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日本ファンタジーノベル大賞2021を頂く前後のなんやかんや 1



 昨年、『鯉姫婚姻譚』という話で日本ファンタジーノベル大賞を頂きました。おかげさまで『鯉姫婚姻譚』、タイトルそのまま6月頃にお届けできそうです。単行本化のため私が出来ることはもうほとんどないみたいみたいですね。私がホットケーキの焦げた部分を剥がしている間も編集者さんが頑張ってくれているはずです。

 『鯉姫婚姻譚』単行本化にあたって加筆修正をしたり、小説すばる2022年4月号掲載の『Niraya』、小説新潮2022年6月号掲載の『春荒襖絡繰(はるあれふすまからくり)』の執筆などでここ数ヶ月忙しい日々を過ごしていましたが、最近ようやくひと段落つきました。

懐かしさに振り返るには早く足取りは重く
憧れるには遅い気もしてる 
      

 今ちょうどそんな気分です。2005年頃に放送されていた『MÄR-メルヘヴン-』のオープニング曲「夢・花火」の歌詞ですね。毎週観てたはずだし歌は覚えてるのにアニメの内容全然覚えてないな。『烈火の炎』は兄が全巻持ってたので繰り返し読んだのですが。烈火の炎でブラックホールに消えたジョーカーというキャラクターがいまして。どうも、メルヘヴンででてくるナナシとジョーカーは同一人物っぽいんですよね。でもナナシは記憶を失ってしまっているので詳細はわかりません。

 そう。懐かしさに振り返っている場合ではないド新人作家ですが、記録しなければ忘れてしまうものです。ナナシのように異世界に飛ばされてしまえばなおさらのこと。そんな時に備えて、物事は正確に書き残さなければなりません。烈火の炎も原作とアニメ版の展開が大きく違ったために原作派とアニメ派の間に混乱が生まれているのです。

 既に結構忘れてきているので、そろそろ書き残さないと思い出が消えてしまう。アイドルマスター323人とポケモン908匹に記憶容量を圧迫されている私には一刻の猶予もありません。こうしている間にもアイマスはキャラを増やし、ポケモン新作はオープンワールド、ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド2の発売も迫っている。

 急がないと。とりあえず日本ファンタジーノベル大賞を受賞するちょっと前から書きます。

 職場からの帰り道のことでした。なんか二件くらい知らん番号から着信きてる。えー、怖。何? 勧誘? 電話嫌いだから無視しよう。そう思って電車に乗ったんですね。そんで乗り換えのためにホームに降りた時にまた電話がかかってきて。しょうがないから出て。そしたら、何? 「新潮社の者です」みたいなこと言ってて。まじで全然意味わかんなかった。

「日本ファンタジーノベル大賞についてですがお忙しかったらかけ直しましょうか?」

 って言われたとこで流石にこれは真面目に話を聞かないとまずいかもしれないと思って。いや、このままお願いします、つって端っこにしゃがみ込んで。

 でも駅のホームすっごい煩いね。よく聞こえんけど最終選考通ったとか言われてめっちゃ嬉しかったけどよく聞こえんかった。かけ直してもらった方が良かったかもしんない。でもとにかくありがとうございます。嬉しいです。って言ってたら向こうが「確認したいことがあるのですが……」って言ってきて。何? 怖い。

「応募原稿に本名が記載されていないようですが。あとタイトルが二つ書いてありますがどちらが正しいのでしょうか」

 書類の不備が多いなあ。本名は秋山です。タイトルは『鯉姫婚姻譚』の方でお願いします。いや、ちょっと直前まで悩んでたせいで両方書いちゃってたみたいで……友達に考えてもらったやつにしようかと思ってたんだけどやっぱ自分で考えた方にします。この不確かで苛烈に揺らぐ世界でいつだって自分だけは自分を信じていたいよ。

