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「境界戦機」とは何だったのか 第一回

アニメファンのみんなごきげんよう、ランガタロウです。
YouTubeで第一話が100万再生され、大注目になると思われたが結局全然売れてないアニメ「境界戦機」悪い意味でヤバい内容や中国で配信停止になるなどの過激なトピックスの割に注目度の低い本作は一体なんだったのか
色々語っていこうと思います。

征服された日本、AIと出会う少年

2064年 経済的政策の失敗と少子高齢化で潰れかけの日本は他国からの経済援助を受けることになる。しかし援助の名目で送り込まれた各国の軍隊はそのまま現地に居座り、まるで自国領土のように振る舞い始める。ついには各国の占領地の境界線で領土線を争う紛争が開始。後に「境界戦」と呼ばれるこの戦いに投入された二足歩行ロボット「アメイン」は急速に発展し、無人機となったアメイン同士が血を流さぬ戦争を繰り返す足元で日本の国土はボロボロになっていった。

というのが境界戦機の世界観である
日本が他国に占領されるという近未来SFとして「戦争に負けたから」ではなく「支援名目でやってきた”親切な人”がそのまま実効支配している」という構図はロシアがウクライナ領土のクリミア半島を吸収した際に「ロシア軍ではないが偶然にもロシア軍のフル装備を着ている親切なお兄さん」を投入した事件などを踏まえた現代的な描写でそこそこのリアリティがあって新しい描写で面白くなりそうである。なりそうなだけだったが。

主人公の椎葉アモウはそうやって日本が占領された後に生まれた世代の少年であり、日本人が虐げられている社会の中で生きてきたという設定でありアニメも主人公の「今の時代…日本人に産まれただけで、かなりペナルティ背負って始まるゲームみたいなものだ」という独白からスタートするのだが…

この主人公「親の遺産と奨学金で一人暮らしして学校通ってる」というだいぶヌルゲーでスタートしていていきなり雲行きが怪しくなってくる。もちろん若くして両親と死別しているのは可哀想なのではあるが、

それでも普通に生きていけるだけの蓄えを残してくれた両親、普通に日本人の彼にも支給されている奨学金など「日本人は虐げられているって設定なんですよね?」と一度確認したくなる流れをぶつけられながら「才能や財力がアレば逆転できるけど」という独白を聞かされても「財力はすでに充分じゃない!??!」とツッコミが止まらないが話を進めていこう。

そんな彼が山奥に捨てられたいた謎のAI「ガイ」そして偶然見つけた秘密基地でコツコツ修理していた巨大ロボット「ケンブ」に乗り込むことになり。
日本解放のために戦うレジスタンス「八咫烏」に加入して戦い始めることになるのだが…

差別されてる割に豊かな占領日本、差別のやり方が雑な占領軍

「日本は占領されている」「日本解放のために戦う」ということらしいこのアニメの世界の日本、登場人物の口からは悲惨な差別の現状が語られるがどこもかしこも余裕がある。

アジア協商連合に占領された広島ではコンビニの棚が商品で一杯で、しかもおにぎり100円セールが開催中、ポイント10%還元セールまでやっている。
地元のお好み焼き屋では豚玉750円、生ビールは中ジョッキ500円という物価で商品が提供され、店には”新品みたいに綺麗な”「広島お好み焼き!」の観光客向けっぽいポスターが貼ってある。

もちろん「他国に占領されたからといって物価が急に変わるわけではないのでは?」という疑問を持つ視聴者もいるだろうが そもそもこのアニメで日本が他国に占領されているのは「日本が経済崩壊したから」である。

それどころか広島はアジア協商連合の支配地の中でも「日本人差別」がめちゃくちゃ激しい地域であり、総督が難癖をつけては適当に日本人を強制収容所にぶちこんで暴力を振るっている危険な街という設定である。

