🔶私の好きな奈良：石上神宮 伝承通りに神剣が出土して150年 日本最古の神宮

天理市にある石上神宮（いそのかみじんぐう）。
タイトルの写真は国宝の拝殿、左後方に屋根の千木（ちぎ）が見えるのが本殿です。

日本書紀に記された「神宮」は、伊勢神宮と石上神宮だけで、この石上神宮は日本最古の神宮と言われています。

ところで、「神宮」というのは「神社」とどう違うのか、ご存じですか？
神社本庁のホームページには、以下の記載があります。

「神宮」や「宮」、「大社」、「神社」などの名称は、神社名に付される称号で、「社号」といいます。また、「神宮」といえば、伊勢神宮を示す正式名称ですが、現在「神宮」の社号を付されている神社は、天皇や皇室の祖先をお祀りするなど、皇室と特にゆかりの深い神社に限られています。その例としては、天皇をお祀りしている平安神宮や明治神宮、皇室の祖先をお祀りしている霧島神宮や鹿児島神宮、そして特別なゆかりのある石上(いそのかみ)神宮、鹿島神宮・香取神宮などです。これに対して「神社」は、その略称である「社」とともに一般の神社に対する社号として広く用いられています。また、「宮」は天皇や皇族をお祀りしている神社や由緒により古くから呼称として用いられている神社に使われます。「大社」はもともと、天孫(てんそん)に国譲りを行い、多大な功績をあげた大国主命(おおくにぬしのみこと)を祀る出雲大社を示す社号として用いられてきました。しかし、現在「大社」は、広く崇敬を集める神社でも使われています。

神宮・神社の名称 | おまいりする | 神社本庁公式サイト (jinjahoncho.or.jp)

整理すると、
・「神宮」、「大社」、「神社」などは神社名につけられる「社号」
・「神宮」は皇室の祖先を祀っているか、特別なゆかりのあるもの
・「神社」は一般の神社に対する社号
・「大社」は天孫に国譲りを行った大国主命を祀る出雲大社を示す社号

現在、日本国内に神宮号を名乗る神社は２５ある様です。

日本書紀によると、第10代崇神天皇のときに、宮中に祀っていた神剣韴霊（ふつのみたま）と十種神宝（とくさのかんだから）を大和国山辺郡石上邑に遷したのが、石上神宮のはじまりとされています。伊勢神宮の記載は第11代垂仁天皇の時代ですから、石上神宮は日本最古の神宮となるわけですね。

石上神宮の大鳥居と参道

石上神宮の祭神

主祭神は
①布都御魂大神（ふつのみたまのおおかみ）
②布留御魂大神（ふるのみたまのおおかみ）
③布都斯魂大神（ふつしみたまのおおかみ）
の三神です。

ぱっと見、３つとも同じに見えますが、ちょっとずつ違ってます。
どこが違うかよく見てくださいね…

①布都御魂大神：
神体の布都御魂剣（ふつのみたまのつるぎ）に宿る神霊で、三神のなかでも主であるとされています。
古事記・日本書紀にある国譲りの神話に登場する武甕雷神（たけみかづちのかみ）が、国土平定の際に用いた神剣が布都御魂剣です。この剣は、初代天皇の神武が熊野から大和に入る際にも助けとなっており、物部氏の遠祖に命じて宮中に祀ることになりました。その後、第10代崇神天皇の時代に石上邑に遷したのが前日の石上神宮の創建です。

②布留御魂大神：
十種の神宝に宿る神霊です。
饒速日命（にぎはやひのみこと）が天津神（あまつかみ）から授けられた十種の神宝・天璽十種瑞宝（あまつしるしとくさのみづのたから）には死者をも蘇らせる力が秘められていたとされます。後に饒速日命の子・宇摩志麻治命（うましまじのみこと）がこの神宝を用いて、初代天皇と皇后の長寿を祈ったとされます。布都御魂大神と共に宮中から石上に遷されたとされます。

③布都斯魂大神：
布都斯魂剣（ふつしみたまのつるぎ＝天羽々斬剣、天十握剣とも呼ばれる）に宿る神霊。
素戔嗚尊（すさのおのみこと）が出雲国で八岐大蛇（やまたのおろち）を退治するのに用いた剣で、備前国の石上布都魂神社に祀られたあと、崇神天皇の時代に石上神宮に遷されたとの伝承があります。

神代三剣に数えられるのは、天叢雲剣（あまのむらくものつるぎ＝草薙剣、熱田神宮の祭神）、布都御魂剣、布都斯魂剣ですから、日本三霊剣のうち二剣が石上神宮の祭神（上記の①③）ということになります。

なお石上神宮ではこれらと別に、百済から倭王に献上されたとされる国宝の七支刀を所有しています。これについては2025年、約5年ぶりに公開されるのではとの情報があります（奈良国立博物館）。

1874年、禁足地から伝承通りに神剣が出土し、今年で150年

古くからの伝承に従って祀られていた神剣およびその神霊ですが、明治に入って大きな変化が起こります。

石上神宮には古来、本殿がなく、拝殿の奥の瑞垣で囲まれた禁足地を、神宝が埋斎されている聖地ととして祀ってきました。

1873年（明治6年）、江戸時代末期に水戸藩の医師であり歴史家として活動していた菅政友（かんまさすけ）が大宮司として赴任すると、神宮の由緒をより正確にし、神体をより正しく相応しく祀るべきだと考えました。
翌1874年に教部省に伺書を提出し、許可を得て地方官立ち合いで禁足地の発掘調査を行うことになりました。

