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NFT処分サービスの爆誕


1. はじめに 

 少し前に「マネックスクリプトバンク、不良資産化したNFT・NFTコントラクトの買取サービスの提供を開始」という面白いプレスリリースを発見しました。

 本アカウントではこれまで何度かNFTについて考察してきました。NFT信者の方には耳の痛い言葉かもしれませんが、それなりに真実が含まれている記事だと思いますので、是非一読ください。

 本稿ではマネックスクリプトバンクの新サービスである「不良資産化したNFT・NFTコントラクトの買取サービス」について内容を確認します。公式が「不良資産」と表現している点が業界の状況を示しているようで趣深いです。 

2. 撤退戦は既に始まっていた

 マネックスがこのようなサービスを提供するに至った経緯を推察します。プレスのサービス背景を要約すると「不良資産化したNFTを処分することで事業者の財務改善・節税効果を支援します」と記載がありました。 

 プレスを読んだ際に結構攻めた表現を使うなーと感心しました。NFT市場は2021年に盛り上がりましたが2022年にはピークを過ぎ、下落トレンドが続いており2023年も下落は継続しております。 

 同時期にブームとなったメタバース・Web3もメッキが剥がれ総崩れと言った状態です。これは実体が伴わないサービスにコロナバブルのタイミングも重なって大量の資金が流入した結果です。

 反対に実態を伴うサービスである生成AIはChatGPTを筆頭にこの1年で爆発的な成長を遂げ、私たちの生活・ビジネスを多いに改善してくれました。
 
 AIも若干バブルの感はありますが、有意なプロダクトという実態を伴い明確な価値を消費者に提供出来ている点が、NFT・メタバース・Web3などの虚構との違いです。 

 Meta社ですらメタバースよりAIに注力している状態なので、世の中が本当に必要としているのは実用的なプロダクトであり、利用価値の無いトークンや仮想世界ではないということが証明されました。 

 今回の買取サービスが登場した背景としては、2021年から2022年の初頭のバブルを見て参入した事業者が2022年末頃からNFTからの撤退・在庫の処分を検討してマネックスに色々な相談が持ち込まれたのではないかと推察します。 

 NFTをビジネスとしているNFTプラットフォーマーを対象としたサービスと言うよりは、NFTに手を出した事業会社が抱えている不良資産(NFT)の処分サービスというのが正確です。 

 これはブームに乗って何となくNFTに手を出してどんどんと価格が下がり手放したいと考えていた法人向けのサービスです。プレスでは以下の説明がされています。 

サービスの背景

 昨今のNFTブームの影響で多くの事業者がNFTを取得したり、NFTプロジェクトを立ち上げています。その一方で、市況の悪化などの理由により、NFT事業からの撤退を考えている事業者も少なくありません。しかし、NFTは株式や債券などの金融商品と比較して流動性が低いため売却先が見つからず不良資産化してしまうケースもあります。
 
売り先がなく不良資産化したNFTも「いつかは売れるかもしれない」と考えてバランスシートに抱えたままにすることもできますが、現在の市況は厳しく、Nansen社のNFT価格のインデックス「Nansen NFT-500(※)」によると、2023年10月31日時点でのNFT取引価格(フロアプライス)の年間騰落率は-57%と報告されています。
 
不良資産化したNFTを保有したままにすることはバランスシートの信用力に悪影響を及ぼすことが懸念されるほか、売却損の計上による節税効果も得られないため、早々に処分する方が合理的なケースも考えられます。
 
マネックスクリプトバンクは、NFTやNFTコントラクトなどの不良資産を買い取り、事業者様の財務改善を支援します。不良資産化したNFT・NFTコントラクトを売却することで会計上の売却損を発生させることができるため節税効果が見込めるほか、OpenSea等の公開市場でのオンチェーン取引ではなく、トークンの送付等を除けばオフチェーンでの取引になるため、市場への影響も最小限に留められます。

プレスから抜粋

 マネックスの見解では多くのNFTには既に価値は無いのだから売却損を計上することで利益と相殺できる、という点をこのサービスの押しとしています。 

NFT買取コース(※1)

作成・仕入したものの市況等の事情により売却できていないNFTを一律1円で買い取ります。売却損を計上する上で必要となる証跡として「買取証明書」を発行致します。

プレスから抜粋

 サービス概要の記載には一律1円の買い取りと記載されており、NFTが無価値であることを示しています。NFTの売り手である事業者目線では1円で買取証明書を購入することで利益を圧縮し法人税の支払いを軽減できるのがメリットです。 

