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風の電話

 「これは絶対に見に行く価値があるぞ」

 映画にくわしい友人が強く勧めるので、出かけてみました。4年前の冬、何の予備知識も持たずに。結果的にひとりで行ってほんとによかった。平日でお客さんが多くなかったのも、そう。


 津波で大槌の家族を失い、広島の叔母のところで暮らす高校生、ハルのおはなし。叔母の病気を機に、ヒッチハイクをしながらふるさとへの旅に出るロードムービーになります。公平(三浦友和)、妊婦とその弟、森尾(西島秀俊)たちに出会い、助けられながら大槌の実家、そして、今は亡き人と話ができる「風の電話」にたどり着く。大筋はそんなところ。

  ☆ ☆ ☆ ☆

 大震災のときに友人たちといっしょに、当時住んでいた函館から岩手に入り、ほんのわずかの支援をさせていだだきました。スクリーンを見ながら、そのときの情景がフラッシュバック。
 道路わきに積まれた大量のがれき。打ち上げられたままの漁船。くずれたままの住宅。なにより身内や友人を失った人たちのかなしみを近くで見ているのはつらかった。
 そして、この映画を教えてくれた友人もまた、自分といっしょに現地で動いた仲間でした。館を出てもあふれるものがとまらなかったのは、そんな想いもあったから。


 帰ってから調べたのですが。
 この映画には台本がなく、撮影の朝にストーリーが書いてある紙が10枚ほど渡されるだけで、セリフはその状況で役に成りきった俳優の、自分の言葉らしい。あまり書くとネタバレになるので控えますが、ラスト10分の「風の電話」で彼女が家族に向けて語るシーンは、ふるえるほど切なくて。それも台本ではない、彼女自身のことばで。

 上映の規模としては正直、あまり大きくなかったのですが、DVDになっているので「この世界の片隅に」のように、しずかに評価が広がってほしい作品です。


 それにしても、映画で描かれる海と風と雲と光は美しくて。ハルの家族や地域の人たちを大勢飲み込んで、さらっていった海がこんなにきれいに見えてしまうのは、なぜなんだろう。