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藤宴(ふじうたげ)


藤の花房が垂れ下がっております

今日の菓銘は「藤宴(ふじうたげ)」。
鶴屋吉信御製で、「咲き競う藤の花が宴のように見える様を表したもの」と説明されていました。が、わたしは菓銘を聞いた瞬間に「源氏物語」の夕霧(光源氏の嫡男)と雲居雁(くもいのかり)(光源氏のかつての親友であり今は政敵となった内大臣の娘)の結婚の話を表すお菓子か~、と一人で大興奮。ということで、改めて「源氏物語」の原文や解説に当たりました。

第三十三帖「藤裏葉(ふじのうらば)」の前の方のお話。話としては、仲良しだった夕霧と雲居雁は両想いにもかかわらず、娘を入内させようと考えた内大臣に引き離されるが、やがて二人もいい年となりお互いを思いあったままであることに、内大臣も許さざるを得なくなり、藤の花の美しい時期に自邸に藤の花(雲居雁のこと)を見に来ないかと夕霧を宴に招待し、婿として迎える、というもの。「諸恋(もろごひ)」とは相思相愛のことなのだとか。原文をほぅほぅと読んでおりました。

「藤裏葉」の巻名は、作中に「(内大臣が)「藤の裏葉の」とうち誦(ず)じたまへる」とあり、これは後撰和歌集の「春日さす 藤の裏葉の うらとけて 君し思はば 我も頼まむ」(春・読人しらず)の歌のことなのですが、ここから取っています。ということは、「源氏物語」は読者がこの歌を知っていることを前提で書かれているわけですね。

「源氏物語」が書かれた頃に既に広く知られていたと思われる歌集は、私選の「万葉集」(759年より少し後に成立?、約4500首)、初の勅撰和歌集「古今和歌集」(905年成立?、約1100首)、そして「後撰和歌集」(950年前後成立?、約1400首)。合計約7000首、よく知られた歌もさほどではない歌もあったでしょうが、書物の数も少なかった時代、一定以上の知識を持った層にとっては収録された数々の歌は「常識」だったのでしょう。

昨日「古今和歌集」の注釈書「顕注密勘(けんちゅうみっかん)」の藤原定家自筆の原本(1220年前後のもの?)が見つかったと報道されました。「源氏物語」が書かれた頃でも「古今和歌集」から約100年経っていますが、約300年経った定家の頃には、詠まれた当時の意味やニュアンスが既にわからなくなっていた歌もあり、こういう注釈書が出来るに至ったそうです。そこから更に800年経った現代となっては、今回見つかった書物が「古今和歌集」との間をつないでくれる大きな助けとなるのでしょう。これからの研究の成果が楽しみですね。

春はあっと言う間に通り過ぎ、夏日の気温も記録され始めました。藤は長らく風炉の時期の花として親しまれてきましたが、4月中に盛りを迎えてしまうのでしょうか。春がのどかだった時代は遠くなりにけり、ですが、夏に向けて体調を整えてまいりましょう。

参考文献:「源氏物語 三」(日本古典文学全集 小学館)

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