとからEvernoteやScrapboxにまとめる、ということが非常にやりにくいのです。つまり、知的生産向きではないのです。
Kindleも「無茶苦茶使いやすい」とまでは言えませんが、自分のメモを知的生産用に使えない電子書籍プラットフォームに比べればずいぶんマシです。
せめて、BookWalkerへでも、ハイライト箇所をWebから一覧できる機能くらいは実装されて欲しいと感じます。
〜〜〜Trickle〜〜〜
最近、Trickleというアプリを使い始めました。
自分のアクティビティ(活動)を記録し、それを他の人と共有する、というサービスです。
タイムラインがあるので、一見SNS的ではありますが、その実体は結構違っています。Githubのような芝(草)による履歴の視覚化機能もあるので、淡々と自分のアクティビティを記録していくためのツールと位置づけるのがよいのでしょう。
とは言え、SNS的に使うこともできますし、メモ帳的に使うこともできます。一時期あこがれて何度かチャレンジしていた一人Slackと近しいこともできるかもしれません。私は、タスク管理的にも使っています。
とは言え、本流はSNSではないので、爆発的に広まる、ということはおそらくないでしょう。でも、だからこそ、こっそり楽しめる感じがGoogです。
〜〜〜Macのコピーが便利〜〜〜
上のTrickleというサービスは、現状アプリからしかアクセスできません。
なので、読んでいるWebページとかを共有するのが結構手間だったりします。
が、そこはMacとiPhoneです。
Macでコピーしたテキストは、同じWi-FiにつながっているならiPhone(もちろん自分のiPhoneです)のクリップボードにも入ります。
なので、MacでURLをコピー、iPhoneのTrikcleでペースト、というのが簡単にできるのです。
まあ、そんなことするくらいならTwitterでええやん、という内面的ツッコミも入るわけですが、案外この機能は便利です。
〜〜〜Q〜〜〜
というわけで、今週のQ(キュー)ですが、本文のどこかに潜んでいますので、見つけたら頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。
では、メルマガ本編をスタートしましょう。
今週も四つの連載でお送りします。
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2018/11/19 第423号の目次
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○「FlowboxからAllboxへ」 #物書きエッセイ
Evernoteの使い方の変容をご紹介しています。
○「Evernoteのタグ」 #新しい知的生産の技術
Evernoteのタグ機能について。
○「はじめての新書」#物書きエッセイ
「はじめての新書」という小冊子を読んで考えたことを。
○「『ホモ・デウス』を読む 第9回」#今週の一冊
ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』を読み込んでいます。
※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。
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○「FlowboxからAllboxへ」 #物書きエッセイ
前回は、あまり目に触れないアイデアノートを活用するためにFlowboxという概念を運用し、失敗した、というお話を紹介しました。
そのときは、たしかに失敗に終わったのですが、実はかなり良い線まで迫っていたのだ、ということにScrapboxを使っていて気がついた、ということについて今回は書いてみます。
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ずいぶん長い間、Evernoteのノートブック構造は固まっていました。
大量にノートブックはあるものの、基本的に使っているのは以下の6つ。
・inbox
・アイデアノート
・象の墓場
・各種ログ
・Webクリップ
・保管庫
最初にinboxに入ってきたノートが、その後適切なノートブックに振り分けられるという、ごく普通の使い方です。むしろこれ以外の使い方など、まったく思いつきませんでした。
それを揺さぶったのがScrapboxです。
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Scrapboxは、複数のプロジェクトを設定できるものの、一つのプロジェクトの中では完全なフラットになっています。
あえてEvernoteと対比させれば、ScrapboxのプロジェクトはEvernoteではノートブックではなく、アカウントに近いと言えるでしょう。
で、その完全フラットなScrapboxを使っていてはっきり悟りました。「ノートブック」(的なもの)がなくても、問題なく使える、と。
