【季語のはなし】月と蛍が夏に登場することへの理解が深まるように思う

八月ももうすぐ終わりなので、いよいよ夏の季語をやっておかないと秋になってしまう。ビールはもう秋だし、アイスすら芋になっている。早いよ、まだこんなに暑いのに。

夏の季語を全部書くのは辞書なので、人間の私は気になったやつだけ言っていきます。出典は角川書店編『合本俳句歳事記』第五版。


暑い暑いで「炎昼」はいっぱい使っていきたい。真夏の灼け付くような暑い昼のことで、夏の間ずっと外に置いたままのサンダルを思ったら炎だよな〜ってなる。新しい季語で、初出は昭和十三(1938)年らしい。

炎でいえば「炎暑」も同じく。昼だけ暑い時は炎昼、もう三日位ずっと暑いんだが?ってなったら炎暑を使うことにしよう。

暑さに関する語で求めてた!ってなったのは「溽暑」「油照/脂照」。暑い上に湿気が多い不快感、じっとり汗をかく蒸し暑さ。油照の午前だねえ〜と言っていきたい。いやどっちかというと、「ああ〜もう!油照、油照!」みたいに焦燥感と気怠さが混じった言い方の方がいいかなあ。

夏は夜が短く、暑さで寝苦しいのでたちまち朝になる意味の「短夜」「明易し」はなんとなくおしゃれ。今年の夏は暑くて寝られない日を数日過ごしたけれど、苦しんでいるうちに空が明るくなっていって、もう寝なきゃなってようやく寝られたのを思い出した。夜が短いと差し込んでくる朝日にホッとする瞬間も早く訪れる。


夏は夜。夕方。朝。これは夏の中でも涼しい時間帯として書かれている例が多かった気がする。

夏は夜。月のころはさらなり。やみもなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、 ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。

枕草子より

夏の灯」という季語がある。「夏灯」「灯涼し」とも。夜になって灯火を見ると涼しさを覚えるの意味で、これを夜の闇に光があると涼しく感じられると解釈すると、月と蛍が夏に登場することへの理解が深まるように思う。そう考えると、花火もまた涼しさを感じるものだ。


夏は「かげ」を求めて歩く。ここで言う「かげ」は月のことではなく、普通に日の当たっていない場所のことを指している。これが「片蔭」。道の片側にできる、くっきりとした日陰。いつでも日差しは暑いけど、夏ほど避けたいシーズンはない。

持ち歩ける日陰こと、日傘も当然夏の季語である。日傘でできる陰のこと、丸陰って言いたいけど今作ったから誰にも通じない。


建物の他にもくっきりとした陰を作るのが、木である。「木下闇/木の下闇/下闇/青葉闇」は、木々が鬱蒼と茂るようになると樹下に昼とは思えない暗さになること。うむ、確かに夏は木々が一番のびのびして緑いっぱいの山ができるな。「山滴る」だな(今回一番好きな季語)。

山の緑の上に青い空があって、モクモクと発達した白い雲がまるで山脈のようだ。そう思った車内はありませんか。「入道雲」「積乱雲」と言ってしまってもいいけれど「雲の峰/峰雲」を使うと空にある山感が出て好きです。


初夏に収穫を待つ麦は、夏に秋を迎える。「麦の秋」夏なのに、秋。秋は実りの時を意味するらしい。なるほど……

田んぼの話をしよう。「水喧嘩」「水盗む」は、どちらも自分の田んぼに水をひこうとした農家の行動である。喧嘩するのは正面からぶつかっていてよいが、盗むやつもいるのだな。気持ちは分かる。作物が育ってほしいのは自分達が生きるためだ。

水を盗むやつが嬉しいのは雨が降ることだろう。本当はそんなことしたくないはずだし。バレたらイタイイタイされそうだし。「喜雨/雨喜び」は、日照り続きで草木が枯死しようとしている時ようやく降る雨。「晴れの日が良いなんて誰が決めたんでしょうか。」みたいな台詞を今日見ていたドラマで聞いた。

ところで蝉のうるささを言い表す「蝉時雨」というのがあります。ああ、確かに蝉の声って一気に降ってくる雨って感じ、あるよね。


今回初めて知ったんだが「土用」は各季節の最後の十八日間のことを言うらしい。だから、三月、六月、九月、十二月にある。しかも十八日も!長い!ずっと鰻食べる口実ができてしまった。でも通常「土用」と言ったら夏のことを指すから夏以外は鰻を食べる口実作れないかも。

土用一日目を土用太郎、二日目を土用次郎、三日目を土用三郎というそうだ。面白い。擬人化好きはずっとなのかしら。



こういう系の話が好きな方は↓をどうぞ。

次回更新 9/11:悩み中。決まらなかったら器。
※だいたいリサーチ不足ですので、変なこと言ってたら教えてください。気になったらちゃんと調べることをお勧めします。


めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。