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【ホラー】幽霊文字

 幽霊文字という文字がある。幽霊とはいっても何もオカルトじみた話ではない。"誰にも使われないが何故か存在している漢字"という、ただそれだけのものだ。

 日本ではJIS X 0208という規格で、コンピューターで使われる漢字が定められている。コンピューターで使われる漢字はどういうものがあるのかという取り決めをしておくことで、WindowsやMacのような異なる種類のコンピューターでも文書をやり取りすることが出来るのである。

 この規格の作成にあたっては、保険会社の持っていた人名漢字リストや国土地理協会の地名リストなどから、現代の日本で使われている漢字がピックアップされた。要するにこの規格に入っている漢字は、一般的な文書や人名・地名で実際に使用実績があるということである。

 ところで、この規格の中には幽霊文字と言われる以下の12個の漢字が含まれている。これらの漢字は、どの文書にも人名にも地名にも使用されていない。

墸 壥 妛 彁 挧 暃
椦 槞 蟐 袮 閠 駲

 これらの漢字が何故規格の中に入ってしまったのか。他の文字の写し間違いだとか色々説はあるものの、結局のところ真相は分からない。
 JIS X 0208の元となるJIS C 6226は1976年に当時東大工学部の教授だった森口繁一を座長とした「漢字符号標準化調査研究委員会」が2年の歳月をかけて案を作成し、さらに日本工業標準調査会の「情報処理部会漢字符号系専門委員会」で審議されたのち、1978年に制定された。
 当然このJIS C 6226時点で幽霊漢字は入りこんでしまっているのだが、不思議なことにいったい誰がこの漢字を潜り込ませてしまったのか、委員会のメンバーに聞き取りをしても分からないのだ。

 膨大な資料から漢字をひとつひとつ漏れなく被りもなく抽出していく作業は、大変神経を磨り減らすものだったであろうことは想像に難くない。そんな中で僅かながらミスが生じてしまったというのは当然ありうる話である。
 しかし、実は委員会の中に誰にも知られずおかしな文字をこっそりと混ぜ込む"幽霊"のような存在が紛れ込んでいたのではないか、そんな想像をしてしまうのである。

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