豊かさと厳しさのバランスがめちゃくちゃすぎてサウナと水風呂ぐらい温度差がすでに発生しているがまぁこの街だけのガバガバならと流そうと思うと次に訪れる岡山付近で普通にデカイホテル止まって、ホテルの近所で外食している。

もちろんこのアニメには主人公ロボのAIが戸籍をイジっている以外にも主人公が加入したテロ組織が「高度な情報戦」とやらで色々その存在を隠している設定があるので彼らが堂々とホテルに泊まろうが普通に外食しようが何もおかしくないんだが…

日本人が差別されてるって設定…どこいった?
という疑問が頭から抜けなくなる。
占領軍の人間が「この日本人がよ」みたいなこと言って実害を与えてくる以外は階級差別も無いし街に住んでるのもほぼ日本人だし日本人が普通にホテルに泊まっても怪しまれない

何よりここまでの描写を「そういうものなんだな」と飲み込んだ視聴者に新たなる刺客が襲いかかる、北米同盟が支配する東京の描写が挟まるのだ。

ちょっと右寄りすぎて逆に笑ってしまう強い思想

北米同盟はアメリカモチーフなだけ日本に好意的に描かれており、彼らが占領している東京一帯はアメリカの金で概ね立ち直っているということがセリフで語られる

のだが、ぶっちゃけ絵で見せられると今まで主人公が旅してきた差別されてるはずの街も差別されてることを除けば充分綺麗なので「すごい発展してる」と言われてもあんまりわからないのだが、北米側のメインキャラクター、ブラッド・ワットさんは語る「立ち直ったように見えるが 土地も北米企業の息がかかった会社に権利持たれてるし 国土防衛も北米軍に指揮権を握られている このまま自治を回復しても待っているのは植民地化だ…彼らはそれをわかっているのか?」と

まぁ確かに日本が占領されているというテーマのアニメで「他国の金 他国の軍隊を使って立ち直ってもそれは立ち直ったと言えるのか?」というテーマを投げかけるのは言わんとすることはわかるのだが、そもそも北米がいないところも普通に発展してないか?広島は生中500円で売ってるぜ?という齟齬とはあまり向き合うつもりは無いらしい

ていうかまぁ北米同盟だのアジア連合だのボカしてるけどつまりアメリカとか中国が日本を支配してる状況のアニメで「アメリカの金で立ち直っても本当に日本の独立と言えるのか?」みたいなこと言うの 作ってる側の思想を作品に溶け込まさせずにそのままお出しされてない?大丈夫?という危ない気持ちが強まってくる

むしろ現実の情勢を考えたら「中国の金でもアメリカの金でもだめ」ぐらい言いそうなもんだが最初から「中国は日本のために金ださないだろ」ぐらいに決め打ちカマしてる辺りがわりと強い

だが我々は見せつけられるこのアニメのメインテーマが”こっち”であることを

差別描写のある国が限定されすぎるところに滲みでる思想

このアニメの日本は4つの国に支配されている
アジア軍・オセアニア軍・北米軍・ユーラシア軍だ

めんどくさいから平たく言うと中国とオーストラリアとアメリカとロシアに支配されている。

主人公達は日本を解放するために戦っているのでそれぞれの国に支配されている地域ごとの格差や差別の種類の違いなどが描かれそうな気がするがそんなものは特に描かれない、何せ中国軍に支配され最も日本人が差別されてる地域でも上に書いた通りおにぎり100セール開催中である。

というか4つの国に支配されてるのに日本人差別描写が圧倒的に中国軍に集中している もちろん主人公が移動している地域が中国軍の支配圏内ばっかりという事情もあるがそれにしても全部が中国軍に集中している

1話2話ではオセアニア軍による日本人差別描写があるが、これは現在地が「オセアニア軍の支配地域」だからなんだろうなぐらいのノリでやっているが、中国軍のやつだけ勢いが違いすぎる

