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『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』レビュー

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『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』

大原まり子(著)

大原まり子さんの二本めの短編集です。

1980年代前半というから、ちょうどバブル景気前夜ってぐらいでしょうか。

景気も日本のSFもとても活気づいていたころに書かれたお話たちです。

そのころ、日本SF界では、かの栗本薫御大、新井素子さん、そして、大原まり子さんら女性作家もばりばりと活躍を繰り広げられていたそうです。
(その後、バブル崩壊とともにSF界にも失われた数十年? の間隙があると言われていますが……さて、どうなんでしょう?)

今ごろはまただいぶ盛り返してきている気はしますけれど、およそ40年前という豊かで華やかだった時代に書かれた作品が、今、Kindle Unlimitedで読み放題対応なわけですよ。当時の空気を知るためにもひとつ、読んでみたいところですね☆

と、いうわけで、各収録短編それぞれの一言感想プラス、もう一言(?)いってみます。

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『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』

これ、大原まり子さんの代表短編な気が。こういう毒っけのないさわやかな青春モノってとっても上手いとおもうのだけれど、あんまり他に見ない気もするのですよねえ。(読めていないだけかも?)
そうそう、あとがきには「最長タイトルでは!?」なんて書かれていますが、今となってはこのぐらいぜんぜん短いタイトルですよねw

『地球の森の精』

スティーヴン・キングばりのサイキック・ホラーです。こわいこわい><
さっき青春モノが上手いって書きましたけど、こういうのも得意そう…

『愛しのレジナ』

ほんと冒頭がとにかく最高に美しくて、そして先を読ませる巧みさがすばらしいサイコ・ホラー。冒頭選手権があったら私的に最高点をあげて芸術賞も差し上げたいお話です。もちろん冒頭だけでなくお話全体も素晴らしい。美しい情景描写こそは実は? と気が付けばもう狂気の物語の中にインサイドするのです。

『高橋家、翔ぶ』

美しすぎる夢のような街、最初は自由が丘あたりかと思っていましたがどうやら渋谷だった模様。80年代のころってこういうイメージだったのかな? それとも、そもそも非現実的描写なのか、そのころのあの町を知っている人はノスタルジックに楽しめるかも。きっとアニメ『メガゾーン23』(「人々が最も幸せだった時代」として80年代の東京に模された宇宙船内で暮らす若者のお話)のころオトナだったひとのイメージなのかなーとおもいました。(間違ってるかも?w)
『一人で歩いていった猫』と同じ世界のお話ですね。
中盤で美しすぎるワケと、お話の構成と世界の仕組みがわかってきてなるほどーとなります。

『有楽町のカフェーで』

バリバリ時事ネタ、当時のネタ満載。いまじゃあそんな感覚ないですが、みんなテレビ見ていたんですねぇ。田村正和って当時からスゴイ人気だった模様。あと近藤真彦も。こうした芸能人ネタや当時ネタは、今はまだなんとかわかる、かもですが、あと30年たったらきっともうわからない世界の話になっちゃいそう。
ともかく、携帯電話がもしあったら一瞬で終わってしまうお話ですねw

『薄幸の町で』

とても切ないお話です。幸薄い二人の話。かわいそう。。。でもこれ、いま読むとなんだか現代の世界情勢に符号している気もして、ちょっぴり怖くなってきます。

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以上、6作品の短編集でした。

クジラのお話は覚えていたので、いつ頃読んだのか、小さいころに古本かなにかで読んだのかもなのですが、、他のお話はぜんぜん覚えていなくて(読んでなかったのかも?)2020年の今、新鮮な気持ちで読めました。
ただなんだか懐かしい感じがして、今読んでみると、私のSFの原体験になってるお話たちな気がします。

小難しい概念や科学や壮大な世界感を持ってこなくても、こういった日常的なSF感ってあるよね、いや、あったよね? という感じ、言葉でいえば文字通り「すこしふしぎ」な感じですが、それでは藤子不二雄先生の世界になってしまうので、それともまたちょっと違う、日常的な軽いえすえふ。

こうした軽さがライト・ノベルにつながっていったのかなあ。なんてことも考えたりしちゃったりなんかしたりして。(←こういう言い方、あったよね?w)
ライト・ノベル前夜、バブル前夜のお話たち。古くても決して色褪せたりつまんなかったりするわけではない作品たちです。SFの一般教養として、せっかくのUnlimitedなので読み放題してみる秋の夜長なんてのもオツかもしれません♪

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#KindleUnlimited #らせんの本棚 #大原まり子 #銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ

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