どんぶり
「水曜日の男」の稽古をしました。
稽古場の近くで昼飯を食おうと、大型商業施設のフードコートに行きました。時間的にあまり余裕がなく、麺類とか丼物がよかろうと思い、パッと目についた丼物屋のカウンターへ向かいました。
「いらっしゃいませ」と店員さんが言いました。
「これください」と俺はメニューを指さしました。注文時、俺は基本的に店員さんと目を合わせません。
「並でいいですか?」
「並でいいです」
「大盛りじゃなくて?」
「並でいいです」
「650円です」
「じゃあ1000円から」
「350円のお返しです。ブザーが鳴るまでお待ちください」と、ブザーを手渡されました。
俺、そんなに大盛り食いそうに見えたのかな、と思って、店員さんの顔をチラ見しました。
まっつんでした。
まっつんは「水曜日の男」に出演します。
「あ、まっつん」と言い、俺は会釈しました。
まっつんはマスクを着けていましたが、目元の感じでニコニコしているのがわかりました。
「まっつん、あと30分くらいで稽古始まるけど、間に合うのかな」と俺は思いましたが、お仕事中だし、次のお客さんが待っていたので、聞きませんでした。
しばらくしてブザーが鳴りました。
俺は再びカウンターへ向かいました。
まっつんがいました。
やはりニコニコしています。
ブザーと引き換えに、注文したどんぶりを受け取りました。
まっつんは「あっちのテーブルに、七味とか、漬物とか、あるんで」と言いました。
俺は会釈をし、カウンターの近くのテーブルに移動しました。そして言われた通り、どんぶりに七味をふり、小皿に漬物を取りながら「まっつん、稽古、間に合うのかな」と思いました。
俺は腹ぺこだったから、あっという間にどんぶりをたいらげました。
おいしかったです。
フードコートなので、食器を返却口へ持って行きました。
「ありがとうございました」と、店員さんの声が返ってきました。
腹式呼吸の、よく通る声です。
まっつんでした。
ニコニコしています。
「お腹いっぱいですか?」
「そうですね。ごちそうさまでした」
「あ、じゃあ」と、まっつんは俺の食器を下げ、洗い始めました。
俺は会釈をし、「まっつん、間に合うのかな」と思いながらフードコートを出ました。
開始5分前くらいに、俺は稽古場に着きました。
そしてしばらく、まっつんの代役を務めました。
まっつんは1時間後くらいに現れました。
稽古場に着くなり、「大盛りとか、もう食えんすよね」と言いました。
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大体2mm「水曜日の男」
作:藤原達郎 演出:藤本瑞樹
[日程]2021年8月28日(土)、29日(日)
[会場]枝光本町商店街アイアンシアター
http://about2mm.blog.shinobi.jp
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