Weekly R-style Magazine 「読む・書く・考えるの探求」 2018/05/21 第397号

はじめに

はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。

先週号で、16Personalitiesという性格診断テストを紹介しました。で、少し気になったことがあったので妻にもやってもらいました。

◇無料性格診断テスト16Personalities
https://www.16personalities.com/ja

診断結果は「エンターテイナー」。解説を読むと、まあまあ当たっているかな、という程度です。だいたい60%くらい。

その数字の高低自体は関係ありません。やりたかったのは、ここからです。

妻に、「どのくらい当たっている?」と聞いてみました。すると、「半分よりちょっと上。う〜ん、6割くらい?」との答えが。私の印象とピタリです。

次に、私の診断結果である「仲介者」の解説を読んでもらい、「これ、どのくらい当たっていると思う?」と尋ねました。私の方は結構当たっていて、80%くらいの的中率だと感じていたのですが、そのことは言わずに、妻に聞いてみると「8割くらいかな」という答えが。

これには結構驚きました。

ジョハリの窓、という考え方があります。自分についての理解を、以下の4つに分類するものです。

・「開放の窓」 自分も他人も知っている自己
・「盲点の窓」 自分は気がついていないが、他人は知っている自己
・「秘密の窓」 自分は知っているが、他人は気づいていない自己
・「未知の窓」 誰からもまだ知られていない自己

明らかに、性格診断テストで得られる結果は、「開放の窓」と「秘密の窓」に関する自分です。なにせ「盲点の窓」と「未知の窓」については、回答を入力する自分自身が気がついていないのですから、結果が得られるはずがありません。

そして、「盲点の窓」と、もう一つの「秘密の窓」の存在が、性格診断テストの結果を読んだときの評価にズレを生じさせると予測したのです。自分が知る自分像と、他人が持つ自分像の差異です。

しかし、私と妻の診断結果に対する的中度評価はおどろくくらい一致していました。これはつまり、私が知る私像と、妻が持つ私像が(そして私が持つ妻像と、妻が知る妻像が)見事に一致している、ということでしょうか。たしかに長年一緒に生活し、話を良くしているので、そういうことも起こるのかもしれません。

あるいはこの16Personalitiesが、そうした特性を持つのかもしれません。こればかりは観察事例を増やしてみないとわかりません。

皆さんも、(もし可能なら)自分の性格診断テストの結果を他の人に読んでもらい、どのくらい当たっているかの度合いを自分のそれと比べてみてください。なにか面白い発見があるかもしれません。

ちなみに、この実験の意図や、自分が感じる的中率を先に話してしまうと、ほぼ間違いなくバイアスが発生するので、何気なく尋ねてみるのがよいかと思います。

〜〜〜あまりにも正しいこと〜〜〜

「正しいこと」は大切ですが、「あまりにも正しいこと」はちょっと危険かもしれません。

そこには他のものが入ってくる余地がまったくありません。非常に息苦しいものです。知らない間に酸欠になってしまうかもしれません。

〜〜〜たまる一方のメモ〜〜〜

少し前にScrapboxでメモをカード化していく計画を紹介しました。

実際に、以下のScrapboxプロジェクトで、メモを増やしています。現在230個あたりまで増えました。

◇倉下忠憲のメモ
https://scrapbox.io/rashitamemo

で、しばらくやってみた感想としては、「思ったより時間がとられる」ということです。

思いついたことを一行で書き付けておくことは簡単で、すぐにできますが、それを「カード化」するとなると少々手間がかかります。時間的には3分とか5分かもしれませんが、ほとんど確実に認知資源(脳のパワー)を使っていて、それがじわじわと効いてくるのです。

一番の問題は、一日あたりの「思いつくこと」の量がすさまじく多いことで、それをすべてカード化していたら、それだけで一日が終わってしまいそうです(ややおおげさ)。

というわけで、Scrapboxにページは増えているのですが、それ以上に「これをScrapboxで展開すること」リストも増えております。この辺は、もうちょっと考える必要がありそうです。

〜〜〜今期のアニメ〜〜〜

「ヒナまつり」と「ひそねとまそたん」が面白いです。

「ヒナまつり」はギャグ&感動のストレートな感じですが、「ひそねとまそたん」はわりとひねっているというか、ややダークな色合いです。

だって、自衛隊の飛行機の中身が、実はドラゴンだった、なんてすごい設定ですよね。でもって、そのドラゴンに飲み込まれた女性パイロットが操縦しているんですよ。

こうして説明するとものすごくシュールですが、単にそれだけではないことは保証しておきます。

〜〜〜国際信州学院大学〜〜〜

「国際信州学院大学」をご存じでしょうか。ご存じでなければ、ググッてみてください。

トップに公式サイトが出てくるので、それをクリックして大学の雰囲気を掴んでみてください。

さて、どこで気がつかれたでしょうか。

この「国際信州学院大学」に関しては、長い話が書けそうです。

〜〜〜ぼけーっと眺めるだけの知的生産ツール〜〜〜

パソコンのスクリーンセーバーで美しい図形が動的に描かれたり、あるいは言葉がビューンと通り過ぎていくようなものってありますよね。

あれと同じような感じで、何の「操作」もせずに、ただ見ているだけで、知的生産が進んでしまうよなツールが作れないかな、と考えています。

たとえば、構成案のマインドマップなどがあったら、ノードが勝手に移動して、別のノードとくっつこうとし始めたりとか、シーソラスを活用して、ノード上の言葉が別の似た言葉に置き換わっていったりとか、そういうのをただボーッと眺めていたら、原稿が詰まっているときの打開策になるかもしれません。

