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『ソフトウェア』『ウェットウェア』『フリーウェア』レビュー

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『ソフトウェア』『ウェットウェア』『フリーウェア』

ルーディ・ラッカー(著)/ソフトウェア・ウェットウェア(黒丸 尚 訳)/ フリーウェア (大森 望 訳)

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天才となんとやらは紙一重。なんて言いますが、ワタクシが認めている天才のお一人に数学者でSF作家のルーディ・ラッカーさんがおります。

本名(ドイツ名)ルドルフ・フォン・ビター・ラッカー。
そう、天才です。もちろん紙一重のほうじゃないと思います。タブン……ね?w

と、ゆーわけでそんなルーディ・ラッカーの代表作ともいうべきなんとかウェアシリーズ、今のところ国内で訳されている三部作。一気読みレビューとまいりましょー。



かつてマッドSFの旗手として知られるイアン・ワトソン先生がルーディ・ラッカーの処女長編を絶賛して、
「これは本物のマッドサイエンティストが書いたSFだ」
なんておっしゃったそうで。
マッドSFだ。じゃなくて、マッドサイエンティストが書いたSFだ。ってところがまたいいですね。
実際、ルーディ・ラッカー先生は哲学者ヘーゲルの曾々々孫にあたる科学者サマ。リアルなマッドサイエンティストだそうw。数学やコンピュータサイエンスが専門で、クルト・ゲーデルと無限について語り合ったとか、変人すぎて大学をクビになったとかいう逸話がある博士なのです。

その最先端バリバリの博士が書いたSF。なにやら難しそうですが、難しいのは概念だけですからご安心を。(えっ?)
中身はなんというかもうハチャメチャですw

セックスとドラックと不道徳とご都合主義と悪趣味といい加減さがごちゃ混ぜになって、難しそうだった概念がなんだかよくわからないままにそこいらに転がって偏在している宇宙をバッドトリップしながらカレイドスコープで覗き込んでいるような、まあ、そんなSFなのです(結局よくわからない? w)

まぁともあれ、論より証拠。悩むより慣れろということで3部作のあらすじを軽く紹介しておきますと……。
(これ実は4部作なんですよねぇ。最終の『realware』は残念ながら未訳となっています><)

あらすじ

①『ソフトウェア』

時は2020年(去年じゃん!!)
フロリダでさえない余生を送っている老人、コップ・アンダソン。彼はかつて遺伝的アルゴリズムで自己増殖し、遺伝子コードを与えあって次世代を生み出す(生殖する!?)知的コンピュータを開発した天才科学者なのでした。
しかし、人間に逆らえないよう、例の三原則でがっちり縛られたコンピュータ(小説内ではアシモフ型なんて呼ばれています)を哀れに思い、こっそりコンピュータに自由意志まで与えてしまいました。
で、結果的にコンピュータたちは月面で一斉蜂起、人類から月を奪ってしまいます。(お話の中では2001年の出来事)
おかげで人類の裏切り者扱いされたコップおじいさんは、さんざん迫害されて、今や一人寂しく安酒浸り。酔っ払いながらお迎えをまつ日々。
そんな窮状を知った月で進化を続けている意志を持つコンピュータたち(通称バッパー)が、彼らの生みの親であるコップ爺さんを月に連れ出して、お礼に「永遠の命」を与えましょう。と、文字通り「お迎え」にやってくるというお話です。

②『ウェットウェア』

月面で人間とコンピュータ(バッパー)達がお互いを敵視しながらもなんとかかんとか共存している、第一作から10年後の2030年。
『ソフトウェア』でコップじいさんに付き合って月まで行って、バッパーたちの階級闘争に巻き込まれた麻薬ジャンキーな若者(ステイ・ハイあらためスタアン・ムーニィ)が、今や立派な大人になって月で探偵稼業なんかを始めています。
そこに舞い込んだ依頼というのが、新型のドラッグを開発している博士が、失踪した助手を探してほしいという依頼。
そのドラッグというのは「身体を溶かす」とっても気持ちいぃドラッグ。人体のタンパク質をどろどろに溶かして、宇宙と一体感をたっぷり味わってからもとに戻るというスーパーバイオにハイテクなドラッグなのです。
元ジャンキーなスタアン様が新型のそんな麻薬の魅力にあがなえるはずもなく……けっきょくどろどろにとけてしまいましたとさ。(で終わるわけじゃありません。ちゃんと続きますw)
この麻薬、一人で身体を溶かして楽しんでもよいのですが、二人で溶かしあって混ざり合うとちょー最高に快感らしいのですね。実際ドラッグの名前も融合(マージ)なんて呼ばれています。愛する人とバスタブで溶け合ってぐっちょんぐっちょんになるっていうのも(もちろん痛みなんかなくて快感しかない)ちょっと想像するだけですごそうって感じです。
で、問題なのは、溶けてる間に液状になっている身体をぶつ切りにされちゃったり、大事なパーツを取られちゃったり、変なもの混ぜられちゃったら? って誰もが思うやつです。今回の主人公のスタアンさんは当然のようにこれをやられてしまいます。(あーあ)
そして、この技術を使えば、コンピュータが人間に融合(マージ)することもできちゃうんじゃ? って話になって……。物語は人間の肉体にコンピュータの知能が入った「肉バップ」の誕生を中心に、これまたものすごいところまで突き進んでいきます。(いやはやこれよく出版できたわね。ってぐらい)


