見出し画像

【器のはなし】瀬戸だけずるい。他の六古窯が嫉妬するぞ。

よし、この連載も今回から新ジャンルだ。歌舞伎から器になるのであれば、今回はこの器をやらねばならない。

海老。

海老の横に、三升文。真面目に連載を読んでいる人の中で、ちゃんと細かなところまで覚えている人はすぐに分かっただろう。そうではない人も、なんとなく雰囲気で分かっただろう。海老に三升。これは市川海老蔵を意味する組み合わせなのである。以前書いたように、三升というのは市川團十郎家の定紋である。

この組み合わせでの「市川海老蔵図」の器は意外と数があって、目にする機会も多い。しかし、他の歌舞伎役者のものは見かけない。あと、志田窯で造られたものしか見ないし、どれも江戸幕末期なのよね。だから、誰かの発注かその時に海老蔵ブームが起きたかで製造されたものなのかなあって思ってる。その辺調べてる人いないかな。


これは江戸幕末期のものなのだが、どうして時代が分かるのかというと、ある程度数を見ていけば「雰囲気で」分かるようになるものだ。と、言いたいところだがそのように言ってしまうと納得されないので、「器の造り、白磁や呉須の色、技法、ものによっては柄もみると分かります」と答えておく。なんとなく分かるようになってきたといっても、江戸中期の終わり〜江戸後期あたりや、幕末〜明治の切り替わりなんかは判断しきれないところがあって、私はまだ訓練が足りていない。


先ほど「志田窯」と書いたが、これは伊万里焼の窯元の名前である。尺〜大皿をたくさん作っていたところ。今回の記事を読めば、志田窯だけは見分けつくようになります。今日はそれを目標にしよう。


ところで、私は伊万里焼をよく買うのだけど、そもそも伊万里焼ってなに?と言われがちである。そんなん調べればすぐに分かることなのだけど、進行上書いておこう。骨董の世界で「伊万里焼」というのは、伊万里港から出た焼き物のことを差す。港の名前からついている。

伊万里は佐賀県にあるのだが、佐賀県の有名な焼き物といえば「有田焼」だ。現在では有田で焼かれたものを「有田焼」、伊万里で焼かれたものを「伊万里焼」と区別している。これは地名に由来するパターン。他に、瀬戸焼、美濃焼、京焼など。ちなみに焼き物を意味する「セトモノ」という言葉は、瀬戸が焼き物で有名だからってところから来ているそうだ。瀬戸だけずるい。他の六古窯が嫉妬するぞ。

伊万里焼の話に戻そう。伊万里焼は、日本で初めての磁器である。それまでは陶器しかなかった。陶器の歴史は古く、縄文土器から始まるが、白くて堅い磁器は江戸時代からと比較的若い。世界で見ると磁器の誕生は中国になるが、日本は中国と近く技術を持った朝鮮人がやってきて開発してくれたので世界的に見て割と早い段階で磁器製作に成功している。フランスとかは結構苦労したらしい。技術者を何年も幽閉して作らせたりとか。


伊万里焼とひとくくりにしても、いくつか窯元があって、志田窯はそのうちの一つである。志田窯は特徴を知っていればすぐに見分けることが出来る。

・器面を白く見せるためにエンゴベーと呼ばれる白化粧土を塗っている
・高額な呉須を節約するために、裏側は模様が無いことが多い。
・表の模様は食器として使いたいものより、飾り皿にしたいものが多い。
・大皿、尺皿、中皿などが多く、小皿や猪口などは少ない。鉢も少ない。なます皿は見る。


まず、一番分かりやすいエンゴベーを見ていただこう。

裏側の縁周辺を見ると、なにか白く塗られているのが分かる。これがエンゴベーである。塗られている場所といない場所を見比べると、塗られていないところは青みがかった白磁をしている。

今回の器は、裏側にもちょっと模様が描いてあってちょっと珍しい。といっても、かなり雑にささっと申し訳程度にやってるのだが。


裏側の話ついでに。高台の中をみると、3箇所(4箇所かも)丸く跡がついている。これは目跡といって、重ね焼きをした跡である。重ね焼きをすることで、一度に焼ける器の量を増やし、生産コストを下げる。


飾り皿にしたい絵付けというのは、物をのせたときにあまり映えないという意味で、こういう絵付けは結構多い。これもそう。何かのせたら海老が見えなくなるし、縁の模様はシンプルすぎる。


志田窯の見分けがつく能力を手に入れたっぽくなったところで、気になっているだろう部分に触れておこう。

バキバキじゃね?

バキバキである。これは、表面の透明釉の部分だけバキバキになっていて、器本体にはヒビは入っていない。焼きの温度が低いとこうなる。昔は電気窯ではなくて、火を使った窯だったので温度調整が難しく、こういうのが出来上がることも多かった。藩主に献上するなどの完璧を求められる場合でなければ、割らずに流通していたみたいだ。

いま生産されている焼き物の陶器ではバキバキを見ることはあれど、磁器はほとんど無い。半磁、半陶はあるかも。陶器のバキバキは「貫入」と呼ばれ、器の味わい、表情として寧ろ喜ばれるものである。萩焼の経年変化や薩摩焼の八重貫入などは貫入が無いと成立しない。では、なんで磁器では見ないのかというと、見た目が悪いからである。カマキズの一種。使う分には問題がない。


まだ気になる部分があるだろう。

物がのっている。これは、のっているというか、くっついている。焼くときに灰などが降ってそのままくっついたもの。フリモノと言われる。これも見た目が悪いので、カマキズの一種に数えられる。そのまま使って大丈夫。

あと黒点。これもカマキズ。胎土に含まれた鉄分などの不純物が、取り除かれずにそのまま練り込まれ、焼いたときに器の表面に出てきてしまう。

磁器は白くてツヤツヤしてるのが理想で、陶器は少し歪んだくらいが味わい深いとされる。好みが分かれるところだが、私はどっちも好きだし、なんなら半陶も好きだ。


次回更新 10/24:器の話をする予定。最近茶碗を間接照明にする記事更新したから、それに出てきた茶碗の話をするかも。
※だいたいリサーチ不足ですので、変なこと言ってたら教えてください。気になったらちゃんと調べることをお勧めします。


めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。