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待機資金管理方法の考察(円・米ドル)①

はじめに 

 投資家は通常、一定の金額を待機資金として手元に準備しております。中には常にフルインベストメントを貫く強者も少数ながらおりますが例外です。投資家のリスク許容度によって待機資金(無リスク資産)の割合は異なります。昨今の下落相場の中でポジションを整理し一度待機資金に戻した投資家もいるかと思います。 

 また下落を仕込み場と定めて常に一定の手元資金をプールしている投資家も一定数いるかと思います。今回は待機資金の是非ではなく、待機資金を一定額キープしている前提でどのような運用が考えられるかを検討します。

1. 待機資金の種類

 そもそも待機資金とは何かというと、預り金・MRF・専用預金などが該当します。証券会社によって仕様は異なりますが株や投資信託などの購入代金に充当できるという点は共通しています。 

 何を待機資金と考えるかは投資家のリスク許容度によって変わります。保守的な投資家の場合には現金=待機資金ですが、積極投資家の場合には多少の価格変動リスクのある適格債券ファンド程度までは待機資金かもしれません。 

 例えば国債や高格付け債で構成された投資信託やETFなどです。ETFはリアルタイムで売買可能であるため流動性が高い商品です。BNDやAGGをイメージいただければOKです。外貨の待機資金としては外貨建てMMFも候補となります。

 もう1つの観点として即時性があります。預り金は即座に利用可能ですが投資信託の場合には3営業日程度かかる場合が多いです。(ファンドによって異なる)ETFの場合は取引時間中であればリアルに現金化可能ですが、週末などの場合には翌週まで時間を要します。 

2. 待機資金のマネジメント

 待機資金をどのように管理・運用するかはリスク許容度に応じて価格変動・換金性を加味して判断する事項ですが、折角なので投資家らしく待機資金にも働いてもらう方法を検討できればと思います。 

 まず円の場合、金利が抑え込まれておりますのでどうやっても安全かつ流動性を確保しつつ収益を獲得することは困難です。具体的な商品を整理します。

 まず預り金は何も収益を生まない為、除外します。MRFも国内金利を加味し除外します。国債は元本割れはしませんが満期保有前提で考えた場合、待機資金としての役割が果たせない為、除外します。債券ファンド(投資信託)の場合には3営業日程度で換金できるので即時性はギリギリ及第点ですが、想像よりも価格変動があり注意が必要です。以下は代表的な国内債券指数である「NOMURA-BPI総合」に連動した投信の基準価格の推移・騰落率です。

eMAXIS Slim 国内債券インデックス 2022年5月末月次レポートから抜粋
eMAXIS Slim 国内債券インデックス 2022年5月末月次レポートから抜粋

 債券ファンドでもコロナ前の高値で掴んでしまった場合、現時点で6%程度のマイナスとなる可能性があります。この場合、安定性に欠けるので待機資金=ほぼ無リスク資産、という定義から外れてしまいます。 

結論:円の場合、価格安定性・流動性・収益性を備えた商品は存在しない

 次に外貨の場合を検討します。外貨は円と異なり金利が復活しつつあるので金利収益を狙うことが可能となります。今回は米ドルを前提に検討いたします。米国は今年に入りインフレ対策として、0.25%,0.50%,0.75%の利上げを実施いたしました。FRBの見解としてはインフレ対策が最優先で今後も物価上昇が続く限り金利引き上げが続く見込みです。金融市場に優しいFRBは完全に姿を消しました。
 
 ではどのような商品が候補となるのでしょうか。債券ETF・国債・外貨建MMFが選択肢に上がります。議論の前提条件は既に外貨資金を一定額保有しており為替リスクを負わない投資家となります。
 
 債券ETFは国内の債券投信と同様に金利の影響をリアルタイムで受けます。チャートは代表的な債券ETFであるBNDの価格推移と取引ボリュームです。

SBI証券サイトから抜粋

 コロナの2020年3月のタイミングと2022年以降は継続して価格が下がっております。債券価格と金利は逆の動きとなるので利上げの影響で価格が下落しているのが見て取れます。現在の分配金利回りは2.19 %で、今後もしばらくは価格の下落と分配金利回りの上昇が続きますので待機資金としては価格変動が大きく、ほぼ無リスク資産と評価するのは難しい状況です。
 
 次に国債です。米国債は金利の上昇もあり一定の利回りが期待できます。とは言え償還まで持ち切りの場合には待機資金としての役目を果たせませんので既発債を検討することになります。既発債の場合、取引相手は一般に証券会社となります。(個人の場合)店頭取引(OTC)と呼ばれる類型です。

 この場合、売買手数料はかかりませんが価格にスプレッドが含まれており、購入価格・売却価格に差があります。この結果、期中売買の場合にはマイナスが発生する可能性があります。待機資金としての運用を考えた場合には国債もほぼ無リスク資産と考えるのは難しい状況です。
 
 最後に外貨建MMFです。米ドルの場合、これが本命となります。チャートはニッコウ・マネー・マーケット・ファンドの利回り推移です。2019年は1.9%程度の水準でコロナ後は金融緩和の影響でほぼ0%の水準まで下がりました。しかしながら今年に入り3度の利上げの影響を受け、直近では0.9640%(6/27時点)まで利回りが上昇しております。(尚、5月末時点では0.584%だったのでリアルタイムで金利を反映し利回りが向上していることが分かります)