攻めではなく待ちの知的生産ツールです。

〜〜〜自他の弱さ〜〜〜

人間は完璧な存在ではありません。それぞれが弱さを持っています。

至らないところがあり、苦手なことがあり、決して消せない嫌悪や偏見もあります。

自分に完璧を求めるのではなく、弱さを受け入れることは大切でしょう。

でもって、そうであるなら、他人の弱さも認める必要があります。

「自分のこれは弱さだから他の人は我慢してほしい。でも他の人の別の弱さは我慢できない」

というのは筋が通りません。

我慢は美徳ではありませんが、社会という共同体は少しずつの歩み寄りで成立しています。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりでも考えてみてください。

Q. 小学六年生にインターネットの使い方を教えるときに、真っ先に教えたいことは何ですか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週は、

・バレットジャーナルについて
・読み切りショートショート「魔王のお仕事」の最終回
・本屋さんについていろいろ考えたミディアム・エッセイ

の三本立ててお送りします。

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2018/05/21 第397号の目次
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○「バレットジャーナルの構成素」 #BizArts3rd
 タスク管理を掘り下げていく企画。連載のまとめに入っています。

○「魔王のお仕事 3」 #ショートショート
 読み切りのショートショートです。

○「本屋のこれから」 #「本」を巡る冒険 #やがて悲しきインターネット
 本差さんについていろいろ考えてみました。

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

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○「バレットジャーナルの構成素」 #BizArts3rd

今回は、「バレットジャーナル」について。その内側にあるものを腑分けしていきます。

参考文献は『「箇条書き手帳」でうまくいく はじめてのバレットジャーナル』です。
※https://www.amazon.co.jp/dp/B076D9QPCW

Webサイトであれば以下のページを。
◇バレットジャーナル公式サイト「入門ガイド」日本語訳
http://bujo-seikatsu.com/2017/07/28/getting-started/

〜〜〜

「バレットジャーナル」には次の三つの要素が含まれます。

・シフト型情報フロー
・ワンポケットスタイル
・リミット装置

それぞれ確認していきましょう。

■シフト型情報フロー

バレットジャーナルには、GTDのワークフローのような情報の流れは存在しません。その代わりに、シフトしていく情報の流れがあります。

たとえば、今日発生したタスクがあれば、その日のページに書き込み、終了したら消して、やり残したら次の日に送る。そのようにタスクがページを移動していく(シフトしていく)イメージです。

GTDでは、まずinboxという大きな箱があり、そこにタスクが流れ込んできて、それをワークフローで各リストに仕分けし、それぞれのリストでタスクを待機させる、という流れになりますが、バレットジャーナルでは、タスクはそれぞれのデイリーページに着地し、実行されなければ次の日(あるいは実行可能な別の日)移動されて、実行されるのを待つことになります。

「マニャーナの法則」と同じように、情報をまとめる単位が「一日」なのですが、あまりかっちりとした枠をはめることはありません。少なくとも、クローズドリストのような厳しい制約はありません。「できなかったら、別の日にやろう」くらいの緩い感じで運用されます。

■ワンポケットスタイル

バレットジャーナルでは、情報を保存するツールは一つしか設定されません。基本は一冊のノートです。その中に、いくつかの属性を持つページを作り、保存し分けていきます。

少し前、「情報を一冊のノートにまとめる」というノート術が人気となりましたが、あの方法は基本的に「同一のスタイルで記述していく」方法で、アイデアメモを記録する役割しか担えません。人間が管理したいと思う情報はもう少し広いので、あのノート術ではノートをワーキングスペースにするのは不可能です。

ツールを限定しながらも、その中で多様な情報を扱えるようにする。これが、バレットジャーナルのワンポケットスタイルです。

■リミット装置

この点については、ブログ記事で「三つの有限化」として紹介しました。

◇【書評】「箇条書き手帳」でうまくいく はじめてのバレットジャーナル – R-style
https://rashita.net/blog/?p=24599

紙に書き付けていくだけのタスクリストでは、やることは際限なく増えていきます。たとえば、一枚の大きな紙を準備し、そこに発生したタスクを書き付けていくやり方では、あっというまにタスクはいっぱいになるでしょうし、あっというまにやる気が失せる(タスクに押しつぶされている気がする)でしょう。

その点、バレットジャーナルでは、一つのデイリーページから、別のデイリーページに、一冊のノートから、別のノートに項目を書き写さなければなりません。そうすると、人間の惰性が働いて、「これ本当に必要だろうか?」という思考が刺激されます。でもってそれは、GTDがワークフローの一番最初に準備している「これは何か?」という問いのアレンジでもあります。

また、紙というツールは、パソコンに比べれば入力できる情報、保存できる情報に限りがあるので、実はその分情報に煩わされる可能性が減ります。気が散りやすい人は、案外紙のノートやポメラのような装置を使った方がうまくいくかもしれません。少なくとも「扱える情報は多ければ多いほど、使用者に良い影響を与える」とは簡単には言えないでしょう。

情報過剰になりがちな現代からこそ、バレットジャーナルが一定の評価を受けているのは、納得できる話です。

■最後に

バレットジャーナルは、要素を減らしつつも、バリエーションはキープする、という姿勢が保たれています。

ノートは一冊しか使わないが、ページはいろいろ作っていい。箇条書きで書き留めるが、接頭辞でそれを見分けられるようにする。

こういう仕組みは、複雑化しすぎる情報を抑制しつつも、アレンジの可能性を担保してくれます。なかなか素晴らしい仕組みです。

タスク管理に関しては、実行やシステムの機能性よりも、まず「目に入る情報」をいかに制御するのかのシステムだと捉えられるでしょう。

さて、ここまでいくつかのフレームワークを確認してきました。まだ、他にもありそうですが、次回からは少し違った観点から「タスク管理」について書いてみます。

(次回に続く)

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