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『日本SFの臨界点[怪奇篇]』レビュー

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『日本SFの臨界点[怪奇篇]』 ちまみれ家族

伴名 練(編)

日本SFの臨界点[恋愛篇]』に引き続き[怪奇篇]のレビューです。

怪奇篇と言ってもめちゃくちゃコワイというより、じんわりコワイ系が多い気がしました。SFってそういう方面にもたしかに親和性ありますよね。理屈でコワイというか、よーくかんがえてみるともしかしてコワイんじゃないのこれ。みたいなのとか。。

例によって今までアンソロジーや短編集にあまり収録されていなかった掘り出し物系の短編がごっそり入っています。

以下、収録作品を順に紹介してみます。

『DECO-CHIN』ー 中島らも

いきなり肉体改造もの。それもサブカルシーンに結び付けて、タトゥーやピアス、スプリット・タンやインプラント(皮下への樹脂埋め込み)等の延長でどんどんヤバイ方向へ人体を改造していく若者たちと、そんな彼らに興味をひかれている音楽雑誌編集者が、あるインディーズバンドのライブを観たことで衝撃を受けて……。というお話。これはまたなんというかスゴイですw さすがは中島らもさん。ちょいと女の子的にはいろんな意味で口にしたくない単語が並びますw

『怪奇フラクタル男』ー 山本弘

山本弘せんせーってこういうバカSFも結構書いてるのですね。もうタイトルそのまんま。あるわけねー!って思っちゃダメですw

『大阪ヌル計画』ー 田中哲弥

正真正銘バカSFですw
大阪人は、水商売の女とそのヒモと、あとはお笑い芸人しかいないという世界(ちなみにヒエラルキーの最上位はお笑い芸人)で、彼らのかかえているまこと大阪人らしいある問題を解決するヌルという物質が発明された結果……。というお話。
とあるアイテムが引き起こすトンデモな事態。っていう、ドラえもんや星新一先生のショートショートに通じるど真ん中のバカSF(もちろん褒め言葉よ)w。

『ぎゅうぎゅう』ー 岡崎弘明

立って半畳寝て一畳。なんて言葉がありますが、この世界は横になって寝ることすらままならない、だれもが立って「ぎゅうぎゅう」につまって生活している世界。
そんな世界でどうやって生活しているの? という疑問の答えはぜひ読んでみてください。めっちゃ密ですw
ただ、それだけのアイデアではなく、その世界の外側というかなんでそうなっているのかというところに話を持って行っているところが秀逸です。少し不思議。よく考えたらコワイ話。

『地球に磔(はりつけ)にされた男』ー 中田永一

↑にもありますが、乙ーさんっていろんな名前で書かれてるんですね。知りませんでしたです。編者さんによると、『メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション』という短編集に至っては、クレジットされている「乙一 (著), 中田永一 (著), 山白朝子 (著), 越前魔太郎 (著), 安達寛高 (著)」が全部同一人物なのだそうですw 一体どういうこと!? でもまあ、それはそれで面白そうw

『黄金珊瑚』ー 光波耀子

これは渋い! 1961年の作品! 伝説のSF同人誌〈宇宙塵〉の創刊メンバーに女性がいたというのも頼もしいかぎり! 
さらにレジェンドな「空飛ぶ円盤研究会」の会員でもあって、柴野拓実さんの誘いで真っ先に〈宇宙塵〉に参加したというすごさです。
※空飛ぶ円盤研究会は、〈宇宙塵〉の発行母体で、当時の作家や知識人の多くが会員となっていました。三島由紀夫や石原慎太郎、星新一らの参加が有名。当時は「空飛ぶ円盤」には今のようなエセ科学やスピリチュアルなイメージはなく、純粋に科学で解決されるべき現象と考えられていたそうです。
それにしても、日本のSF界にもこんな大大大大先輩がいらっしゃったのですねえ。(もっとたくさん執筆して作品を残してほしかったのですが、後年、旦那様の意向で執筆から離れてしまったそうです…。残念!)

『ちまみれ家族』ー 津原泰水

これが表題作!?w
まあ、血だらけ・血まみれ=ホラーっていう短絡志向も嫌いじゃないですけどw
とにかくバカ話です。バカ話(=SF)多いですねぇこの短編集w(嫌いじゃないですw)

『笑う宇宙』ー 中原涼

タイトルでおもしろ可笑しい話かと思っていましたら、どっちかというと狂気的な笑いのお話。じんわりコワイです。
家族が狂っていると信じる「ぼく」ははたして正気なのか?
正気と狂気が入り交じり、世界が変容する。P.K.ディック的な世界が好きな人はきっとたまらない逸品だと思います。

『A Boy Meets A Girl』ー 森岡浩之

森岡浩之さんといえば『星界の紋章』ですねー。あのお話もボーイミーツガール的なSFとして傑作だとおもいます。これは、そうした普遍的なテーマをこれまた上手いことSFとして料理しなおしています。ピュアなテーマの素材の味がしっかり生きていて、SF風味も良好。森岡浩之さんらしい文体でとても読みやすく、味わい深い傑作です。

『雪女』ー 石黒達昌

さすがのトリ。
これぞSFホラー。鳥肌たちましたよー。単純な怖いっていうよりめちゃくちゃ上手い。雪女を昭和初期の医学知識で治療しようとする医師の奮闘。昔話や怪談の世界をSF的に翻訳する話はままありますが、完璧に医学に根差している緻密な解釈とストーリーテーリングがスゴイ。
これはほんと上手いわあ。そしてただの謎解きではなくちゃんとお話として読ませるところがまた良いです。
雪女伝説を知らない人に読ませたらノンフィクションと思っちゃうかも?
というぐらい真に迫っています。
著者の石黒達昌さんは東大医学部卒で、その方面は専門家なんですね。
筒井康隆氏が絶賛したという、架空生物「ハネネズミ」の生態と絶滅を科学レポート形式で書いた『平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに……』(すごいタイトル)もめっちゃ読みたくなりました。( ..)φメモメモです。

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さてさて、最初は「バカSFばっかであんまり怖くないじゃん」って思って読んでいたのですが、じわじわとホラー成分アップ。最期の『雪女』はもう雪の八甲田山行軍気分で残暑にピッタリ(?)なクール&ホラー感。いいかんじでした☆

そして、巻末の編集後記にある日本SFの初期についての解説がありがたいですねー。新井素子以前の女性作家とか、知らなかったことがいっぱいです。

その後に続くSF作家と作品のリストも圧巻です。
いやあ、どれも読んで見たい! けど読み切れなさそう!w

この本は最初にも書いたように他の短編集等に収録されていないものをチョイスして編んであるとのことで、多くの短編集やアンソロジーが出ている60年代や70年代の作家の有名な作品はあえて載せていないとのこと。
あまりアンソロジーが出ていない80年代~2010年代ぐらいまでの作品で日の当たっていないものを発掘してくれているのですね。

おかげで読んだことのない作品に触れられて、とってもありがたやなのです。

さて、日本SFの臨界点[恋愛篇]と、この[怪奇篇]、そして、『なめらかな世界と、その敵』で、伴名練さんの趣味と性向を理解できた気がいたします。
と、ゆーわけで、伴名練さんの編纂や作品にはばっちり間違いがないと信じて、今後ともポチリつづけようとおもいます。よろしくお願いしますw

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