直近の月次レポートから抜粋

 米国の利上げの状況を鑑みるに2019年の2%前後までは問題なく利回りが上昇すると思われます。外貨建MMFの特徴として買付手数料無しで営業日単位で売買が可能です。国債と異なりスプレッドが抜かれることはないので売買コストで負ける状況は発生しません。尚、目論見書を読むと分かりますが外貨MMFは以下の運用方針となります。

 ファンドは質の高い金融市場証券に投資することにより、元本を維持し流動性を保ちながら、市場金利に沿った安定的な収益率を目指すことを目的とします。管理会社は、1口当たりコンスタントNAV(注)を1米セントに維持するように最善を尽くします。

ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド目論見書から抜粋

 MMF外貨は原則、NAVが固定されていることから債券ETFと異なりタイミングによって価格が変動する、ということがありません。言ってしまうと外貨預金に近い性質の商品です。NAVを1セントに維持するという表現がわかりにくいかもしれませんが下表のとおり0.01ドルで固定されていることを示しており、これはいつ買っても・売っても価格は変わらないということを示しております。

ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド目論見書から抜粋

とは言え有価証券なのでリスクがゼロではありません。
詳細要件に以下の記載があります。

Ⅱ.詳細要件
ファンドは、その資産の少なくとも99.5%を以下の商品に投資しなければなりません。
・EU、EU加盟国の政府、地方自治体および現地行政機関もしくは中央銀行、欧州中央銀行、欧州投資銀行、欧州投資基金、欧州安定メカニズム、欧州金融安定ファシリティ、第三国の中央政府もしくは中央銀行、国際通貨基金、国際復興開発銀行、欧州評議会開発銀行、欧州復興開発銀行、国際決済銀行またはその他の一もしくは複数のEU加盟国が属する国際金融機関もしくは組織によって単独または共同で発行または保証される金融市場証券(以下「公債商品」といいます。)
・公債商品を担保とする逆買戻し条件付契約
・現金

ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド目論見書から抜粋

 基本的には超安全資産にしか投資していないファンドという理解でOKです。もう1つのメリットとして月末に自動で分配金を再投資してくれる仕組みです。自動で複利の効果を享受できます。ただし分配金には20%+αの税金が発生します。
 
 ここまでの説明では利点しかありませんが、当然ながらデメリットも存在します。それは管理コストが高い点です。先程の「ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド USドル・ポートフォリオ ルクセンブルグ籍オープン・エンド型契約型公募外国投資信託」の場合、諸費用込々の管理報酬は年率0.91%(上限)と記載があります。
 
 実際MMFの運用は安直にバンガードのETFを買い付けるだけの投資信託よりもはるかに手間がかかる運用が発生しています。とはいえ今の時代、年率0.91%(上限)の管理コストは結構高いと感じます。これが唯一にして絶対の弱点です。ざっくりとした利回りイメージは以下の通りです

米国債の利回り-0.91%(管理コスト)=米ドル建MMF利回り

 短期債の利回りから管理コストを差し引いた数値と利回りが微妙に一致しませんが複数期間の短期債・CPを組み合わせていることからこのような利回りとなっていると推察します。

参考までに米国債の利回りを掲載します。

6/27時点でBloombergサイトから取得したデータ

b) 以下の特徴のうち一つを有すること。
   ⅰ.発行時における法定満期が397日以下であること。
   ⅱ.残存期間が397日以下であること。

ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド目論見書から抜粋

 考え方としては債券ETFや国債に存在する価格変動リスク・流動性リスクをヘッジした代償として利回りが低下したという理解で良いと思います。ここでは金融商品としての利便性と金利のトレードオフが発生しており、流動性を維持しつつ価格変動なしで金利収益を得る代わりに一定程度利回りの低下を受け入れるという選択です。
 
 アップサイドの収益を狙う場合には外貨建MMFは候補になりませんが、待機資金としてプールしておく分には有用です。ここ2年程は金融緩和の影響で金利が存在しない状況で商品としての価値がありませんでしたが、今後はしばらく金利の上昇が期待でき2%程度までは利回りの上昇が見込めることから待機資金としては有用です。
 
 尚、債券ETF(BNDやAGG)・高配当ETFの方が分配金利回りは優秀ですが価格変動リスクが存在するため、ほぼ無リスクという待機資金の条件とは合致しませんので、消去法で個人投資家が選択可能な外貨待機資金の運用方法としてのベストな手法は外貨建MMFとなります。将来、再度ゼロ金利になった場合は外貨建MMFは価値を失います。
 
 外貨建MMFと似通った金利水準の商品として外貨定期預金が存在します。概ね1か月~3か月の定期預金の金利水準となります。 しばらく売買する予定のない資金であれば1か月満期の定期預金と外貨建MMFの金利はほとんど変わりません。とは言え1か月の間、資金が固定化されることを考えると外貨定期預金よりも外貨建MMFの方が待機資金としては有用です。
 
 逆に定期預金のメリットは申込時に金利を固定できる点です。米国金利がピークに近づいたころに長期の外貨定期を活用することで高金利を数年維持することが出来ます。MMFの場合はリアルで金利が変動するので金融引き締め⇔緩和の循環の中で利回りが変化します。 纏めると以下の通りです

  • 日本円の場合には有用な待機資金の活用方法は存在しない

  • 米ドルの場合には米ドルMMFの活用で待機資金としての役割を果たしつつ、金利収益を狙うことが可能

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