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外貨建MMFを活用した効率的な損益通算に関する考察②

はじめに 

 6月に「待機資金管理方法の考察」というタイトルで待機資金の効率的な運用を紹介いたしました。本記事は続編の位置づけで外貨建MMFの活用に焦点を当てたものとなります。

 記事の中で金利復活局面における外貨建MMFの利便性について紹介しました。今回は続編として外貨建MMFを活用した効率的な損出しについて整理します。一般に「タックスロスセリング」と呼ばれる手法の応用となります。一般にタックスロスセリングは年末にかけて評価損が発生している株式を売却し他の利益と損益を通算し課税額を圧縮する手法です。(米国と日本では税制の違いから利用のされ方は少し異なります。) 

 今回は外貨建MMF(米ドル)を利用した特定口座内の損益通算を紹介いたします。前提条件がありますが、合致する方は課税額の圧縮が可能です。

1. 外貨建MMFを活用した未実現評価損の出し方

 今回の紹介する方法は私がこの2か月で実践した手法なので再現性はあります。少しタイミングを見極める必要はありますが誰でも実践可能です。 

 前回の記事で外貨建MMFは金利上昇局面において待機資金の運用方法として債券ETF・外貨定期などと比較し優れていると紹介しました。今回は待機資金の金利ではなく、特定口座内の損益通算観点から外貨建MMFの活用法を紹介します。 

 ネット証券で外貨建MMFを購入する方法は2種類あります。円貨決済と外貨決済です。既に米ドルの預り金がある方は外貨決済がお勧めです。今回紹介する方法も外貨預かり金が一定額あり短期で円転予定のない資金、ということが前提条件となります。しばらく円転する予定の無い外貨預かり金が手元にある方は自身のポートフォリオ構成・損益に応じて活用ください。 

 10年以上前に外貨建MMFを購入したことはありましたが、当時は商品性や税制を詳しく調べておらず今思うと甘かった気がします。尚、外貨建MMFの税制は2016年からは上場株式等に係る譲渡所得等のグループに属するため、20.315%の申告分離課税となり、円高にふれた場合の売却損は他の上場株式等の譲渡益と損益通算が可能となりました。一方で、現在のように円安になった場合の売却益は、譲渡益の20.315%が税金となります。

 過去は外貨建MMFの為替差損は非課税でしたので大きな変更です。ぱっと見はデメリットが大きく税制の改悪のように見えますが使いようによっては課税額の圧縮に活用できます。今回実践した方法は以下の通りです。 

 まず手持ちの外貨待機資金を円安のタイミングで外貨建MMFに転換します。この取引は外貨→外貨であることから為替手数料は発生しません。外貨建MMFには取引手数料はかかりませんのでノーコストです。次に外貨建MMFを購入した日の為替レートよりも円高のタイミングで外貨建MMFを売却します。 

 可能であれば月初のタイミングが月末の再投資分が上乗せされるので良いですが、今回の手法では為替レートを重視するので大きく円高に振れたタイミングが狙い目です。円高のタイミングで売却しても受け取りを外貨指定すると外貨→外貨の取引であることから外貨ベースで評価した場合には全く損失は発生しません。

 一連の取引を外貨ベースで捉えると外貨建MMFは原則元本割れせず基準価格が固定なので保有期間中の利子が上乗せされた形で預り金が戻ってきた形になります。 

 しかし円換算で評価すると異なる結果となります。仮に1ドル=139円のタイミングで外貨預かり金から外貨建MMFを購入した場合、取得為替レートは139円となります。(細かい部分は少し割愛しています)外貨→外貨なので投資家自身は円換算の取得価格は特に意識しておりませんが、上記の通り法改正もあり上場株式等と同一の税制となったことになり円換算の損益の把握が必要となります。 

次に1ドル=134円のタイミングで外貨建MMFを売却し預り金に戻した場合には売却為替レートは134円となり、証券会社では取得為替レート139円、売却為替レート134円と計算され損益は保有数量×-5円となります。 

 1ドル139円で100万円分の外貨建MMFを購入し、1ドル134円のタイミングで売却した場合、外貨ベースでは一切損失は発生しておりませんが、円評価ベースでは5万円の損失が発生したことになります。 

 ここが本取引のポイントとなります。外貨ベースの損失は発生させず円貨ベースの損失を計上させること。これが未実現評価損の出し方となります。この未実現評価損を活用する方法は他の商品の評価益との損益通算です。株や投信等の商品での評価益を確定させたい場合、ポートフォリオのリバランスによる一時的な売買による売却益とぶつけることで本来は利益として課税される税金を圧縮することが可能です。 

 外貨建MMFの為替差損で100万円の損失を計上した場合、外貨ベースでの運用資産には全く影響はありませんが、円貨ベースで100万円まで含み益を確定させても税金がかかりません。税率は20.315%ですので約20万円の税金を取り戻したことになります。 

 私は運用戦略上、日本が巻き込まれる戦争が勃発するレベルの有事が発生しない限り資金の一定割合を死ぬまで外貨で保有する予定です。保有割合は年齢経過に応じて多少変化しますが、ある程度のポジションをキープします。よって年単位で為替相場を眺めて円高時にドルを調達することを10年くらい継続しています。(全くドルを調達しない年もよくあります。逆に今年のような急速な円安の場合は少し戻すこともあります) 

 証券口座に30年・40年スパンで外貨を預ける前提なので本取引における円評価ベースでの評価損に関してはノーダメージです。しかしながら特定口座内の損益ではしっかりと円換算ベースで損失が計上されます。これをポートフォリオのリバランスや銘柄入れ替えに活用することで損益をプラマイゼロにし課税を回避します。 