通りすがりの民間人を「反乱分子」とかいって拉致して人身売買で私服を肥やしている中国軍司令官などのキャラクターが登場し、それを「日本人をイジメるな!!」とセリフで叫ぶ主人公がスーパーロボットでぶん殴りに行くという愛国精神に溢れた広島編のテンションは「よくこんなアニメ放送しとるな…」という気持ちにさせられる

いや、別に日本が大好きという気持ちがあってもいいし。「もしかしたら隣の国に日本が侵略されるかもよ?」という危機感はたしかに今の時代にあっていいと思うんですけど それ使ってやることが「悪い中国人を殴り飛ばすスカッとジャパン」なの「それ本気でやってる??!」って気持ちになる

さらに3号ロボのパイロット、シオンが戦う理由は「中国軍に陶芸家の祖父の窯を破壊されたから」と回想するのだが、なんで中国軍が陶芸用の窯をわざわざ破壊したのかについては全くわからない(中国軍に接収されたとは言ってるが なおさらあえてピンポイントに窯を破壊したのかわからない)

ちなみにこの娘、薙刀を学び、囲碁と将棋が強く、「速く戦いを終わらせて日本文化を学びたい」を口癖にするとても愛国心あふれる少女である、プラモデルが発売されたのも悪い意味で納得である

せっかく「日本が他国に実効支配された近未来」として「現代と地続きの未来」をやっているのに、その面白そうな舞台を使ってやることは戦略知略による日本の奪還作戦などではなく、「日本人をイジメる中国人悪代官を巨大ロボットで成敗する 愛国水戸黄門」なのだ…

よく考えたら日本解放のために具体的に何してるのか不明なレジスタンス

あらすじの上では日本解放のために戦っている主人公御一行様であるが、実は全話を冷静に見返した結果「日本解放のための作戦」でロボットに乗って戦う回が一つもないという衝撃の事実に気がついてしまった。

1話では偽のテロ容疑をでっち上げられたことへの反逆と逃走のため
2話も逃げるため
3話は2話の続きと、訓練のために味方同士でバトル
4話は『あらゆる勢力に無差別に襲いかかる暴走無人機との戦い』
5話は主人公が個人的に義憤を感じて中国軍の悪代官を成敗しに
6話はオセアニア軍とアジア軍の突発的な衝突で市民が巻き添えになるぞー!というところに急に3号ロボが現れてどっちの軍も全滅させに

7話 4話に登場した暴走無人機と北米軍の戦いが描かれて主人公たちはバトル無し

8話そもそも戦闘が無い
9話そもそも戦闘が無い

10話 東北の別のレジスタンスが壊滅寸前らしいので助けに行く

11話そもそも戦闘が無い

12話 暴走無人機の居場所を突き止めたので倒しに行く
13話 ついに決着!暴走無人機!!!

そう!シーズン1全13話の中に「日本を解放するために八咫烏が仕掛けた具体的な軍事作戦」が一個もの無いのである!

レジスタンス加入前の無法者だった時に逃げるために仕方なく戦う回とか、レジスタンスのスポンサーしてる企業から「他所のレジスタンスがピンチだから行ってきて」って言われてちょっと遠征するとかそんなんばっかりで具体的に!八咫烏というメインのレジスタンスが!何かの作戦を立てて!どこかの軍に喧嘩を売るという回が!!!!一個も!!!!無い!!!!!!!!!!

そもそも4つの国に侵略され分割された日本を取り戻すアニメで
なんで4つの国どれとも無関係な暴走無人機と戦うのがゴールなんだよ
確かに一応「主人公たちが使ってる凄いロボを作った会社と同じところの製品っぽい」という伏線があってそれがシーズン2に繋がるんだろうけど!!!”今”シーズン1でやってる話とは!!!関係ないだろうが!!!


次回へ続く

まだまだ触れたいことが山程ある(伝説のDASH村回や自治まんじゅう回)が、書いてて疲れてきたので記事を分割することにした。

第二回をお楽しみに…



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