もともとデジタル情報を扱う上での「ノートブック」(的なもの)は、物理的な要請に基づくものというよりも、使う側の人間の感覚にフィットさせた機能だと言えます。私たちが、Googleで問題なく情報を探して、使えているように、ツリー構造化におかなくても、情報は扱えるのです。
もちろん、頭の片隅ではそのことは理解していました。しかし、それと同じ考えをEvernoteに適用する、ということはできていなかったのです。
たぶんそれは、そんな状態ではとても「整理」したとは言えないと感じていたからでしょうし、「スッキリ」した感じも味わえなかったからでしょう。
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しかし、いったんScrapbox的なフルフラットな構造が楽チンである、ということに気がついてしまうと、Evernoteにもそれを適用したくなります。
で、実際にそれをやってみました。
とは言え、最初は折衷案的なやり方です。つまり、
・inbox
・象の墓場
・各種ログ
・保存庫
あたりのノートブックは残しておき、「使用済み」のノートに関してはそちらに移動するが、それ以外のものはすべてinboxに置いておく、というやり方です。
前回紹介したFlowboxの拡張型と言えるでしょう。
Flowboxでは、対象はアイデアに関するノートだけであり、その上限も決めていました。しかし、今回のやり方は、「使用済み」にできたもの以外をすべて残します。当然上限もありません。
もちろん、Flowboxを考案したときに心配していた、「ノートが多すぎてすべてに目を通すことはできなくなる」問題は発生します。でも、それでいいのだと、割り切ったのがここでのポイントです。
というか、そもそも「すべてのアイデアノートに目を通さなければならない」というのが行きすぎた欲望というか、非有限化な願いだったのです。そのようなものは、どうしたって現実化はされません。
ババーっとスクロールして閲覧できるものでいい、あとはたまに検索で見つかればいい。それくらいの割り切りであれば、フルフラット型でもまったく問題ありません。あとは、いくつかのタグを付けておけば、より「後から発見できる」可能性もアップします。
だからこそ、最近のEvernoteでは、できるだけタグをつけるようにしています。
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そのような運用をある程度続けていて、突然吹っ切れました。
「いっそ、すべてのノートを移動させない、というのはどうか?」
これまでは、書き終えた原稿などは「象の墓場」ノートブックに移動させていました。実行済みのプロジェクトノートなどもそうです。強いて言えば、活きている情報と死んだ情報を切り分けて、それぞれに対応するノートブックを当てていたのです。
が、そのような切り分けすらも、実は不要なのではないかと、ラディカルな思いつきが湧いてきました。
もちろん、単にトリッキーなことを考えたかったわけではありません。そこには、実践に裏打ちされたニーズがあります。
たとえば、R-styleの記事があったとしましょう。それを保存してあるノートは、死んだ情報となり、「象の墓場」ノートブックに移動されるのが基本的なルールです。
でも、自分が書いた記事について、「もうちょっとこれについて考えたい」と思うこともあります。その視点から見れば、そのノートは活性化を待つ(非-死的)情報です。
「だったら、そのノートはinboxにおいて、他は象の墓場に移動させればいいんじゃない?」と思われるでしょう。私も最初はそう考えました。
しかし、そのような状態が長く続いていると、R-styleのいくつかの記事はinboxにあり、いくつかの記事は象の墓場にあることになり、しかもそれがどちらなのかを私は覚えていない状況が訪れます。
そういう状況の中で、「R-styleに書いたあの記事を探そう」となったら、inboxと象の墓場の両方を検索しなければなりません。だったら、はじめから同一のノートブックに入れておけばいいのではないか、とそんな風に考えたわけです。
もちろん、そのままの状態ではそうした記事を見つけ出すのは非常な困難になるでしょうから、最低限ノートに「R-style」というタグを付けておく必要はあるでしょう。ついでに、「Scrapbox」とか「イベント」といったタグを付けておけば、全文検索で必死に目視で探すよりも、お目当ての情報は見つけやすくなります。
私はこのやり方を、Allboxと名付けることにしました。Inbox→Flowbox→Allboxの流れです。
そして、この考え方をまっすぐ伸ばしていけば、一つの大きな結論に達します。
「Evernoteには、ノートブックなんていらんかったんや」
すべてを一つのノートブックで管理し、情報をたぐり寄せる手段としてはタグ+検索を使う。そういうやり方で運営できるはずですし、そうしておけば「こうもり問題」(所属するカテゴリが複数想定できて、情報の分類が一意に定まらないことによって引き起こされる問題)のようなものと完全におさらばできます。
が、そのやり方をするには、一つの致命的な問題が立ちふさがります。
それについては次回としましょう。
(つづく)
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