 私の場合、投信の運用を15年程度継続しており同一インデックスを対象としたファンドを複数保有している状況が長く続いておりました。2015年くらいから低コストインデックスが普及し始め、新規購入のタイミングで信託報酬が安いファンドを選び続けていたところ、全世界・先進国・SP500・ナスダック100などの主要指数を対象としたファンドがポートフォリオに複数存在する状態となっておりました。 

 購入タイミングが異なることから同一指数を対象としたファンドでもリターンは異なります。今回私が採用した戦略は同一指数の中で最もトータルでの運用報酬が安く純資産が安定しているファンドへの資金に集約とポートフォリオの整理です。格安インデックスの運用報酬は概ね、年0.1%~0.25%程度には収まります。とは言え多少ではありますがファンド感の手数料率には差がありますので効率性を追求すると最安のファンドに集約させることが望ましいです。 

 その場合の問題は大抵のファンドの損益がプラスになっている点です。手数料の安いファンドに集約させるためには一旦利確が必要となります。ですが複利の効果を考えると20.315%の罰金(税金)は何とかして回避したいです。 

 そこで先ほどの外貨建MMFの為替差損を活用します。含み益状態の投信を集約させ運用手数料の圧縮を実現しつつ、未実現評価損を活用することで評価損益を相殺することで課税を回避します。本手法は金融商品の税制に則っているので脱税要素は皆無です。安心して活用できます。 

 私の場合、6月から8月の約2か月の間の為替レートの変動を活用し意図的に円貨ベースの損失を発生させ、全世界株・先進国株の利確とファンドの集約を実施しました。年0.1%の運用報酬の差でも10年・20年で考えた場合には運用額次第ですが複利効果もあり結構な違いになりそうなのでお手軽な収益改善法としてお勧めです。 

 注意点として為替が逆の動きをした場合には意図しない評価益を計上してしまうことです。紹介したことと逆の効果が発生してしまうので絶対に避ける必要があります。本日時点における米ドル建MMFの利率は「ブラックロック・スーパー・マネー・マーケット・ファンド」で1.6420%であり、為替変動の影響の方が大きいことから利率よりもエントリー時の為替を重視した方が良いです。 

 尚、為替差損の活用であれば他の外貨建商品でも可能であり、別に外貨建MMFじゃなくてもいいのであないか?という疑問が沸くかもしれません。他の商品でも近いことは可能ですが商品自体の価格変動リスクが存在し検討要素が増えます。VTIやBNDでも同様の為替差損を用いた取引は可能ですが、VTIの場合には株式ETFなのでキャピタルゲインが目的であり、為替込みで譲渡損が発生している時点で保有目的と合致いたしません。債券ETFは安定した分配金が目的の商品であり譲渡損を意図して保有する商品ではありません。加えて株・ETFの売買は一部銘柄を除き手数料も発生します。 

 結果的に消去法となりますが原則として元本変動が発生しないMMFによる為替差損の発生が一番簡単・確実な手法となります。通常、損失の確定=運用資産の減少ですが、今回の手法では米ドルベースの運用資産は全く減少しませんので、長期運用の観点からもデメリットはなさそうです。唯一のデメリットは為替のタイミングを見極めなければならないことです。 

 今年はインフレや戦争など様々な要因が重なり為替が大きく動いております。このような為替相場の場合、本手法を実現しやすい環境と言えます。平時で全く為替相場が変動しないような場合には本手法は利用できません。その場合は純粋に待機資金として年1.5%の利回りを安全に取得するに留まります。米国は景気後退とも囁かれておりますが3.25~3.5%程度まで金利を引きかげる可能性が高いことから引き続き、金利依存商品の利回り向上も期待できます。もう一段、金利が上がり切るまでは引き続き変動金利商品である外貨建MMFを活用しつつ、将来の利下げが見えてきたタイミングで固定金利の商品にスイッチすることも戦略としては有効です。 

 とはいえ歴史が証明している通り資産収益率の観点では株式が圧倒的であり、債券・不動産・コモディティ・現金の比率が高まることは長期目線では相対的な利回り低下に繋がることを意識する必要があります。特にインフレ耐性の低い資産を長期で保有し続けることのリスクは強く意識する必要があります。よって外貨建MMFの活用は待機資金・損益通算の観点からであり主たる投資商品としての活用ではないことを改めて明記します。 

 過去にロボアドで200-300万程度の資金を運用しておりましたが、一部ロボアドが備えているDeTAXと呼ばれる税金最適化機能と本手法を比較すると自身で管理が必要ですが本手法の方が効果が高いです。ロボアドは3年程度運用を任せておりましたが、税金最適化機能の恩恵は目に見えるレベルでは感じられませんでした。運用金額が1,000万円以上であれば多少は実感できるかもしれませんが、そのレベルの些細な効果でした。 

 完全初心者の場合にはロボアドで問題ありませんが、中級者以上で自身で運用しポートフォリオの管理を行う場合には本手法は検討の余地があるかもしれません。とはいえ一定の前提条件があるため、誰でもやろうと思えばできるけど、誰にもはお勧めは致しません。自身の運用戦略に合致する場合には是非活用ください。

 資産運用において最大の味方は複利であり、最大の敵は税金です。いかに合法的に課税を回避し複利を活用し運用資産を増やすかは投資家であれば誰もが追求する真理です。

 外貨建MMFを活用した本手法はこれまで資産運用書籍やブログで紹介されていなかったかと思います。ということは私が理解していないだけで何かデメリットが存在する可能性はゼロではありません。万一、デメリットが存在する場合はコメント等でご指摘いただけると幸いです。

 ※「未実現評価損」という用語は一般的には存在しません。外貨取引において外貨ベースの元本変動を回避しつつ、意図的に円貨ベースでの評価損を計上し特定口座内での損益通算に活用する方法で疑似的に発生した損失を本記事では未実現評価損と表記しております。

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