接遇教育のポイントまとめ
いまやサービス業だけではなく、様々な業種で接遇マナーの重要性が高まっている。
接遇マナーは、AI技術では置き換えられない部分もあり、コミュニケーションを必要とする業種で働く以上は意識的に身につけていく必要がある。
そこで参考程度に、これまでぼくが学んできた接遇教育を整理しておきたい。
なぜ接遇が必要なのか?
そもそもなぜ接遇が必要なのだろうか?
これが理解できていないと、社員・スタッフは意識的に接遇マナーを身につけようとは思わないし、管理職は効果的に接遇教育を行うこともできない。
〈社員・スタッフにとっての必要性〉
✔︎顧客に誤解を招いたり、不快な思いをさせた
りすることがなくなる
✔︎顧客満足度が向上する
✔︎上司からの評価が上がる(少なくとも下がら
ない)
〈管理者にとっての必要性〉
✔︎会社のイメージやブランド力が向上し、
対外的な信頼度が増す
✔︎社内の統率力が増す
✔︎社員の接遇に関するクレーム対応が減る
管理者・社員・顧客にとって、win-win-winとなる基本が接遇なのである。
ホスピタリティーという考え方
接遇は単純な接客から一歩踏み込んだ「おもてなし」である。
研修会などでは、このように説明される。
こうした説明を受け、「お客様は神様です」「接遇は顧客にペコペコと頭を下げ、気を遣うことだ」と勘違いしている人も見受けられる。
顧客の中にも、「お金を払っているんだから、しっかり対応しろ」と堂々と言ってくる人もいる。
「奉仕する人」と「奉仕される人」という一方向のサービスの関係がイメージされており、このイメージが「接遇って嫌な響き」というマイナスなイメージを呼び起こしているかもしれない。
そこで顧客との関係を「サービス」ではなく、「ホスピタリティー」と捉え直す必要が出てくる。
ホスピタリティーも、「心からのおもてなし」→「一方的なおもてなし」と捉えられがちだが、サービスよりも「協働の関係」を含むと考えられる。
顧客は、スタッフの「心からのおもてなし」を受け、満足を得る。
一方で、スタッフは顧客から「ありがとう」と感謝を受け、モチベーションを高める。
こうした協働の関係を構築することができれば、接遇で疲弊し、接遇向上に後ろ向きにならなくて済む。
コミュニケーションの3つのチャンネル
コミュニケーションには、次の3つのチャンネルがある。
❶言 語:言葉の意味そのもの
❷準言語:話し方や抑揚
❸非言語:表現や身ぶり手ぶりなど
実際のコミュニケーションでは、この3つのチャンネルを上手に組み合わせることがポイントになる。
これが接遇のスキルである。
アイコンタクトが大事
実際のコニュニケーションでは、言語以上に非言語(ノンバーバル)によるコミュニケーションが持つ意味が重要だ。
挨拶を例に見てみよう。
〈よい印象を与える挨拶〉
無表情(非言語)で俯きながら(非言語)挨拶する(言語)。
〈悪い印象を与える挨拶〉
笑顔(非言語)で相手の目を見て(非言語)挨拶し(言語)、軽くお辞儀をする(非言語)。
このように分解してみると、実際のコミュニケーションでは、言語よりも非言語が多様されていることがわかる。
さらに、非言語の内容によって、印象が大きく異なることが理解できる。
なかでも重視したいのが、アイコンタクトだ。
❶目線(目の高さ)
✔︎相手よりもやや低い目線で接すると効果的
✔︎ただし低くしすぎると、覗き込む格好にな
り不快な印象になるので注意⚠️
❷視線(目の方向)
✔︎相手の目を見る
目線と視線を意識したアイコンタクトをコミュニケーションに織り交ぜることで、印象がだいぶ変わる。
まずはアイコンタクトを意識したいものだ。
マジックフレーズを活用しよう
すぐに話の要旨を伝えると角が立つ場合、クッションとなる言葉を挟むと印象を和らげることができる。
マジックフレーズと言われるものだ。
次の例文のうち、どちらが印象がいいだろうか?
❶こんにちは。お荷物はこちらにどうぞ。
❷こんにちは。よろしければ、お荷物はこちらにどうぞ。
❷ですよね。
違いは「よろしければ」の一言が添えてあるか、ないかだけ。
さらに語尾を依頼形にすると、より柔らかい印象を与えることができる。
❸こんにちは。よろしければ、お荷物はこちらに入れていただけますか?
〈主なマジックワード〉
・失礼ですが ・あいにくですが
・お手数をおかけしますが ・残念ですが
・申し訳ございませんが ・おかげさまで
・恐れ入りますが ・大変恐縮ですが
・差し支えなければ ・確かに〜
・お待たせしました ・よろしければ
・ご面倒をおかけしますが ・できましたら
一つ、あるいは二つ挟むだけで、印象がガラリと変わる。
マジックワード、ぜひ活用したいものだ。
意識し続けるための仕組みづくり
アイコンタクトやマジックレーズだけではなく、姿勢でも印象は大きく異なる。
✔︎猫背になっていないか?
✔︎歩き方は横柄になっていないか?
