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WACC④⑤ 実務 : 株主資本コストの算出 CAPMとマーケットリスクプレミアム

WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)は、企業が資金調達にかかるコストを測る重要な指標です。このnoteではWACCを投資銀行家の目線から解説したいと思います。

WACC = (株主資本コスト × 株主資本比率) + (負債資本コスト × (1 - 実効税率) × 負債比率 ) 

式の中でも株主資本コストについてですが、前回話せなかったマーケットリスクプレミアムを中心にお伝えします。



【復習】株主資本コストの出し方(CAPMモデル)

株主資本コストを算出する方法として、CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)がよく用いられます。CAPMは、リスクと期待収益率の関係をモデル化したもので、以下の式で表されます。

マーケットリスクプレミアムとは、投資家が市場ポートフォリオ(例えば、日経平均株価やTOPIXなどの株式市場全体を反映する指数)に投資することによって期待する超過収益率のことです。 言い換えれば、リスクフリーレート(安全資産の利回り)を上回るリターンの期待値です。

なぜマーケットリスクプレミアムが存在するのか?

投資家は、リスクを負うことに対して報酬を期待します。株式投資は、債券投資などに比べてリスクが高いとされています。そのため、投資家は株式に投資する際に、リスクフリーレート以上のリターンを期待し、このリスクフリーレートを上回る部分がマーケットリスクプレミアムです。

マーケットリスクプレミアムの選択

繰り返しになりますが、マーケットリスクプレミアムとは、市場全体のリスクに対するプレミアムのことです。

リスクフリーレートはリスクがないときでも求められるリターン。

マーケットリターンは株式市場全体のリスクに対して、求められるリターン。

マーケットリターンとリスクフリーレートとの差がマーケットリスクプレミアムです。

それを前提にこの図を見てみてください。

https://ontrack.co.jp/f-terms/capm/

ではここからは色んな種類のマーケットリスクプレミアムをご説明します!

1. ヒストリカル法

概要: 過去の株式市場のデータ(例えば過去10年、20年の市場平均リターンとリスクフリーレートの差)から、マーケットリスクプレミアムを算出する方法。

メリット: 過去のデータに基づいているため、比較的容易に算出できる。
デメリット: 過去のデータが将来もそのまま適用されるとは限らない。市場環境の変化を反映できない可能性がある。

具体例: ITバブル崩壊やリーマンショックのような大きな市場変動があった場合、過去の平均値が将来のリスクプレミアムを正確に反映しない可能性があります。

ヒストリカル法のマーケットリスクプレミアムを見れるサイト

↑正確に算出されているわけではありませんが、遠くない数値を算出してますので、ここの数値使っても概ね問題ないと思います。実務ではヒストリカル法が一番使われます。

2. インプライド法

概要: 現在の株式市場のデータ(例えば、株式の配当割引モデルやオプション価格)から、マーケットリスクプレミアムを算出する方法。

メリット: 現在の市場環境を反映した値を算出できる。
デメリット: 使用するモデルやパラメータによって結果が大きく変わる可能性がある。算出が複雑で専門的な知識が必要となる。

インプライド法のマーケットリスクプレミアムを見れるサイト

世界各国のマーケットリスクプレミアムが載っているので比べるだけで面白いです笑 実務ではインプライド法とヒストリカル法の平均を使ったりします。

3. アンケート法

概要: 市場専門家(アナリスト、ファンドマネージャーなど)へのアンケート調査から、マーケットリスクプレミアムを算出する方法。

メリット: 専門家の見解を反映できる。
デメリット: 回答者の主観やバイアスが含まれる可能性がある。専門家間で意見が分かれる場合がある。

アンケート法のマーケットリスクプレミアムを見れるサイト

https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4754347

こちらのサイトでPDFファイルをダウンロードできますので見てみてください!簡単なユーザー登録が必要です。無料です!

以上でCAPMの各要素を一通り説明しきったと思います…。ちょくちょく記事を見返してより良い表現にしたいと思います。

参考文献

 資本コストを出した後どのように実務で利用されているかを詳細に書いてくれている唯一の本です。資本コストを意識した株主との対話の現場を臨場感持って書いてくれています。おすすめです。

最後に

今回はWACCにおける株主資本コストの算出方法について解説しました。このnoteでは引き続きWACCを投資銀行家の目線から解説します。

次回でシリーズ最終回になります!良かったらフォローしてください!励みになります。ではまた!


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言葉にするのは少し気恥ずかしいですが、「分かった!を一緒に」という言葉を大事にしたいと考えています。

私は公認会計士として投資銀行で働いていますが、実は数学が大の苦手でした。にも関わらず内気であるため、人に質問することも苦手で、試験勉強中も仕事も一人で四苦八苦することが多かったです。そのため自分で調べ、悩み遠回りしてきました。

その苦しみの分、私は「分かった!」という瞬間が大好きです。たくさんの「分かった!」が欲しくて、夜間大学院にまで行って学んでいるのかもしれません。

今回開設したメンバーシップにおいて、私の責任は皆さんが「分かった!」と思える瞬間をいかに多く作れるかにあると考えています。そして質問が大の苦手だからこそ、たくさん質問してほしいと思っています。迷うくらいならどんな質問でもしてください笑 その質問が他の方の背中を押すはずですし、いただいた質問に関しては翌日中にはお返しできたらと思っています。

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