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福島県の暴力団情勢

現在の暴力団情勢

〇概況
 2019年末の福島県の暴力団情勢は、4系列36団体、構成員等490人(構成員/準構成員の内訳未詳)である。住吉会、山口組、稲川会、松葉会の系列組織が存在する。住吉会が34%(167人)、山口組が30%(148人)、
稲川会が27%(134人)の割合を占めており、3主要団体の勢力が概ね均衡している 

 地域別には郡山市の所在する県南(県中含)地域が35%(170人)、いわき地域が34%(164人)となっており、この2地域に暴力団構成員等が多く分布している。いわき市、相馬市などが所在する太平洋沿岸地域(浜通り)には山口組が進出していないという特徴がある。

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※画像出典:①より。一部修正を加えている。

 活動団体の詳細は公表されていないが、報道等の周辺情報から
住吉会は丸唐会(いわき市)、山口組は奥州会津角定一家(福島市)
稲川会は紘龍一家(郡山市)がそれぞれ二次団体として福島県に本部をもち活動している。

〇全国における割合
 福島県の暴力団構成員等は、全国の1.7%程度を占めている。県内人口、GDPが全国に占める割合と比較すると、暴力団構成員等がやや多い地域であると推察される。※出典:②③

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暴力団勢力の推移

〇構成員等数
 福島県の暴力団構成員等の数は1972年に1200人であった。2000年時点で900人、その後増加が見られ1100人前後で推移していたが暴力団排除条例が施行された2011年以降減少傾向を強め500人を切るまでとなった。
【構成員等数の変遷(概数)】
1972年  1200人
2000年  900人
2010年  1100人
2015年  680人
2019年  490人
※出典:①より

 福島県の暴力団構成員等の推移(オレンジ)を全国的傾向(青線)と比較すると、
▶2000年前後に福島県の暴力団勢力の拡大傾向が強かった可能性
▶2010年以降は全国と同様に減少傾向にある事 の2点が伺える。
※注 全国的傾向は全国の暴力団構成員等(1992年以前は構成員限)の増減傾向を、1972年の福島県の暴力団構成員等数(同様)に乗じて示している。

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〇地域別特徴
 福島県の地域を県北、県南(※県中含)、会津、いわき、相双の5地域に分類した時、以下グラフに示す通り県南に多くの暴力団構成員等が所在する事が分かる。同時に近年の暴力団構成員等の減少は主に県南地域に依るところが多い。 

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 県南には郡山市が位置している。郡山市は昭和期にメディア等で「東北のシカゴ」と称されたように暴力団の活動が活発であった。1988年に郡山市の暴力団構成員は180人が把握されており福島県の治安課題であった。

 その背景を郡山市公式HPでは以下のように指摘されている。

敗戦直後の郡山は、かつてないほどの困窮(こんきゅう)の時代を迎えました。郡山は、安積開拓や安積疏水の開さくにより明治中期から戦前にかけて急速に工業都市として発達し、人口が急増し、さまざまな人々が集まったことから暴力団抗争が相次いで起こり、治安の悪いまちとして名前が全国に広まってしまいました。 
 郡山市楽都サイト-History歴史
 https://www.city.koriyama.lg.jp/gakuto/about/20423.html

 なお今では音楽都市として取り組みに力を入れており「東北のシカゴから東北のウィーン」へと変化を遂げている。それはまさに当該地域の暴力団構成員等の減少がそれを証明している。

〇団体数
 団体数は2000年に48団体が確認されている。50団体前後で推移していたが構成員等数の減少と同様に36団体までに減少した。
※出典:①

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県内組織の変遷

〇概況 
 昭和期の福島県内の組織情勢は判然としない。1984年以前には山口組、住吉会、稲川会からなる広域3団体の勢力は4割以下であった。

 1990年前後より東北地方への広域3団体の進出が顕著になった。1988年に的屋系団体で郡山市を拠点とする寄居真会が稲川会に接近し1990年には傘下に下っている。1993年時点で県内勢力の8割以上を広域3団体が占めるまでになった。その後2004年には県内勢力の9割以上を占めるようになり寡占化が完成した。

〇広域3団体の均衡
 以下は2009年から2019年までの系列別暴力団構成員等の推移である。年によって変化はあるが山口組、住吉会、稲川会の勢力が県内の3割程度で推移している。暴排条例以前よりこの傾向にあるため、1990年代より広域3団体が同程度の勢力で均衡してきたと推察される。

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抗争事例

1989年1月 山口組弘道会小野組 × 全日本寄居連合会系寄居真会
1989年9月 住吉連合会系小林会×寄居真会
 ▶寄居真会はその後稲川会に移籍し現在の紘龍一家に連なる。
ほかに詳細は不明であるが1994年6月福島市、1999年5月原町市(現・南相馬市)2000年10月福島市、2006年6月いわき市で抗争事件の発生が報告されている。

 2015年に山口組が分裂に伴い山口組と神戸山口組に分裂したが福島県内では神戸山口組の勢力は確認されていない。

近年のトピック

〇暴力団排除条例 
 2011年7月、暴力団排除条例が施行された。繁華街で特に取締りを強化する暴力団排除特別強化地域は福島県内では定められていない。また他県では必ずしも定められていない祭礼からの排除が2018年改正で義務付けられている。

〇資金獲得活動
 【震災復興】東日本大震災の復興事業に労働者を派遣するなどして暴力団関係者が摘発された事例がある。特に福島原発関連の復興事業を暴力団が資金源としている可能性が指摘されている。
出典:⑤及び以下

考察

 過去福島県において暴力団の活動が他県と比して活発であったという指摘がある。確かにそのような地域、時代はあったかもしれない。しかし今現在においては暴力団排除条例の制定以降弱体化を続けており今後も弱体化していく事は確実である。一方で東日本大震災による福島原発対応事業において、原発という忌避される事業特性のため違法な労働者派遣など暴力団が入り込む素地は確実にある。実際に摘発された事例を踏まえ行政及び東京電力は暴力団排除の徹底に努めているが、今後とも十分な監視が必要であることは間違いない。

出典

①公益財団法人 福島県暴力追放運動推進センター 
 暴追センターだよりスクラムを参照

②内閣府「県民経済計算」https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/contents/main_h28.html
③総務省統計局「人口推計」https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2019np/index.html
④福島県議会・郡山市議会会議録

⑤東日本大震災の復旧・復興事業に係る暴力団の情勢 - 国土交通省


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