【歌舞伎のはなし】咲て見れば團十郞でなかりけり →建ちてみれば街のパン屋でなかりけり

結構話したからな〜そろそろ演目の話でもするか〜って思ったんだが、舞台セットの話をしてない。あと着物とかの話もしたい。


舞台セット

とりあえず、セットの話からするかあ。花道はかなり認知度が高いから、どこのことを指しているのか言うまでもないだろうが、客席から舞台に伸びる通路のことである。ここも舞台の一部になっていて、客席を突っ切る形であることを利用した使い方をされる。

ゆっくりと歩いて登場したり、勇ましく追いかけるように退場したり、客から距離が近い分ファンサービス的に使われる。例えば、『助六由縁江戸桜』では花魁道中、「勧進帳」では飛び六方、「白浪五人男」では五人の盗人が揃って自己紹介をするなど。

客を客としてもてなす一方、客席を舞台の一部に取り込む演出もよくある。川や海とみなしたり、野次馬とみなしたり。現代で思い浮かべるような舞台と比べると、明らかに距離が近い。大衆文化の感じがいい。


舞台の中心は廻り舞台になっており、円形にくりぬいてある。半円で区切り、区切れ目に一つの背景を置いて、背中合わせに別の背景を置くと舞台の転換が素早く出来る。また、長旅を表すシーンなどで役者が足踏みをしているだけなのに、廻り舞台を動かすことで舞台上の小道具の位置が動き、まるで進んでいるかのように見せるやり方もある。『野田版 研辰の討たれ』か何かで見た記憶がある。

セリスッポンは、どちらも人一人ポンと出てこれるくらいの大きさの穴。幽霊系はこちらから、みたいな決まりがある。ここから小道具が出てくることも。

初めは能舞台のような形だったが、次第に変化して今の形に落ち着いたらしい。時代に合わせて機械化したり、電気がついて夜公演ができるようになったり、初めは河原でされていたものとは思えないくらい発展している。



衣装

成田屋(市川團十郎家)なら三升、中村屋なら角切銀杏のように、お家ごとに紋があり、それが衣装に使われることも。化粧をして誰かわからなくても、紋を見ることで見当をつけることができる。

市川團十郎家でいうと、三升は定紋という位置付けで、これはメインの紋となる。メインがあるということは、サブがある訳でサブの紋のことを替紋という。成田屋では杏葉牡丹である。さらに、役者紋というのが存在しており、くだけた感じで使われる。成田屋は「鎌輪ぬ」。手ぬぐいのあれです。


定紋は家の芸を象徴するもので、成田屋はこちらを身にまとうことが多い。歌舞伎十八番の『暫』は思いっきり三升紋だから分かりやすい。逆に、中村屋は伝統芸というより世話物が多いので、役者紋の中村格子をよく使う。中村格子は三筋格子に「中」「ら」の文字と散らす判じ絵的なもの。三筋格子の縦横三本線が交わると「六」ができるため、これを「む」と読ませて、「中・む・ら」としている。

三代目尾上菊五郎が愛用した「斧琴菊」は「良き事聞く」の判じ絵になっている。あ、判じ絵というのはイラストや記号などで単語や文章を作る遊びのことです。歯と尻と猿を描いて、走り去ると読ませるみたいな。役者紋はそういう洒落を効かせたものが多く、面白い。

市川團十郎家の定紋・三升の話に戻るが、江戸幕末期の伊万里焼(志田窯)で伊勢海老と三升を描いた器が割とある。これは想像通り、市川海老蔵を表す文様だ。市川海老蔵ブームがあったのか?適当に調べたら出てきそうである。興味のある人が調べてくれたら嬉しいなあ。他の歌舞伎役者でこういう器の文様に採用されているのを私は知らない。あるのかなあ。


衣装で言えば、この役ならこの衣装(文様)と決まっているものも。八百屋お七なら麻の葉鹿の子、弁慶なら弁慶縞というくらいしか今は思いつかないけど、そういう感じで演じるキャラクターによっても衣装がなんとなく決まっている。歴史的にこの柄を着てるよね程度で形式化はしてないと思うが、実際どうなんでしょう。好評だった時のを真似して、それが続いてたりする。

あと、これは調べたことではないが、へぼめの悪役(田舎侍など)はかなり派手な格好をして出てくる傾向がある。黄色とか紫とか。なんとなく主役(立役)の方が目立つ色を使いそうなものだが、案外しっとりした色を着ている。これは悪役の方は悪趣味な組み合わせで目立っているだけなので、多分「目立つ」の方向性が違う。主役級の方は普通にセンスの良い組み合わせで、美しいので目立つ。(やつしの場合、一般市民と同じ感じの衣装を使うことが多い。ただ、役者の演技で元々の位の高さを隠しきれていない様子が表現されている。)

衣装についての論文も出ているが、私はあまりちゃんと調べられていない。最近タブレットをゲットしたんで、これから読みたいなあ。



団十郎朝顔

先日、Twitterのタイムラインに「団十郎朝顔」という渋い色の朝顔が流れてきた。名前を見る限り、どう考えても市川團十郎絡みなので調べる。初めて知りました。

団十郎朝顔というのは、柿色の朝顔のことだそうだ。Wikipediaより引用。

明治初期、入谷の植木屋成田屋留次郎が、柿色丸咲きの朝顔を自らの屋号より「成田屋」と名付け販売しており、当時劇壇の明星であった九代目市川團十郎の三升の紋が柿色に染め出されている事により、「成田屋」と呼ばれた朝顔が「団十郎」と呼ばれるようになった。

お店の屋号が市川團十郎家と同じ「成田屋」だったことと、柿色が歌舞伎の成田屋で使われていたことで、次第に朝顔が「団十郎」と呼ばれるようになったらしい。面白い。

この元々の朝顔は途絶えてしまい、今咲いている団十郎朝顔は当時のものとは別物とのこと。江戸時代は園芸が盛んだったので、そういう品種は他にもいっぱいあるだろう。菊とか牡丹とか椿とか。絵画で記録され伝わっているものもあるが、今見ようと思っても見られないものがたくさんある。逆に、今我々が見ているものも、そのうち見ようと思っても見られなくなってしまうんだろう。


一般的に、「二代目團十郎が『暫』で柿色の衣装を着ていたから、柿色の朝顔が団十郎と呼ばれるようになった」と言われているらしいが、時代が重ならないので否定されている。

この辺は参考にしたWikipediaがやたら詳しく書いているので、気になる人はそちらを当たられたし。正確さを求めるなら、載っているであろう参考文献の方を当たられたし。


最後に、正岡子規の団十郎朝顔を詠んだ俳句が面白かったので紹介する。これも上記Wikipediaに載っていた。

咲て見れば團十郞でなかりけり 

団十郎朝顔と思っていたが、咲いたら違った。ということだろう。買ったものが違ったという話だったら最悪ですね。まあ、植物だから育つまでに時間かかって詐欺をするなら楽なのかもしれない。咲く頃に店を畳んじゃえばいいのだし。

なんかこれ、「建ちてみれば街のパン屋でなかりけり」って言い換え出来そうだな。ワクワクしていたものが実は違った、という意味合いで。



次回更新 8/29 :歌舞伎のはなしの続き、そろそろ演目のはなしをする予定
※だいたいリサーチ不足ですので、変なこと言ってたら教えてください。気になったらちゃんと調べることをお勧めします。



めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。