銀河鉄道は雨の中 其の七

七 北に向かう

「次は~ポラリス~ポラリス~、北極星駅でございます。寄り道駅となりますのでご了承ください~」

汽車が発車してから暫くしてそんなアナウンスが流れた。

「ポラリス!北極星駅!!ワクワクする名前だね。そこには何があるのかな?」

二兎吉は胸を躍らせながらヌラにそう話す、外の雨もまた小ぶりになり外の景色が少しだが見え始めてきた。

だからこそ二兎吉の気持も晴れてきているのだろう、だからこそ二兎吉はワクワクできる余裕が出てきたのだろう。

「ポラリスには名物の氷の教会ってのがあるの、そこには美しい音色を奏でるピアノがあってね、その音色を聴きにいろんな人がやってくる。」

「へーなんかロマンチックだね、行ってみたいなぁ」

「行こうよ!私前から行ってみたかったの、ポラリスは観光地で汽車が2時間くらい止まってくれる所だから、のんびり出来るんだ。」

汽車が向かうポラリスとはセントラルステーションである北斗七星駅から北に寄り道した場所にある街、一本しか線路が無くその先には北極星駅しか存在しない、だから一度そっちへ赴き観光客を下ろしてあげるのだ。

そんな駅に向かう汽車、そして胸を躍らせながら外を見る二兎吉、降りしきる雨はポラリスに近づくごとに雪に変わっていく、そんな雪は星のようにキラキラと輝きシンシンと降り注いでいた。

「こっちは雪だ!凄いよこんなキラキラした雪を見るのは始めてだよ、ほら見てみて!」

興奮する二兎吉は甲高い声になりヌラを呼んだ、ヌラは颯爽と二兎吉の肩に乗り一緒に窓の外を見た。

「うわぁ~綺麗だね。」

ヌラもまた、目を輝かせ外を見ていた。

するとタイミングよく北極星駅に着いた汽車はプシューと音を上げて駅に止まった。

「ポラリス~ポラリス~北極星駅で御座います。」

車内アナウンスが鳴る、それから直ぐに扉が開いて乗車していた人達はゾロゾロと降りだした。

その流に乗るように二兎吉はヌラを肩に載せて汽車から降りた。

「さあ、氷の教会はこっち」

ヌラはそう言って二兎吉を誘導する。
足早に氷の教会に向かう二兎吉、外の温度は氷点下、道路は凍っている。

二兎吉はそこに勢いよく突入してしまった。
当然の事ながら足を氷に取られておもいっきり転んで尻餅をついてしまった。

「いったぁ~い」

その衝撃で二兎吉は一瞬動けなかった。
少し間をおいて立ち上がろうとした時、誰かが二兎吉に手を差し伸べてくれた。

「大丈夫?小鬼さん」

「あっありがとうございます」

二兎吉はそう言ってとっさにその手をとった。

「ひゃあ、冷たい!」

「あら、ごめんなさいね。」

その人はそう言って私を立たせてくれた。
そして、改めて顔を見たとき私は思わず声を上げてしまった。

「綺麗」

「あらま、そんな事言ってくれてありがとう」

「肌が真っ白、雪みたいに綺麗な肌!お姉さんは??」

「私は雪女、氷の教会に行くところなの」

二兎吉を救ってくれたのは雪女さんだった。
雪のように白い肌をして、青くて腰まである髪の毛を雪の結晶の形をした髪留めで束ねている。

よく絵でみるような着物のような格好ではなく、結構現代風な服装をしていた。

白いシャツに白いポンチョ、白くて長いフレアスカート、そんな姿をして二兎吉の前に立っている。

「奇遇ですね。私達も氷の教会に向かうんです。」

二兎吉はそう声をかけると、雪女さんはニコリと笑い二兎吉に手を差し伸べてきた。

「じゃあ、一緒に行こうか」

雪女さんの顔は凄く優しかった。
そんな笑顔に惹かれて二兎吉は雪女さんの手をとって一緒に氷の教会へと向かっていった。

冷たい手、それを握り歩幅の違う雪女さんの歩調に合わせて二兎吉は少し急ぎ足になりながら必至でついていく、雪女さんの手は二兎吉の手をしっかりと握ってくれ、必死に歩いている二兎吉を見て転ばないように気をつかいながら歩いてくれた。

「優しい人なんだな」

二兎吉は心の中でそう思いながら一緒について行った。

暫く歩いて見えてきた、本当に氷で作ったような見た目の教会。

「凄い、綺麗!あれ本当に氷なの?」

「ううん、氷では作ってないの、本当は水晶を使って建てた教会って言われてる。それが本当かは知らないけどね。」

そんな教会の中から聞こえてくる甲高く透き通った音を奏でる何かの音、雪女さんはその音に気付いて少し足早に教会の中に入っていった。

その中はまるで海の底に居るかのような透き通った深い青色をしている水晶で作られたって言うよりもサファイアで作られたんじゃないかって言うくらい深い青色をしている。

外の光を吸い込んで教会の中は青白い色で光り輝いてる。

その先には全てが水晶で作られたとされる透明で透き通ったピアノがおかれていた。

その周りに人があつまりピアノの音色を聞いている。

外で聞くよりも反響音が相まって、もっと透き通った音を奏でられている。

皆その音に聞き惚れて目をつむって静かに耳を傾けていた。

雪女さんもまたピアノの近くまで寄り皆と同じように目をつむって音楽を聴き始めた。

二兎吉もそれになぞるように目をつむって音楽を聴いてみた。

すると音楽が直接脳みそに入り込むかのようにクリアに聞こえ始め奏でられる甲高い音色がもっとハッキリと脳内に響き渡ってくる。

二兎吉の脳内は綺麗な音色の音楽で癒されはじめた。
幸せホルモンがドバドバと出はじめ二兎吉の脳内はセロトニンでいっぱいになっていく

するとなぜか二兎吉の目から自然と涙がこぼれ始めた。

「あれ?どうして??」

涙をぬぐいながら雪女さんをみると彼女もまた泣いていた。

雪女さんも私と同じ気持なのかな??