すると何と！禁足地の地中約９０ｃｍの深さから、勾玉や鏡などと一緒に、神剣・布都御魂剣が発見され、社伝の内容が単なる伝説ではなく、事実であることが証明されました。

そこで、出土した神剣や勾玉などの神宝をお祀りするため本殿を建造することになりました。建造のため1878年に再発掘を行うと、もう一本の神剣・布都斯魂剣も出土したため、あわせて1913年（大正2年）完成の本殿に奉斎しました。

禁足地は今もなお、布留社（明治に現在の神宮号が戻るまでの名称）と刻まれた剣先状石瑞垣で囲まれ、人の出入りが禁じられています。
今年2024年は、ここから神体の布都御魂剣が発掘された1874年からちょうど150年ということで、9月21日からの3日間、禁足地の特別参拝が行われました。

もちろん禁足地に立ち入ることはできませんが、瑞垣の間から聖地を間近に拝むことができるということで、多くの方が訪れました。
私も参拝させていただきましたが、自分が生きている時代にこのような歴史的瞬間に立ち会えたことは、大きな感動です。

内山永久寺とともに栄えた時代と名残り

最初に紹介した拝殿は、伝承によると白河天皇（1053-1129年）が新嘗祭を行う皇居の神嘉殿を拝殿として寄進したとされます（現存の建物の建立は鎌倉時代初期とみられます）。

中世以降は布留郷の鎮守社となり、西の日光と呼ばれた巨大寺院・内山永久寺と共に栄えました。内山永久寺は、1336年には後醍醐天皇が一時ここに身を隠したとされ（萱御所跡）、戦国時代には56の坊・院を有し、大和国では東大寺・興福寺・法隆寺に次ぐ待遇を受ける大寺でした。

ところが明治維新を迎えると、内山永久寺は廃仏毀釈により廃寺となり、一方で石上神宮は1871年に官幣大社となりました。1874～78年に神宝が発掘されたことは先に述べたとおりですが、これを機に鎮守社としての名称「布留社」から、再び神宮号を名乗ることになりました（1883年）。

1913年の本殿完成の翌1914年には、旧内山永久寺の地に残されていた住吉神社の拝殿が、摂社・出雲建雄神社の拝殿として移築されました（国宝）。

摂社・出雲建雄神社の拝殿（国宝）

この神社は、石上神宮本殿や拝殿の南、楼門を出た南側の丘に建っています。
祭神は、先述した神代三剣の一つ、草薙剣の荒魂です。

日本武尊（やまとたける）の配偶者で熱田神宮の創祀に関わる宮簀媛（みやずひめ）が「この地に天降って、皇孫を保（やすん）じ諸民を守ろう」 と託宣されたのが縁起とされ、小さいですが延喜式内社です。

摂社の出雲建雄神社
草薙剣の荒魂である出雲建雄神が祭神

現在の石上神宮

石上神宮は、宗教都市で有名な天理市にありますが、天理教教会本部から南東に約１ｋｍほど離れた森の中にあり、周囲とは少し違った空気に包まれています。

道路から東に向かって入り、高い木々に囲まれゆるやかな上りとなった参道を進むと大鳥居があって、ここを過ぎると右側に鏡池があります。

ところでこの鏡池にはワタカという淡水魚が住んでいますが、別名「馬魚」と呼ばれます。

後醍醐天皇が都から逃れ内山永久寺に身を隠した際、天皇を乗せていた馬がここで命を落としました。その霊が寺の池の魚に乗り移り、魚は馬の顔になって草を食べるようになったと伝わります。
内山永久寺が廃寺になった後の1954年に、このワタカが石上神宮の鏡池と、東大寺中門前の鏡池に移されました。

鏡池を過ぎると、左手に拝殿、本殿へと続く楼門があります。
写真は、先に述べた摂社・出雲建雄神社のある丘から見た楼門で、重要文化財に指定されています。

重要文化財の楼門

また、石上神宮といえば、放し飼いの鶏がいることでも有名ですね。

鏡池のまわりに数十羽、美しい色彩の鶏がいて、人懐っこく、参拝者の人気者となっています。「記紀」の天岩戸隠れの神話に登場する長鳴鶏の一種、東天紅など、貴重な種類もいて神の使いとされますが、実は奉納されてまだ50年程度と、歴史はそれほど古くない様です。

放し飼いの鶏が40-50羽ぐらい

起死回生の神

石上神宮のご利益の一つに「起死回生」があります。
主祭神である布都御魂剣が、危機的状況にあった神武天皇を救ったという記紀の伝承に由来するものです。

誰でも一度は、程度の差はあれ「絶体絶命か！」と思うようなピンチに陥った経験があるのではないでしょうか？
そんな時、力強い味方になってくれるかも知れません。

石上神宮には、神がそこにいるように感じさせる空気が漂っています。
まさにパワースポットですね。

この先に遭遇するかもしれない逆境に立ち向かえるよう、まだの方は一度参拝してみては如何でしょうか。