 電話切って。しばらくホームでぼうっとしてた。

 それが10月の……半ばくらいだったかな。それはよく覚えてないけど最終結果のお知らせがきた日は確かに覚えてます。11月4日です。

 11月4日の16時から18時くらいの間に連絡しますって言われてたのでそれまですごく待ちました。待ってる間辛かったです。あまりにも辛かったので受賞したら雑誌に載せてもらえるはずのコメントを書いたり、受賞したら撮るはずの記念写真のために服を買ったりしてました。これだけ書くと受賞する気満々で楽しそうですが……楽しそうだな。でも実際は怖かったです。駄目だった時のことなんて少しも考えたくなかった。

 来たる11月4日、私は美容院に行っていました。お家で待ってると緊張しちゃうからです。でも髪を切ってもらってても思いの外緊張が治らなかったので、気を紛らわせたくて美容師さんに言いました。

「私、今日受賞するかもしれません」

「そうなの? 結果知りたいから、受賞したら東京スカイツリーの色変えて合図してよ」

「わかりました。青色にします」

 いい感じの髪型にしてもらって、私は美容院を後にしました。私に出来るだろうか。東京スカイツリーを青く染めることが。

 家に帰るとちょうど16時くらいでした。そろそろ電話がかかってきてもおかしくない。待ちました。16時半くらいで飽きました。寝ることにしました。電話がかかってくれば流石に起きるだろう。

 起きてみて驚きました。18時なのにまだ電話来てない。そうこうしてるうちに、一緒に住んでいる姉とみずぽんも帰ってきた。

 この時間まで連絡が来ないということは受賞してないのかもしれないなあ、と思いながらうだうだしているとようやく電話がかかってきました。早く楽になりたくてスマートフォンの通話マークを押します。

「新潮社のものです。山本さんですか?」

「違います」

 秋山だしなあ。間違い電話かな。でも新潮社の人だって言ってるしな。

「えっ、あの、藍銅ツバメさんですか」

「そうです」

 良かった。間違いじゃなかったみたいだ。超煩い駅のホームで言ったから上手く伝わってなかったんだね。だから物事は正確に書き残さなければいけないって言ったでしょ。応募原稿にちゃんとお名前書きなさい。

 新潮社の編集者さんは、名前を間違っていたことをとても丁寧に謝ってくれた。いや、どう考えても応募原稿が不備だらけな方が悪いと思うけど。そんなことより結果を聞きたい。

 でもまあ、この辺あんま正確に覚えてない。「おめでとうございます」みたいなことが電話口から聞こえて、横で聞いてた姉とみずぽんが歓声をあげてた。私はリアクションを取るのが下手なので咄嗟に大声を出すことができず、そうですか、ありがとうございます、嬉しいです、みたいなことを何度も言ってたと思う。

 喜びというよりは安堵が強かった。良かったな、もう待たなくていいんだ、作家になれるんだなあっていうじわじわした感動に浸りながら必要事項をメモってた。一週間後くらいに新潮社で写真撮影とか、その時に打ち合わせを、とか受賞コメントを、みたいな感じだったからやっぱ事前準備はしといて良かったよ。髪型もいい感じだし。美容師さんもスカイツリーを見ながら喜んでくれてるよね。

 でもこれ書きながら思ったんだけど私が手を下すまでもなくスカイツリーってもともと結構青くない?

 今調べてみたんだけど、スカイツリーって基本的に「粋」、「雅」、「幟」の3タイプにライティングされるらしく、「粋」が結構青っぽいんだよね。過去のライティング調べらんないのかな。11月4日……つかほんとに連絡きたの11月4日だっけ。カレンダーアプリ見たら11月8日に新潮社って書き込んである。えっ、8日だっけ。でも7日に友達の誕生日パーティーしてるし。そんな極限状態でモルカーのたまごっちをプレゼントする余裕ある?

 そうか。ホットペッパービューティーの履歴を見ればいいんだ。美容院に行った日を見れば自ずと知れる。11月2日でした。やっぱ最後に信じられるのは正確な記録。記念すべき日を忘れないためにも、皆も受賞しそうな日は美容院を予約してみよう。

 次回は応募ちょっと前の、『鯉姫婚姻譚』を書いてる時のことにしようかな。でも受賞の連絡が来た日のこともあやふやなのに、その数ヶ月前のことはもう無理じゃない? 無理だったら最近プレイした名作ホラーゲーム「ib」の感想にする。じゃあまたね。

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