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らせんの本棚

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SF、ファンタジー、実用書からマンガ、画集、絵本などなど、アトランダムに紹介するレビュー集。神楽坂らせんが読んで「グッ!」と来た本を不定期に紹介していきます。もちろんネタバレはな…
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2020年8月の記事一覧

『不全世界の創造手(アーキテクト)』レビュー

『不全世界の創造手(アーキテクト)』 小川 一水(著) ◇ タイトルだけみて、よくあるなんだかむずかしい漢字にルビのふられた中二病的呪文とか唱えて精神を物質化しちゃう系のスキルの持ち主が世界を造り変えちゃうようなラノベだろうと勝手に勘違いしてました(すいません) でも、プロローグを読んで自分の間違いに気が付きました。魔法ではなく物理の力で世界を作り変える。しっかり地に足のついた土木系SFですね、これは。 ――― プロローグで若干12歳の少年、戸田祐機(トダ・ユー

『寿司 虚空編』レビュー

『寿司 虚空編』 小林 銅蟲 (著) ――― 先日ちょっと触れていたものの、ちゃんとレビューしていなかったわー。ということで、改めてレビューです。 さいきん太ったり痩せたりいそがしそうな小林 銅蟲さんによる巨大数コミック。 もうはっきりいってめちゃくちゃです(褒め言葉) めちゃくちゃスゴイ!w 「このマンガがスゴイ数学編」とかあったら真っ先にノミネートしそうに「スゴイ」です。 もうどうスゴイのかってなかなか解説できないぐらいすごいです。 正直言ってちんぷんか

『日本SFの臨界点[恋愛篇]』 レビュー

『日本SFの臨界点[恋愛篇]』 死んだ恋人からの手紙 伴名練(編) ――― 『なめらかな世界と、その敵』の伴名練さんが「この作品がもっと読まれてほしい」をいう個人的願望(?)で編纂されたという、タイトルの通り日本のSFの臨界点を現時点で示している短編たちの選りすぐりになっています。 とはいえ、既に個人短編集に入っていたり、有名どころはあえて省いたそう。それだけマニアックな選出になっています。 SFマガジンなどの雑誌に掲載されただけ、ならまだ良い方で、掲載媒体がレアす

『RISC-V原典』レビュー

『RISC-V原典 オープンアーキテクチャのススメ』 デイビッド・パターソン (著), アンドリュー・ウォーターマン (著), 成田 光彰 (翻訳) ◇ RISC-V(リスク・ファイブ)ってご存知ですか? なんとかファイブってなんだか戦隊ものみたいな名前ですが、これはコンピューターのCPUとかが使う命令セット・アーキテクチャ(ISA)の名前です。 それも、最新で最高で最速で最小で(おそらくは)最適の。そしてなんとオープンソースです。 普通の伝統的なCPUの命令セッ

『コロンブスの図書館』レビュー

『コロンブスの図書館』 エドワード ウィルソン リー (著), 五十嵐 加奈子 (翻訳) ――― クリストファー・コロンブス。誰もが知っている、アメリカ大陸を発見した歴史的英雄です。 しかし、その息子、エルナンド・コロンを知っている人はまずいないでしょう。歴史の表舞台には現れず、ずっと裏方だった彼。 じつはこの本、『コロンブスの図書館』は、その、コロンブスの息子、エルナンド・コロンの生涯を描いた本なのです。 コロンブス自身はいろいろな逸話や伝説が残っていますが、その

『まんがでわかる クライオニクス論』レビュー

『まんがでわかる クライオニクス論』  未来を拓く新技術 実用的クライオニクスへの挑戦 橋井明広 (原作), 清永怜信 (監修), 高原玲(漫画) ◇ クライオニクスとは耳慣れない言葉ですが、簡単に言えばSFによく出てくるコールドスリープ技術のこと。恒星間旅行をする宇宙船には必須の技術ですね。 人間の寿命をはるかに超えた時間を冷凍睡眠(冬眠)状態で過ごし、然るべき時に目覚めよう。という技術のことです。その手のSFにごく普通にばりばり使われています。 単純に低温状態

『風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記』レビュー

『風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記』 小川 一水(著) ◇ こちらは、12年前にハードカバーで出版され、つい先日(2020年8月7日)に待望の電子書籍化された小川一水さんの格調高い中世騎士道物語。 これまためちゃくちゃ面白いのです。 時は主の年一三三六年(西暦、ですね)。ドイツ北方、北海(ノルト・ゼー)にそそぐエギナ川の河口に、騎士ルドガー・フェキンハウゼンがたどり着きます。 彼は、騎士として叙任をうけたばかり。その彼を疎ましく思う実家から半ば放逐され、もっ

『博物戦艦アンヴェイル』レビュー

『博物戦艦アンヴェイル』 小川一水(著) ◇ 清く正しい(かどうかはちょっと微妙)な海洋冒険ファンタジー! いやあ、面白かった!!  ◇ 16歳の少女騎士ティセル(泳げないので海が嫌い)が、王宮の少年道化師ジェイミーの護衛となり、世界の驚異を探すための探検帆船『博物戦艦アンヴェイル』に乗り込み、今だ海図も作られていない外洋へ乗り出す……。 異世界ファンタジーものっぽいですが、さすがSF作家の小川一水さん、設定がとにかくしっかりしています。 まだ蒸気機関の発明前

旭川「雪の美術館」

あっちいので涼し気な場所を。ということで、旭川にある「雪の美術館」の紹介を、と思ったのですが……。いきなりですが残念なおしらせ>< ええええーーーー!! そんなああああ。。 すんごい良いところだったんですよぉぉ。 雪の降る季節はもちろん、そうでないときにも雪国気分を味わえるとっても涼しい(寒い?w)ところだったのです。 エントランスからしてアナ雪の気分w 中には氷の回廊があって気温は通年10度に保たれています。 回廊のガラスの外は-15度設定だとか! 涼しいぃ!

『あなたの人生の物語』レビュー

『あなたの人生の物語』テッド・チャン(著) 浅倉 久志(訳) ――― ――― ネビュラ賞を受賞し、映画「メッセージ」の原作となった表題作の他、現代短編SFの名手として知られるテッド・チャンの8本の短編を収録した作品集です。 寡作な方のようで、あまり作品数は多くないのですが、ものすごい打率で名作揃いなのですよね。実際、この短編集に収められている8篇の殆どはネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞などなどを総なめしています。 あんまり賞とったからスゴイスゴイと太鼓持ちをす

『なめらかな世界と、その敵』レビュー

『なめらかな世界と、その敵』 伴名 練(著) ――― ――― おんもしろかったです! 短編集なので、例によってそれぞれざっと一言づつ紹介をしておくと…… ◇ 『なめらかな世界と、その敵』 表題作。表紙のイメージこれかしらん? 青春SFでちょっぴち百合成分♪ 最初わけのわからない状態から始まって「なめらかな世界」の意味に気が付いた時に印象がガラッと変わります。この世界の認識の相転移感がとってもセンス・オブ・ワンダー。読了感もさわやかでよいです。 『ゼロ年代の臨界