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珠美の島〜18年の時を経て〜10話

「12時半過ぎに迎えに行くからね」
と、戸田くん

早めにお昼を済まし
約束の時間に
フロント前で待つ

携えてきた
愛用カメラにストラップを
付けていると
後ろから声を掛けられた

「久しぶり!おまたせ!」

「戸田くん!
 ほんま、まんまやねー!」

昔のままの戸田くんが
オレンジ色のつなぎを着て
笑顔で立っていた

中学校卒業以来
会ってなかったけど
そのままの
昔のままの
空気をまとった彼を見て
なんだかほっこり

遅れて来た母と共に
戸田くんの車に乗り込む

「先に
 今日船を出してくれる宗形さんの
 お家に向かうね
 東奥武に行く前にゆんたくするの
 楽しみにしてるから」

と言って
戸田くんは車を出した

途中
どこか寄りたい所ある?
と聞かれたので
お花屋さんをリクエスト
ウートートで
手向ける花を買いに

お花屋さんは一軒しか無いから
と言って
走っていた道を左手に曲がって
坂道を登って行く
程なくお花屋さんに到着
思っていたより大きなお店
4種類程選んで
花束を作ってもらい
胸に抱えて車に戻る

途中
新しく出来た楽天の球場や
久米島唯一の高校を
教えてもらったりして
30分程走った後
目的地に着いた

「あ、あの人が宗形さん」

宗形さんは
外で何かを洗っていた
日に焼けた小柄の
優しい面立ちの人

「入って」
と言われて中へ

お家では無くお店だった
海関係、なんだけど
所狭しと色んなものが
並べてあって
まるでおもちゃ箱

「屋号なんね?」
と宗形さん

「あー、タカバルヤーの、」
と母

「は?
タカバルヤーな?
知らないねー」

狭い世界なので
必ずどこかで繋がる

沖縄では屋号を聞けば
一発でどこの誰かがわかるが
島嫌いの母は
自分の家の屋号を知らなかった

宗形さんのお父さんも
船乗りだった話をしてくれたので
もしかしてと思い

「みどり丸は知ってますか」

と聞くと

「もちろんさ、
 あれのせいでおっとうは
 責められたよ
 お前は何で何もせず
 帰って来たのかって」

宗形さんは、その
憤った気持ちを吐露した

みどり丸

沖縄海難史上
最大の事故となった
定期貨客船

泊港を出航して一時間後
襲ってきた高波にあおられ
わずか十分程で沈没した

この船に
母も乗るはずだった。





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