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【ホラー】消えていく

 R県S市出身のYさんから聞いたお話です。彼はある時期から妙な現象に悩まされているそうです。その現象とは「彼の周りの人やモノが消えていく」というものです。消えていくといっても単純な失踪などではありません。文字通り世界から消えてしまうのです。

 例えばYさんの友人がある日突然大学の授業に来なくなるという事件が起きました。携帯電話の連絡先からも消えてしまって連絡がつきません。周りの友人に聞いてもそんな人間は最初からいなかったというのです。友人が大学に来なくなって数日が経ったころ、Yさんはいても立ってもいられず友人の家まで行ってみることにしました。ところが友人の部屋のチャイムを鳴らしたところ、出てきたのは全く知らない人だったそうです。聞いてみたところ、その人はもう5年も前からここに住んでいてYさんの友人のことなど全く知らないと言ったそうです。Yさんは方々探し回りましたが友人どころか友人を知っている人すら見つからず、結局探すのを諦めてしまったそうです。

 またこんな話もあります。彼は学生時代賃貸マンションで一人暮らしをしており、彼が暮らしていたフロアの端には管理人さんが住み込みで働いていました。ある日Yさんは出先で部屋の鍵を無くしてしまい、スペアの鍵で部屋を開けてもらおうと思って管理人さんに電話をかけたところ、この番号は現在使われておりません、というメッセージが流れました。いつの間にか携帯電話を変えたのかな、ちゃんとお知らせしてもらわないと困るな、と思いながら直接部屋に行こうとしたところ、廊下が管理人さんの部屋の手前で終わっており、管理人さんの部屋自体が無くなっていたのです。壁や仕切りが新しく出来たとかそういうんじゃないんです。住人の部屋は101号室から109号室で、管理人さんの部屋は110号室だったのですが、110号室があったはずの空間自体がないのです。マンションの横幅も9部屋分しかないんです。不動産屋に電話しても、……もうお分かりだと思うんですけど、管理人なんか最初から置いていない、と言うんですね。不思議なことがあるものです。

 極め付きは、一昨年Yさんが実家に帰省した時の話なんですがね。電車で地元の駅に着いて家族の迎えを待っていたそうです。ところがいつになっても来ない。嫌な予感がして実家まで歩いて帰ったそうです。そうすると実家の場所が田んぼになっているんですよ。いつものYさんなら、やれやれまたか、と思うところなんですが、流石にこの時は取り乱してしまったそうです。そりゃそうですよね。だってその前の日まで電話で話していたんですから。その日からご家族とは連絡が取れていないそうです。

 Yさんはご実家が消えてしまって以来、地元に帰っていません。というより地元にも帰れなくなってしまったんです。Yさんのご出身のR県S市なんですけど、日本にイニシャルがRの県なんてないんですよ。

  Yさんは今とある商社にお勤めになっているそうです。ただあれ以来、周りの人が消えてしまったらどうしようという恐怖で、結婚どころか親しいご友人も出来ないそうです。そりゃそうですよね。ですのでYさんには今や関係者と呼べるような人間はほとんどいないんです。私?私は数少ない関係者ということになりますね。そして貴方も私を介して間接的にではありますが関係者ということになりますね。ご心配なく。貴方にこの話をするということはちゃんとYさんに了承を頂いていますから。誰が消えるか分からない以上、私も少しでも自分が消える確率を下げておきたいのでね。まぁ貴方と私のどちらかが消えても、残された側は消えたことにすら気付かないんでしょうけど。今度Yさんにも会わせてあげますよ。貴方が避けても絶対に会わせますから。よろしくお願いしますね。


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