これらは一回や二回練習しただけでは、残念ながら身に付けることはできない。
かく言うぼくも、猫背のすり足で、いい印象を与えることができていない。
意識し続けることで初めて実践できるようになるのだ。
とはいえ、四六時中、「アイコンタクトOK」、「マジックフレーズOK」、「猫背OK」、「ガニ股OK」と意識することは不可能だろう。
そこで意識し続けるための仕組みづくりが必要になる。
❶毎日の朝礼で意識づけを行う
標語などを活用
❷相互に指摘し合う職場文化をつくる
ビデオレビュー、顧客満足度調査などを導入
❸第三者のチェックを定期的に入れる
覆面調査などを導入
個別指導をするときの注意点
スタッフの接遇について顧客や関係業者からクレームが入った場合、上司は部下をどのように指導するといいだろうか?
「挨拶もできないなんて、社会人として失格だ!」といった攻撃的な指導は、生産性がない。
一方、相手を傷付けまいと自分の考えを曖昧に表現しながら改善を促すといった非主張的な指導も、一般論に終始しがちになり、指導の割りには効果が上がらない。
こうした指導ではなく、アサーティブな指導が効果的だと考えられている。
これは、相手を尊重した上で誠実、率直、対等に自分の要望や意見を伝える指導方法である。
具体的には次の通りに進める。
❶相手と自分の気持ちを整理する
指導にあたっての準備として、「事実」、「感情」、「要求」に分けて整理する。
〈事実〉
上司:スタッフが挨拶をしないことにクレームがある。
スタッフ:クレームがあることを知らない。挨拶に関する問題意識はない。
〈感情〉
上司:できれば注意したくない。でも気になる。
スタッフ:上司にいろいろ言われるのは嫌だ。
〈要求〉
上司:挨拶をきちんとしてほしい。
スタッフ:仕事はちゃんとしているので、文句を言われたくない。
❷感謝とねぎらいの気持ちを伝える
上司:いつもありがとうございます。とても助かっています。
スタッフ:こちらこそ、いつもお世話になります。ありがとうございます。
❸事実を伝える
上司:いつも挨拶がないとのクレームが上がっています。
スタッフ:え、そうなんですか?(いつのことだ?誰がいった?やるべきことはやってるよ!)
❹相手の感情を代弁する
上司:仕事をきっちりとこなしているので、このようなことを伝えるのは気に障るのではないかと思っています。
スタッフ:いえ。
❺要求は冷静、簡潔に短時間で伝える
上司:地域より信頼される企業となるというのが当社の方針です。挨拶は信頼を築く上で大切なので、必ずするようにお願いします。
スタッフ:わかりました。気をつけます。
実際はこんなにうまくはいきませんが、この内容と手順は修得しておきたいものだ。
接遇教育は誰に教えてもらうのがいいか?
指導をする際には、相手の学習段階・到達段階がどこにあるかを見極め、学習段階を踏まえた指導を心がけることが必要だ。
学習段階には、次の段階がある。
❶できないことを知らない(無知の無知)
❷できないことを知っている(無知の知)
❸意識すればできる(知の知)
❹意識しなくてもできる(知の無知)
❹は自動的に身体が反応してこなせるレベル、いわゆるマスタリーの領域で目指すべきはそこになる。
ただし、❹の領域まで到達した人は、実は指導者には向かない。
というのも、意識しなくてもできる人は、意識していないがゆえに、どこがポイントであるのかを言語化することができないのだ。
一流選手が、必ずしも名監督になるとは限らないという話は、このことの証左だ。
したがって、接遇教育の講師役として適切なのは、❸意識すればできる(知の知の領域に達している人)ということになる。
❸の人に教わりながら、❹を目指すということになる。
自分より偏差値が低い人、成績が低い人に学ぶべきことは何一つないと考えるタイプは、マスタリーの領域に達することは難しいと言えよう。
❸の人というのは、自身も接遇教育を受け、意識的に接遇に取り組んできた人、取り組んでいる努力の人だ。
そういう意味では、外部から天才カリスマ講師を呼んできて研修を企画するよりも、社内で接遇教育を繰り返し実施するということも重要な意味を持つのである。
履歴書の資格は当てになるか?
現代の資格社会において、接遇マナーに関する資格も誕生している。
スタッフの採用時、履歴書にこの資格があれば、「接遇バッチリな人物なんだ」と思うかもしれない。
しかし、例えば「サービス接遇検定」というものがあるが、この2〜3級は筆記試験のみで取得可能だ。
したがって、接遇の勉強はしたことがある人という程度のもの、英検3級持ってますという程度のものと理解しておくことが無難だ。
「わかること」と「できること」は違う。
資格を持っていながら、接遇の評判がものすごく悪いスタッフというのは、残念ながら存在する。
履歴書の接遇関係の資格に過剰に反応し、過度な期待をするのはやめたほうがいい。
社内での接遇教育を制度化することこそが必要である。
スタッフの接遇が気になる、接遇へのクレームが多いという場合、会社の方針や経営者・上司の姿勢に問題はないかを点検することから始めたい。
自戒の念を込めて。
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