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【器のはなし】手持ちの中で多分一番出来の良い器を見せながらずっと話す

手持ちの中で、多分、一番出来の良い器。江戸中期染付蛸唐草文なます皿。金継ぎされているから骨董品としての価値がすごくあるわけではないし、これよりもっとすごいものが美術館や博物館に行けば見れるわけだけど、それでもやはりこれは美しい。

江戸中期の伊万里だから古伊万里にカテゴライズされる。「古伊万里」というのはざっくり言えば江戸時代の伊万里焼のことで、人によっては江戸時代の作で出来が良いもの(上手じょうてのもの)をだけ古伊万里と言ったりする。伊万里焼は誕生して割とすぐに全盛を迎える。それが江戸中期にあたる。つまり、より上手の古伊万里を探すなら江戸中期を当たればヒット率が高いということだ。ちなみに値段が高い=上手ではない。値段の高さは数の少なさによることが多い。あとは人気によっても変わる。

泥棒が持っている風呂敷の柄こと蛸唐草。この柄の良さがずっと分からなかった。泥棒の風呂敷の代名詞になったのは当時の流行柄だったからだというけど、なぜこんなウニョウニョしたものが好まれたのか。理解に苦しむ。

けどこの蛸唐草、綺麗じゃん。描き方で印象が全く変わるのか。静謐で端正な筆致が私に蛸唐草の良さを教えてくれる。みんなも蛸唐草の魅力が全然分からん!と思ったら、この器を見るといいよ。

これよりもずっと美しく描いたものも存在していて、それはこんなに複雑な線をしているのに輪郭線が使われている。意味が分からん。コピペ出来ないのにそんな面倒な作業したくない。それよりもっと手間がかかるものも存在していて、白と青が反転している「逆蛸唐草」というものだ。これはマジで意味が分からん。逸材という逸材、神の手を持った人しか描けないんじゃないか。

蛸唐草の話をしすぎた。蛸唐草文のなます皿といえば、その八割、見込みの柄が松竹梅だ。しかしこれは違う。そこも好きだ。草花を紋様化したものなのだけど、具体的なモチーフは定まっていないらしい。

素地の白さに染付の藍色、見込みの洋風な模様が、蛸唐草文をアラベスク模様と言わせてくる。この和風なのに洋風な感じ、世界は繋がってるんだ!とか言いたくならん?ならんか。私もならなかった。現実、地球上にいるのは同じ人間だ。生えている植物の種類が違くても植物は植物、似たものがあって、それらをモチーフにした模様が似るのは当然ではある。

分かりにくいのだけど、これは比較的薄手に造られている。薄く造ると歪みが出やすい。触らなくても見ただけで歪んでることが分かるものも多い中、これはかなり焼成が上手くいっている。これが完品だったらどれだけの値段になっただろう。もしかすると一万円近くするかな。そしたら買えなかった。なます皿に出せるの三千円くらいが限界かも。

ようやく裏側へ。飄々とたなびく唐草文が立ち上がりの部分に描かれていて、シンプルめ。高台の中には「富貴長春」と書いてあり、漢字間違いが無いのは偉い。当時世界中で人気のあった中国磁器を真似している。この文字を書いた人はこの文字の意味を理解するような教養があったか分からない。

下の白磁が青みがかっているのがよく分かる。現代では真っ白の器が百均でも売られているが、あれに同じ模様を描いても全然違う雰囲気になってしまう。昔の器は全くの白では無いからだ。白が二百色あるのはファッションの世界だけではないのだ。

この青みがかっているのを真似して、青寄りの白い磁器を作り、古伊万里の写しを作っているところもあるのだが、それもまた別の雰囲気を出している。なんか、何かが違う。経てきた時代の分かと言われると、そういうわけではないと思う。なんだろう。

金継ぎが丁寧なのも注目すべきポイントだろう。購入時にこのようになっていた。金がくすんでいるし、微妙に線ががたついているから、継いでから年月が経っているのだろう。これが割れた時は悲しかっただろうな。大声で叫んだかもしれない。

番町皿屋敷で割れた皿ってどういうのだったんだろう。漠然とヤマザキパンまつりの皿みたいな真っ白で平らなもののような気がしていたけど、今考えたら絵柄は書いてありそうだよなあ。磁器だったかも分からん。でも、もし、江戸時代で真っ白の磁器を割ったとしたら命差し出すくらいの価値はあったかもしれないな。使用人の命の価値があんまりよく分からないけど、磁器を何枚も持てた家だったらかなり身分高くて金持ちだっただろうし。

という感じで、一つの器だけで話をしてみたらどうなるかな〜と試してみたらこうなった。なんか解説感〜。もっとパッションで話す予定だったのに。次やるならパッション全開で行きたい。



こういう系の話が好きな方は↓をどうぞ。

次回更新 5/27:そろそろ器以外のことをやりたい気持ちはある。
※だいたいリサーチ不足ですので、変なこと言ってたら教えてください。気になったらちゃんと調べることをお勧めします。

めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。