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娘の発病のこと

あれは、2020年2月27日のこと。
仕事で移動中だった私のスマホに着信音がなりました。

運転中のため、普段はそのままにしておくのですが、その時は、ちらりと画面を見ると
03
という数字が目に入りました。
「東京だ」
「娘に関係することかな」

少し胸騒ぎを覚え、道路脇に車を止め
着信の電話を取りました。

「もしもし。娘さんの学生マンションの管理会社ですが」
と、女性の声。
「はい。何でしょう。」
と私。
電話の向こう側で若い女性が続けて話しました。

「実は娘さんが、マンションから飛び降りたいから屋上に繋がる場所の鍵を貸して欲しいと
言われまして。
管理人は、もちろん、お断りしたところ、
自分の部屋から工具を持ち出されまして
屋上に通じるところのガラスを割られました。
娘さんはすぐに管理人に取り押さえられ、その後警察に保護されてます。どうされますか。」

私は咄嗟に答えました。
「すぐに迎えに行きます」
と。
仕事を上の空で片付けて、取るもとりあえず、
夕方の新幹線に飛び乗って東京へと向かいました。
丁度、新型コロナが出始めた頃でした。

A警察署に着き、娘のいる場所に案内されて
行くと、えんじ色の美しいフォルムのワンピースに身を包んだ娘が、飛んできました。 
「まあ、母さん。母さんには言わないでと言ったのに。」

そんな娘を私はハグしました。
「あぁ。生きていて良かった」


「お嬢さんは、母さんには言わないで。仕事で忙しいんだからと怒られましたよ。」

と苦笑いしながら、担当の刑事さん。
お礼もそそくさに、近くのホテルに娘と一緒に泊まりました。

「明日、一緒に家に帰ろうね」

と言って同室のホテルで、化粧落とすものも何も持ってないことに気づき、

「まあ、今日は、そのまま寝るとするよ。
そんな日もあるよね。」
と言うと、娘はキッとした声で言い放ちました。

「母さん、会社の上司がそんなだと、下の人はついてこないよ!」
と。
娘の雰囲気から何かピリピリしたものを感じ、
思わず口を閉ざしました。

その後、娘の様子がこれまでと全く違うことに気付きました。

急な宿泊予約だったので、ダブルベッドの部屋しかなく、
部屋着に着替えて
「寝よう」
と促すと
「お前となんか、一緒に寝られんよ」
と、ベッドの下に潜り込んでしまいました。

実は、東京に向かう新幹線のホームで大学の
学年主任の、先生から電話があり
「実は娘さん、1月の末から、言動がおかしかったんです。特にメールの内容がおかしかったので
病院に行った方が良いよとは伝えていたのです。
お父さんにも電話でそのことを伝えようとしましたが、繋がらなかったので。」
と言われていました。

娘は精神疾患にかかったのではというのが、
先生の見解でした。

私は、いつ何時、娘が逃げ出すかもしれないという恐れに包まれながら、ウトウトと一夜を過ごしました。
途中、ベッドの下を見ると、服のままで、寝っ転がって寝ている娘。
そっとプランケットをかけると、それに
気づくやいなや、パッとそれを跳ね除けて
また寝てしまう娘。

生きた心地もしませんでした。(次へ続く)

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