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SS・煙草物語・4/7【Marlboro LIGHTS】(1386字)

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マールボロライトを吸い始めた僕は、大学に入っても相変わらず喫煙者であり続けた。当時の大学とは不思議な場所で、未成年や非喫煙者が大勢いるにもかかわらず10~20m置きにスタンド灰皿が設置されていた。昨今の分煙の世を考えれば冗談のような光景が広がっていた、2000年代初頭。据え膳食わぬは…ではないが、そうまでして灰皿が並べられると吸う本数も必然的に増える。「吸いたいんじゃない、吸わされているんだ。」と言わんばかりに、僕は吸っては吐いてを繰り返していた。原付バイクに乗って大学に向かい、友人との待ち合わせは構内の喫煙所。講義が終われば一服。昼食を済ませて一服(学生食堂でも窓際の席には灰皿があった)。重要性の低そうな退屈な講義をサボっては一服。帰る前に友人と談笑しながら一服。僕の世代からは少し外れるが、ダウンタウンブギウギバンドの「スモーキン’ブギ」を地で行っていた。もはや勉強をしに行っているのか、煙草を吸いに行ってるのか分かったものではない。

*

アルバイトに精を出しつつ、僕はわりと平穏な学生生活を送っていた。このころのこと、とりわけ煙草について考えると連鎖的に思い出すことがある。大学時代のほとんどを一緒に過ごした彼女のことだ。
余談も余談だが、彼女とは大学4年間のあいだに5回、ディズニーリゾートに通った。毎回「ランド」と「シー」に1回ずつ。最初の頃はあまりお金も無かったので「青春18切符」を使い在来線で移動、安いビジネスホテルのシングルルームに2人で宿泊したこともあった。いつしか僕は、ディズニーキャラクターの名前を異様なほど覚えてしまっていた。
ある日、彼女から香水をプレゼントされた。GIVENCHYのウルトラマリンという、青い液体の入った瓶。香り自体は好きだったが、爽やか方面の香りとはいえ主張が強く、使いこなすことは僕にとって難しかった。首筋や手首につけるのをあまり好まなかった僕は、その香水を少しだけZIPPOに入れてみる。火を点けると、炎と共にオイルと香水の混じった香りがフワッと立ち上った。思い起こすと何とも言えない「煙草の香りを殺しかねない」匂いだが、20年程たった今でもZIPPOを見るとその香りが脳内に再現される。「香りと記憶というのは結び付きが強い」と誰かが言っていた気もするが、こういうことを言うのだろうか。街なかでその香水をつけた人とすれ違うと、オイルの匂いまで自動的に想起する。オイルの匂いを嗅ぐとその香水の匂いまでもが、朧気おぼろげにしか覚えていない彼女の顔と共に記憶の奥底から引っ張り出される。もはや特殊能力と言っても過言ではない。

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4年間かけて多量のニコチンとディズニーキャラクターの知識、そして何の役にも立たない特殊能力を身に付けた僕は、なんとか無事に大学を卒業した。無論、これらの事柄は卒業要件には何の関係もないのだが。
アルバイトの成果もあり、唯一の交通手段であり、彼女と揃いだったスーパーカブも自動車に変わっていた。マールボロライトの煙をくゆらせつつハンドルを握りながら、僕は引っ越しのため遠く離れた海無し県を目指し高速道路を走る。社会人になったら少しは煙草の本数も減るだろうか。そんなことを思いながら、22歳の僕はアクセルを踏み込んだ。

→「Marlboro LIGHTS MENTHOL


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