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『パラークシの記憶』レビュー

前作同様、片山若子さんによるカバーアート。いいかんじ☆

『パラークシの記憶』

マイクル・コーニイ著 / 山岸 真 訳

SF史上屈指の大どんでん返し&青春小説と、先日ぶちあげた『ハローサマー、グッドバイ』の続編です。
続編、とは言っても、あれから数百~千年以上あとのお話。前作の恋人たちも直接はお話に登場しません。
ただし、舞台であった『パラークシ』はタイトルにもあるようにお話に重要なかかわり方をしてきます。

もうひとつ、『記憶』とタイトルにはあります。
この『記憶』も、ものすごく重要なキーワード。

人間そっくりの異星人である登場人物たちなのですが、『記憶』がそもそも我々地球人大きくことなることが、まず作中で語られます。
彼らの『記憶』は、本人の記憶はもちろん、同一性の親、そしてご先祖さまの記憶も、まるでその場で体験しているかのようにはっきりと「思い出す」ことができるのです。
ただし、過去の記憶を呼び出すには(世代を経るにつれ)困難で、ちょっとした儀式的なテクニックが必要です。
この過去見(作中では『夢見』とか『星夢』とか呼ばれています)は、先ほど書いたように「同一性」にのみ遺伝情報として伝わります。つまり、男性である父親の記憶はその息子に、女性である母親の記憶はその娘へと受け継がれていくわけです。(男性系の一族に女の子しか生まれなかったらそこで過去の記憶は途切れてしまうわけ。女性系も同様。)

その結果、途切れることなくつづいてきた古い記憶を思い出せる家系は尊重されていきます。なぜなら、困難に際したときに過去のご先祖様の情報をそれだけ多く引き出して困難を打開することができるとみなされているからです。
こうしていつしか、男性系は男性だけ集まる村を形成、最も過去の記憶を引き継いだものを村長として、男性は男性のみの、女性系は同様に女性のみの村ができあがっていったのでした。

さてさて、この男性系の一族長の甥っ子、つまり村長からみてナンバーツーを父に持つ息子の『ハーディ』が、女性系の村長(女性)の娘『チャーム』と出会うところから物語がはじまります。
きました。恋の予感ですね!!
そう、当然のように(?)一目ぼれですよ。
SF史上屈指の恋愛小説の続編ですもの。こうでなくては!!

翻訳者の山岸真さん曰く、マイクル・コーニイの(傑作の)特徴として

1.主人公と美女すぎるヒロインが問答無用で一目ぼれしあう。
2.帆のある乗り物が沈む。
3.どんでん返し。

あとがきより抜粋

なのだそうでw
この、1と2が冒頭も冒頭、最初の数行で達成されます。主人公のハーディが操る滑走艇(スキマー)が沈没。パニックに襲われているところをヒロインのチャームに救われるのです。
名前からしてチャームってぐらいですからね。あっという間にハーディ君は彼女の魅力にまいってしまう。ってわけ。

前作の要素をうまく引き継いだドラマチックな導入。これで読者も安心して「あの続編だあ~」と思えるわけですね。

さて、続編なのでそのまま引き継がれたところと、そうでないところがあります。
前作は、

 ・恋愛小説
 ・戦争小説
 ・SF小説
 ・プラスアルファ

であると著者も書いていました。

これまた訳者の山岸真さん曰く、上記の「戦争小説」の部分がそっくり「ミステリー小説」要素に入れ替わっているかんじ。とのこと。
(あ、もっとスケールアップした戦争? 勢力争い? な背景はあるかな?)

もともと(どんでん返しにも定評あるぐらいだし)ラストから書くというマイクル・コーニイさん、ミステリー文脈もばっちりです。

記憶が受け継がれる社会で、本来起こるはずのない殺人事件。犯人捜しの最中に命を狙われる主人公……といったサスペンス要素あり、これらの要素を補強するSF的ギミックと『記憶』……。まさにこれは(やっぱり)恋愛小説でありミステリSFの傑作と言えるでしょう。伏線の貼り方が上手いのなんの!><

いやあ、ほんと、あれだけしっかり終わっていて大どんでん返しというオチもついている前作にこれだけきれいにつながる話を書けるマイクル・コーニイって作家のすごさを感じた一冊でした。

ちなみに、前作『ハローサマー、グッドバイ』の原書刊行は1975年、この『パラークシの記憶』が刊行されたのは2007年。実に30年以上間があいての続編です。
(作者のマイクル・コーニイは2005年に亡くなられています。当人のWebサイトで原稿は公開されていたそうですが、実際に本になるのを目にされることはなかったのですね……南無(-人-))

『バーナード嬢曰く。』の5冊目(5話目)で前作を紹介していた神林さん(@施川ユウキ)
同13冊目(13話目)でついに続編翻訳の報告。よかった!☆


そうそう、書き忘れていましたが、続編のサービスなのかSF的ダメ押しなのか、前作ではまったく触れられていなかった地球人がなんとばっちり登場します!(びっくり)
これで、この主人公ら異星人(スティルクと地球人には呼ばれています)と地球人との差異がよりわかりやすくなり、ミステリ的な土台がうまく構築されているかんじです。

でも、ミステリだミステリだといいつつ、わたくし的には前作からのつながりでやっぱりこれは恋愛小説と感じています。

異星人スティルクにはめずらしい茶色い目をした美少女と、主人公の恋の行方はどうなるのか、今の幸運な読者は30年も待たないで結末を知ることができます。
あの伝説の大どんでん返しの結果の記憶を、読むことができちゃうわけです。この幸運をかみしめて、ぜひ、前作ともども読んで頂ければと思います。本作もちょーおすすめです☆

(もちろんちゃんと前作の最初から飛ばさずに、しっかりと構築された見事な職人芸なプロットを読むことをお勧めしますw いやほんと、飛ばして読んじゃったらもったいないんだから!)



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