『ハローサマー、グッドバイ』レビュー
『ハローサマー、グッドバイ』
マイクル・コーニイ著 / 山岸 真 訳
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バリバリの青春小説で、ラブストーリーで、かつ、がっつりSFです。
作者自身、冒頭で『これは恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、さらにもっとほかの多くのものでもある。』とはっきり語っています。
それぞれどの要素も最高の水準です。そしてそれらが絡み合って一体となっていることで、これまたこの作品のすばらしさを何倍何十倍にも引き上げている。わたくし的ランキングでオールタイムベストに入る青春・ラブストーリー・SFなのです(戦争どこいった?)
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お話の舞台は地球ではない異星系のとある惑星。登場人物たちも地球人類ではなく、異星人です。が、文明の発達程度は地球の1875年ごろとほぼ同水準であり、人々の生活、感性なども人類同様のため、読者はそれほど戸惑わずに物語に入り込むことができるはず。
この星には一つの大陸があり、山脈と端にある海とで分断された二大国が戦争状態にあります。
その海は、夏になると主星の熱で熱せられて粘性をまし、『粘流(グルーム)』と呼ばれる状態となります。
沖合いから流れ来るこの『粘流(グルーム)』を夏の風物詩として漁に役立てている港町『パラークシ』での出来事がお話の中心です。
そこに、毎年夏の休暇をとりにやってくる政府高官の一家がありました。そのひとり息子『ドローヴ』は、去年の休暇中出会った美しい少女『ブラウンアイズ』が忘れられず、再会を夢見ていたのでありました。
あの美しい少女も、自分同様に自分に好意をもっていてくれているのか。
この胸の高鳴りは自分だけの一人勝手な片思いなのか。一年前にちょっと話しただけの自分のことなど彼女は忘れてしまっているのではないだろうか……。
思春期の入り口に足を踏み入れはじめた少年の心は千々に乱れます。
少年の自意識の描写は、地球ではない異星の環境の描写とともにとても巧みで、異星のモンスターめいた生物層や惑星環境等の一見異質でわかりにくそうな解説も読んでいて自然に頭に入ってきます。
果たして無事に再会できた少年と少女。徐々に近づき思いを寄せ合うふたり。
異星世界でありながらも温度や匂いまで感じられる港町の風景と冒険に満ちた夏の日々。『粘流(グルーム)』を渡る海鳥や滑走艇(スキマー)でのセイリング。
少年は忘れ得ないひと夏の体験を経て、やがて大人へと成長していきます。
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いんやあ、もう、これ、わたくし大好物です! お姉ちゃん好きやで! とずっとによによしながら読んでしまう、ういういしくも刺激にみちた青春モノ。
そしてそして、SF史上屈指と言われる(私が勝手に言ってる)圧巻のラストの大どんでん返し!!
いや、ほんとにすごいですよ。ここで感じるセンス・オブ・ワンダーは、この本がSF小説で良かった! そして青春小説でよかった! と思わず打ち震えてしまう最高の出来です。
こればっかりはもう読んでもらわないと伝わらない……と思っていたこのラストについて、かの『バーナード嬢曰く。』(施川ユウキ)でうまいこと紹介されていました。
ここで神林しおりさん曰く。
と語ってくれています。
マイクル・コーニイは、ラストから作り始める作家とのこと。このラストをしっかり書くために『恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、さらにもっとほかの多くのもの』が絶対に必要だと信じて、この隙のない長編を書き上げたのだと思います。
読者も、このわずか数ページのラストの感動を味わうべく、しっかり冒頭から隅々まで目を通しつつ、じっくり読んでいくべきでしょう。
(どっかの誰かさんのようにラストから読まないように!! ホントもったいないから!!)
翻訳者の山岸真さんは『この本を夏に出さないでどうするんですか!』と出版社の方からせっつかれていたそうです。
私はといえば『この本を夏に読まないでどうするんですか!』と声を大にして言いたく、このレビューをかいているわけだったりしますw
めちゃ暑い夏にこそ、ぜひ読んでほしい、最高の恋愛小説であり、戦争小説であり、夏のSFです。マジおすすめです。