 勢いに任せてNFTを発行した事業者・儲かると考え安易にNFTを購入した事業者向けの損切りサービスが登場したということは本格的な崩壊が近いかもしれません。昨年からNFTは情弱ビジネスに成り下がっており、ババ抜き状態が続いています。 

 撤退戦を考えていた事業者も多いと思います。今回のサービスはそのような需要を満たすものであり、財務効果が期待できるので一定のニーズがありそうです。逆に良く分からないのがマネックスはどこで儲けるか、という点です。 

 1円で買い取る不良債権と化したNFTが復活する可能性は低いので、単に手間がかかるだけのような気もします。NFTの買い取り金額とは別に手数料やコンサルなどでチャージするのでしょうか?その辺はプレスから読み取ることは出来ませんでした。 

 もしかしたら本サービスをきっかけにコインチェックに繋ぎ何らかの営業の機会を生み出すという考えかもしれません。(勝手な推察です) 

3. 今後の見通し

 今回のマネックスのサービスは法人が対象であり個人は対象外に見えます。個人が保有するNFTは購入したマーケットプレイスで処分すれば良いので法律・会計上の論点が生じやすい法人に絞ったと考えられます。 

 このようなサービスが登場するのだから当然ながら既にNFTの需要はほとんどありません。NFTマーケットプレイスを運営する事業者が情弱ビジネスとして積極的にマーケティング・プロモーションを続けていますが、実態として付加価値を生み出していないので顧客となる企業もお遊び程度で試してみるか、くらいの温度感です。 

 元来、NFTは事業会社の本業とは何ら関係がありません。単なるプロモーションに過ぎず、一過性のブームが去ってしまえばそれまでです。反対にAIは汎用性の高い技術なので本業の効率化や高度化といった付加価値の向上に貢献します。これが淘汰されるサービスと成長するサービスの違いです。 

 一時期のNFTの買い手の主体であった個人は既にほとんどが撤退しています。発行側の事業会社もNFTには効果が無いことが判明しつつあり需要がありません。 

 次の展開としてはNFTプラットフォームの廃業・事業譲渡などです。NFTプラットフォームも当然ながら撤退を視野に入れつつ現業を展開しているはずです。既に潮は引いており、後はどのタイミングまで資金を吸い上げられるかを考えているはずです。 

 辛うじて損益がプラスの間はサービスを継続しつつ、どうしようもなくなったら損切りするというのが私の勝手な推察です。水面下では多くのNFTプラットフォームが事業売却に必死ではないかと思います。

 多少でも値段が付くうちに事業売却することで損失の低減やオーナーの資金回収が出来るのであればそれに越したことはありません。とはいえ状況は厳しく、実際のところNFTマーケットプレイスには殆ど値段が付かないのではないかと思います。

 NFT・メタバース・Web3のメッキが剥がれ価値が無いと多くの方が認識した結果、現時点では買い手は皆無でしょう。これが2021年であれば高値で売れた可能性が高いです。 

 買い手(個人)が撤退し、発行体(事業会社等)が撤退し、いずれはマーケットプレイスも何らかの形で撤退することで、この一過性のブームにピリオドが打たれると思います。マーケットプレイスの撤退は2024年~2025年あたりになると思います。

 プレイヤーの撤退によってNFTバブルは完全に終結しますが、NFTがゼロになるわけではありません。マーケティング手法の1つとして限定的な使われ方としては残ると思います。崩壊するのは投機としてのNFT市場です。 

 今後のNFTは投機ではない細々とした実需を発掘する必要があります。NFTが輝くユースケースを発見しプロダクトを開発し適切にデリバリーする必要があります。これは高度なプロセスであることから既存のマーケットプレイスには到底困難です。 

 よって将来のNFTは既存プレイヤーとは異なるプレイヤーが主役となる可能性が高いです。誰が担い手になるか現時点では分かりませんが、広告代理店がマーケティング観点から活用するケース、戦略系コンサルが真剣に事業との融合を提案するケースなどが考えられるかもしれません。 

 価値があるのは後者の事業との融合ですが難易度が高いので少数のはずです。投機ではないNFTとして妥当なところは安価なマーケティング手法としてのNFTという立ち位置です。これは広告代理店などがポートフォリオの1つとして活用するケースです。 

 この場合、NFTには本質的な価値はありませんが投機としてのNFTよりは健全です。安価なプロモーションにNFTが活用できるのであれば企業としては他の広告媒体との比較で費用対効果を測定すれば良いだけです。 

 とはいえプロモーションの主流になることはないので、他の手法との組み合わせで用いられる場合がある、という限定的な運用に留まると思います。 NFTの未来は明るく無さそうですが、投機ではないNFTは細々と生き残ると考えます。

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