③『フリーウェア』

さて、こちらは第二作の騒動からさらに20年たったころのお話。第二作でバッパーを壊滅させるために人類が開発したウイルス(カビ)が、プラスチック状のコンピュータ生命と融合して生まれたイミポレックスという新素材ロボット生命、モールディが今回のお話の中心。
人間から見ると腐ったチーズみたいな匂いのそのモールディに欲情するド変態の強姦魔が登場、彼はモールディを狂わせ、奴隷化する非常に特殊なプログラムを使って多くのモールディを拉致して月に送り込みます。
さらわれたモールディたちは、月面でこれまたとんでもない一大スペクタクルな大展開に巻き込まれて……。というお話。
肉人間かコンピュータか、カビなのかソフトなのか、なにもかもぐっちょんぐっちょん出たり入ったり混ざったり融合したり変化したりで主役すら誰かもあやしくなっていく上にどんどんお話はめちゃくちゃ大規模になっていって……。
え? フリーウェアってそういうことだったの!? ってところまで突き進んでいき、驚きの展開がやってくるのです。まじで。

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という具合に、なんとかネタバレをさけつつあらすじってみましたが、これだけ書いてもそれぞれ大体本筋の半分ぐらい。後半はもう、「え? そっち行くの!?」って方向に展開しつつ暴走していっちゃいます。レビュー書いておいて何ですが、この疾走するグルーヴ感はもう読んでもらわないとわからないというかなんというか……。
まぁ、読んで本当に意味が分かるかどうかはまた別の話なのですけどもw

もう、理解するよりこの波に乗っちゃえよ! 考えるな、感じろって感じですねw

正直それだけでも十分魅力的なのですがw

コーフンしてばかりでないでちょっとばかり冷静になって俯瞰してみると、執筆当時(一作目は1980年代)の数学やコンピュータサイエンスの最新理論がそのまんまSFになっちゃっているのがまずもちろんスゴイのです。(遺伝的アルゴリズムで自己増殖するコンピュータたちの理論的バックボーンがゲーデルの不完全性定理だったり!)
で、やっぱりただの理論の説明をしているだけではなくて、アナーキーで悪趣味な冗談やトンデモナイ発想が、厳密な理論にどばっと掛け合わされて、その摩訶不思議なルーディ流曲率のレンズを通して見通した未来世界のイメージがもう最高によいんですわ。(ヒルベルト空間への量子論的トリップを味わえるコンピュータ用のドラッグとか想像できる?w)
そして、それが意外や意外、けっこう現実の今のコンピュータAIがぶつかってる壁を予言していたりして(そして斜め上の方向へ軽く乗り越えていたりしてw)たいへんに興味深いのです。(これ絶対、今世界を支配している巨大IT企業を作った人たちスタートアップ時代に読んでたとおもうなあ的な記述も沢山あります)

そうした理論展開の他、当時としてはだいぶぶっ飛んだSFマインドな概念に基づいて書かれていて、当然そのマインドは読者も共有しているよね? サイバーパンクとか好きなら説明いらないよね? ってかんじでそこらへんの飛ばしっぷりもとにかくよいのです。これ、ワタシの個人的な趣味というか、めっちゃ琴線にふれるポイントなので、長くなりついでに箇条書きしてみると

・遺伝的アルゴリズム。「的」っていうけど的じゃなくて本当に自己増殖・生殖・遺伝するコンピュータのプログラム、データ、オブジェクト、それはもう「生命」なんじゃないの? という命題についての考察。
・コンピュータたちのプログラムは生殖時にそのままコピーされるわけではなく、宇宙線にさらされてランダムにデータが変更される。長年「生きて」いてもそういうランダム化の遺伝子変更が行われるという進化要因が彼らにもある。もちろんそれによって(データが壊れて)気が狂ってしまったり死んでしまったりもする。しかしそれはとってもスリリングゆえに快感で、「宇宙との合一」としてコンピュータにとって宗教にもなっている。
・人の心という「情報」も、単に肉体というタンパク質でできたハードウェア上に走っているソフトウェア。つまり、魂=ソフトウェアだよね。と。コュータのソフトとの違いは、データのコピーや転送に不向きというだけ(できるけど肉体ハードを壊さないと無理)

ここら辺がまずこのウェアシリーズに共通するぶれない根本概念で、ワタシとしてはすごく腑に落ちる納得ポイントなのです。ある意味で、魂=ソフトウェアということについてずっと語っているのですね。

その根本概念を下絵にして、先ほどから何度も書いているようなラッカー特有のめちゃくちゃなフィルター処理をゴテゴテに施したのがこれらの作品。と言えるのではないかとおもいます。

文字通りラッカー臭がぷんぷんするわけですw

これらの概念やラッカー臭さが生理的に受け付けられないって人はやめておいたほうがいいですが、それ以外の方で、知的好奇心や知的コーフンや、知的にラリる感じが大好きな方は、きっとハマること間違いなしなのです。

とゆーわけでぜひぜひみんなで読みましょう!
この知的なドラッグは(常習性は別にして)基本、小説代だけですみます。安いもんですw
でもって、第四作の『リアルウェア』、翻訳出版おねがいしますですよハヤカワさん!! 禁断症状がががが!><

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※Amazonさんのページ開いてびっくり、ウェットウェアにフリーウェア、Audible版がある!? まじで!? って思わずポチろうとしたら英語版でしたw RealwareもAudible版出てるじゃないー。ルーディ・ラッカーの英語すっごく難しそうだけど、勉強用にきいてみよっかなー?


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※最初『ウィットウェア』って間違えて書いちゃってました!!>< ウィットじゃなくてウェットですぅー、タイトルの意味違っちゃいますね!
 教えてくれたBonitoBonsai大好き!さんありがとうございます!!><

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