ラップを教える・教わることはダサいのか？①

Itaqは「Rap Capsule」と題したラップ教材を売り始めた。決して人を騙すような商売ではない。僕にはラップの才能と同じくらいラップを教える才能もあるらしいというのは何年も前から感じていたし、人からも言われていたことだ。お金に変えられるスキルはお金に変えて、アーティストとして活動できる自由な時間を確保した方が良いと考え、実行に移した。

賛否両論だよ、とよく言われる。タイムラインに7年も新曲を上げていないような刺青だらけのロートルが名指しせずに僕を呪うツイートが流れてくる。「ラップのやり方を教えて金を集め出したら、そのラッパーは絶対に売れない」。

ラップを教える・教わることはダサいのか？問題。このトピックを語り合うのにうってつけの人物がいた。マチーデフさんである。僕が通っていた専門学校の他学科で、正真正銘先生としてラップを教えていた人物。2、3度ほど聴講生として授業に出席したことがあり、その時の感動が強く頭に残っている。

マチーデフさんの仕事は、シンガーソングライター志望の生徒たちに歌唱法としてのラップを伝授することだった。そのやり方は非常に段階的である。まずは譜割の概念を叩き込み、リズムに合わせてリリックを唱えさせる。だが、それだけではラップにはならないということで節・抑揚をつけることを教える。メロディが無い分フローだけで自立しなくてはいけないラップは、どこまでも自由な歌唱法であることを知ってもらう。

独学でラップを始めた人間の中で、この感覚は不思議である。現在ラッパーをやっている人間にとってラップというのは、「ある日思い切ってやろうと思ったらやれたもの」である。それはある意味での無意識であり、そこをよくここまで分かりやすく分解出来たなという感動が、僕の頭に焼き付いていた。

そんなマチーデフさんが、昨日僕の教材販売記念スペースに参加してくださった！先に言っておくが、極めて有意義で解像度の高い会話だったと思う。気に食わないという人も、ダサいまたはイケてるといった細かい叙述を放棄した言い方ではなくこのように建設的な話し合いに参加して欲しいものだと思った。

マチーデフさんがどうして「ラップを始める」という無意識の動作を理論的に分解し教育するのか。彼はこう語る。「ラップを思い切りだけで始められた人間は、ラップを始める素質に恵まれていた人間である」と。しかし、ラップの始め方は教えることが出来る。ラップを教わることによって、「ラップを始める素質」が無かった人間もラップを始め、ラッパーになることが出来る。そしてそんな人が実は偉大なリリシストとしての才能を隠し持っているかもしれない。

つまり、今の日本のラップシーンは「ラップを教わる」インフラが整備されていないがゆえに、偶然「無意識だけでラップを始められる」人しかラップゲームに参加できない環境と言える。ラッパー人口が限りなく増えた現在においても、これは大きな損失と言えるのでは無いか。

また、マチーデフさんはこうも語っている。「僕にとってヒップホップはアウトサイダーにしかやれないカルチャーでは無く、アウトサイダーであってもやれるカルチャーである。万人に開かれたものであるべきだ。」と。

勿論アウトサイダーにとってのザイオンとしてのクラブカルチャー・ヒップホップというものは確かにあるべきだし、僕もそれに救われている。だけど、一見社会に馴染んでいるように見えるあの人やあの人にも、「もう耐えられない！」と今にも叫び出しそうな心の声があるのだ。彼らに、クラブの重い扉を開けないとヒップホップカルチャーに指一本触れさせてあげないというのは少々選民思想が過ぎるのでは無いか。

ヒップホップは居場所のない人たちを助けるものであり、疲れ果てた弱者たちの駆け込み寺であるべきだ。ゆえに、「ラップを教わる」という入り口があっても良い。また、これもマチーデフさんの言葉だが「どんな入り方をしていても、入り口はいつだってダサい」。

不良が先輩からマイクを渡されてラップの道に入る「エリートコース」だったとしても、ダサい。初めてのラップは、ダサい。僕も、ボカロラップに憧れてB5ノートに歌詞を書き始めたが…ダサい。目も当てられない歌詞を沢山書いた。そして、それで良い。

「最初にお金を払ってラップを習った」という行為が気になるだろうか。でもあなたがリリックにするのはあなたがラッパーになる以前の物語だ。あなたがどのようにして生まれ、どのような人間として生きてきたのか。その過去は、誰から「習った」ものでもない。そのことさえ忘れなければ、たかが入り口はラッパーの歴史にとって重要なものではないのだ。

②では、この話を踏まえた上で僕のラップ教材「Rap Capsule」がどういったスタンスを取るのかについて語って行こうと思う。


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「ゼロから始めてラップがどこまでも上手くなるラップ教材」
Rap Capsule vol.1〜4が販売開始。

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