そう思い見ていると雪女さんは二兎吉の視線に気付き二兎吉を見下ろした。

涙をぬぐってニコッと笑った雪女さんは音楽を奏でているピアノのをみつめながら話をはじめた。

「昔、大事な人を失った。もの凄く愛していた。だけど不慮の事故で帰らぬ人になった。今聞いている曲はその人が大好きだった曲なの、だから私の命が続く限り私の耳から彼に届けてあげよう、そう思って定期的にここに通ってるの」

彼女の表情は寂しげだった。

だけど、その奥に愛する人を思う暖かな気持を見つけた。

雪女さんの優しさの根本を見たような気がした。

二兎吉はそんな雪女さんの話を聞いて自分の涙はいったい何処からきているのだろう、そう考えた。

「貴方にもきっとツラい事があったのよ、だけどそれが思い出せない、照らし合わせれないそれだけあなたの中のツラい思いがあったのね。」

雪女さんはそう答えてきた。なにも問いかけていなかったのに、彼女は二兎吉の疑問を分かっていたかのようにそう答えてくれた。

二兎吉は一瞬頭の中で考えてた。

自分の中のツラい思い、隠してきた思い・・・

過去にあった出来事、自分が女性でありたいと思った過去、そこから生まれた偏見たる出来事、いろんな物が二兎吉の頭の中に渦巻いた。

ツラい気持がまたこみ上げてきて涙がボロボロこぼれだした。

そんな二兎吉を雪女さんが抱きしめてくれそっと呟いた。

「ありのままの自分が一番だいじなのよ、だから心配ない、貴方は今のままで良いんじゃないかな??」

そう言った。

また二兎吉の心の中を見透かすようにそう答え、スクッと立ち上がった。

「自分ばかりに気持が傾くと、自分にしか意識がいかなくなる。だから独りよがりになる。

だけど、自分を良くしたいけど上手くいかないから環境を変えていこうって思うと自然と視野が広がって周りに気を使えるようになるし行動をおこせるものなの。

今の貴方はそうなろうとしてる。本当は思う自分の気持をしっかり伝えたくて」

「・・・そうなのかな??」

「心の中にかすかに輝きが見える。あなたは強い存在!」

唐突に言われた雪女さんの言葉に二兎吉は考えた。
確かに前よりも気持が軽くなってきてる。

何故か分からないけど自分は気持に思っている存在になれる。そう思えた。

「今まで溜まっていた貴方の気持ちの中の何かが吹っ切れたのね。
だから嬉しくて涙が出てるんじゃないかな?」

雪女さんの言葉が二兎吉の心を優しく撫でてくれて涙がどんどん溢れてくる。
涙を流すごとに気持が楽になってスッキリしてくる。

「あらま!」

突然雪女さんが声を上げた。
どうしたんだろう?そう思い雪女さんを見上げた。

「小鬼さんは可愛らしい女の子さんだったのね。」

そう言って私の全体が写る教会の壁に振り向かせてくれた。
鬼の姿になっていた二兎吉の姿が元に戻っていた。
と言うよりも、姿形がどう見ても女の子にしか見えない風貌になっていた。

「え?なんで?え?えっ?」

「きっと貴方の気持ちの思いが振り切れたのよ、ありのままの自分でいたいからって思いが強くなって!」

ヌラはそう言う、二兎吉の肩に乗って顔を二兎吉の頬に擦りつけてきた。

「うん、やっぱり見慣れてるこの顔が好き」

そう言ってゴロゴロと喉をならしている。

「その猫さんの言うとおりかもね。気持が開放されたから今の姿になれたんじゃない?」

雪女さんはそう言って二兎吉の背中をポンと押して出入り口へ誘導した。

「もう間もなく汽車の出発時間になるわ、私はまだここに居るから貴方たちは駅に向かった方がいいわ」

雪女さんはそう言って小さく手を振り出した。
それを見た二兎吉はコクリと頷き雪女さんを見ながらバイバイして歩き出した。

「危ないわよ、しっかり前を向いて!」

それを聞いた拍子に少し滑ってしまった二兎吉だったが、体勢を立て直してしっかりその場に立った。

そして両手を精一杯振って雪女さんにさよならを告げた。

「さよーならー、雪女さんも気を付けて~、また会おうね~!!」

そして背中を見せて少し足早に汽車に向かった。

二兎吉の心は凄く軽くなっていた。

足取りが軽くなるくらい軽くなっていた。

二兎吉はフフフと微笑み冷たい空気を切って歩いて行く、駅へ向かう二兎吉に追い風が吹きすさび軽く背中を押してくれている。

駅へ着き汽車に乗り、いつもの席に座る。

「ねえヌラ、乙女座まであとどれくらいかな?」

「あと二駅だよ!」

二兎吉は窓に頬杖をついて嬉しそうに外を眺める。
ちらつく雪はほんの少しで今にも止みそうな雰囲気だ、すると汽車のベルがなり発車準備が始まった。

ドアが閉まりゆっくりと汽車が動き始めた。
パラパラと降る小粒の雪を切るように、汽車は速度を上げていく、そして北極星駅から離れていく、雪は次第に雨に変わっていく、そして、汽車は目的地に近づいていく。




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