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苛め

今回はちょっと重たい話になってしまう。
差別について思うこと』で書いたように、小学校から中学2年生まで、私は苛めから身を守ることばかり考えていた。

相手は様々だったけれど今となっては殆どの場合、彼らはただ私が気にくわなかったんだろうと思っている。
子供の頃は自分が受けた理不尽な扱いについて、『相手が悪い人』という思いと『自分に嫌われる要素がある』という思いが半々だった。
もちろん苛める側が悪いのだけど、私は自分に(特に容姿に)自信が無かったので自分にも原因があると感じていた。

学校だけではなかった。両親が共働きだったので放課後にお世話になっていた学童クラブでもそれはあった。
ある時、学童クラブのトイレから出ようとしたら外からドアを押さえられていて開かなかった。
「やめて」
と言っても聞き入れられず、外からは数人の笑い声がしていた。男子も女子もいた。
そして上から水をかけられた。

その一連を指示していたのは同じ学年のK子ちゃんだった。
彼女は私が数日前にその子のひとつ上の姉に「嫌がらせをした」ので、その復讐だと言った。
K子ちゃんは透き通るような白い肌に黒眼がちな瞳という一見儚げな風貌なのに、いつも腕組みをして睨んでいるような威圧的な女の子だった。
私は少なくとも小学校中学年くらいまでは虫を触ることに抵抗がなく、男の子達とダンゴムシをポケットいっぱい集めたりした。それを
「ほら、こんなにいっぱい!」
とたまたま見せた相手がK子ちゃんの姉で、彼女は虫が大嫌いだったらしい。
そのことを聞いたK子ちゃんが妹として仕返しをしてきたのだ。
それから彼女は年下の子ども達も巻き込んで日常的に私に嫌がらせをし、それは学童クラブを退所する小学校3年生の終わりまで続いた。

私は虫を見せただけでそこまで相手の恨みを買うとは夢にも思っていなかったし、K子ちゃんにとっては姉を守る妹としての正義感だったのかもしれない。
ただ彼女は学校でも他の子に対して威圧的に振る舞い、嫌がらせもしていた。常に誰かを睨むような目つきだったのでその冷ややかな表情が記憶に焼き付いてしまっている。
小学校を卒業すると、K子ちゃんは校区の中学校とは別の中学校に進学したので顔を合わせることはなくなった。

時が経ち中学3年生の時、高校受験の模擬試験が都内の大学であった。会場だった教室は正面の黒板横に『禁煙』と貼り紙があったのが印象的だった。
会場には他校の生徒たちもたくさんいたのだけれど、その中にあのK子ちゃんを見つけた。
髪の毛が腰よりも長くなって雰囲気が変わっていたけれど、陶器のような白い肌はそのままだった。
私も周りの人達もお喋りしながらテスト前の最後の復習をしていた賑やかな会場で、K子ちゃんは握り拳を膝に置き1人俯いてじっと机を見つめて座っていた。その姿は違和感があって気になった。
すると彼女と同じ制服の女子生徒が数人やってきて彼女の後ろを通り過ぎた。その時、座っている彼女の背中にぶつかったように見えた。
K子ちゃんは一瞬ビクッとして、それでも振り向かず俯いたままだった。
ぶつかった方の女子生徒達はくるっと振り返り、K子ちゃんを見ながらゲラゲラ笑っていた。
(あっ、イジメだ…)
頭がすーっと冷たくなるような感覚になったのを覚えている。
直後チャイムが鳴って模擬試験が始まり、結局その日全ての試験が終わって帰る時にはK子ちゃんはもう見当たらなかった。
そしてそれっきり会うことはなかった。

もし、あの時話しかけることが出来ていたら?
でもなんて声をかけられただろう…?
と、今でも時々思う。

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