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ホーチミンに来ています

7月初旬のホーチミンは、午前中はカラっとした青空が広がって少し歩くだけで汗が出てくるような暑さだけれど、昼過ぎくらいにはほぼ確実に雨が降る。時には滝のような。本場のスコール。

通りを歩くと、けたたましいクラクションと共に、日本じゃ考えられないくらいの量のバイクが行き交う。そんな排気ガスの臭いは雨のお陰で多少緩和される。一方で雨によって路面に大きな水たまりができると、今度は下水のような臭いが漂ってくる。
道沿いの飲食店からは肉を焼く匂いや強い調味料の匂い。露店からは熟れた果実の匂い。見上げれば原色のネオンは派手な看板。日本にいる時よりもあらゆるものの刺激が強い。

路地に入るとおっちゃんやおばちゃんが大声で元気に話している。住宅からはテレビやラジオの音が漏れ聞こえてくるし、時には路上で音楽を大音量で流してカラオケ大会的なものが催されている。大声で自信満々に歌ってる割には音外しまくり、がなりまくりで、びっくりするくらい下手くそ。

ホーチミン市内にある日本人ゲストハウスで3週間過ごす。そのくらいの期間を一つの場所で過ごすことになると、「観光」と言うのも何だか違う気がするし、かといって「暮らす」というのは大げさな気がして、「過ごす」という言葉くらいしかしっくりくるものがない。着いてから数日間は、一緒に泊まっていた日本人や韓国人のみんなと、ホーチミン市内の観光名所をまわったり、夜に屋台にご飯を食べに行ったり飲みに行ったり、観光名所をまわるツアーに参加したりと、ザ・観光といったことをしていたが、そんな彼らがみんな、それぞれ次の場所に出発してしまい、今は仕事などでの長期滞在者しかいない。

もちろんこっちでやりたいこと、行きたい場所はいくつもある。けれど観光の予定をぎっちり詰めたくてここに来たわけではない。なのでこうして、宿の屋上のテラスで、You Tubeやネットを観たり、本を読みながらのんびりしている。昼ご飯は宿から歩いて2分くらいのところにある屋台で買ったブンリュウ(トマトベースのスープにビーフンが入ったベトナム料理)35000VND(約213円)。おやつには同じく近くの屋台で売っていたサトウキビジュース10000VND(約60円)。単位がやたらと大きいベトナム通貨の扱いにも慣れてきたし、たくさんのバイクが行き交う信号のない道を横断するコツも少しずつ分かってきた。

仕事の変わり目で比較的長めの暇な時間ができるとわかったとき、東南アジアに行きたいと思った。「東南アジアの街」といってイメージするような、雑多で猥雑で賑やかで活気に満ち溢れているようなところを見てみたかった。せっかく時間があるのだから、ベトナム・カンボジア・タイ・インドネシア・香港・台湾など、いろんな国や地域をまわったほうがお得と考えることもできる。けれど2、3日滞在して有名な観光地を巡るような旅は、仕事の合間の連休で、今後もできるだろうけど、そこそこ長い期間を同じ場所で過ごすという旅はなかなかできるものではない。一つの場所に長く滞在して、何かあるかもしれないし何もないかもしれない。

海外旅行は今回が初めてで、英語すらロクにしゃべれないにもかかわらず、一人旅をするというのが無茶といえばその通りなところもあると思う。だからこそ、オーナーやスタッフ、そして客同士で交流ができるゲストハウスという場所は心強い。日本語が通じるのであればなお良い。そんな中で見つけたのが、今宿泊している、ホーチミン市内にある兎家ゲストハウスさんだった。

この宿は日本人のオーナーさんが経営していて、日本語が話せるスタッフさんが常駐している。さらにはホーチミン周辺の観光ツアーやタクシーの手配などもしてくれるので、一度そこに着いてしまえば安心だ。今はお客さんが少ない時期のようで、スタッフやお客のみんなで近くの屋台などに飲みに行くこともある。ホーチミン市内には、上野のアメ横をもっと猥雑で地元密着にしたような通りがそこら中にたくさんある。英語表記のメニューもなければ英語がわかる店員さんもいないような地元の人だけが訪れるような店で、ベトナムの作法でベトナム料理を食べた。

旅をすることの醍醐味が、普段の暮らしの中では見られないものを見ることができたり、できない経験をすることだとするならば、歴史も風土も気候も文化も、いろんなものが異なる中に身を置いている時間それ自体が、まさにそれを味わっているタイミングなのだと思う。もちろん観光名所をまわるのも楽しみでもあって、この旅の中でいくつかそのような計画もしている。宿のテラスから通りを眺めると、電信柱には何十本もの電線が絡まり、雑多にぐるぐる巻きに束ねられている。狭い路地をバイクが何台も走り抜け、上裸のおっちゃんがベンチに腰掛けて昼寝をしている。そこで暮らしている人たちにとっては日常であっても、私にとっては非日常な光景だ。


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