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外貨建MMFの活用法③

1. はじめに 

 8月に「外貨建MMFを活用した効率的な損益通算に関する考察②」というタイトルで待機資金の効率的な運用を紹介いたしました。

 前回記事から数か月経過しましたので簡単にアップデートいたします。米国の金利はFRBの積極的な利上げの結果、FF金利の誘導目標は3.75~4.00%となります。(11/20時点)既にインフレはピークアクトしたという見解もありますが、利上げはしばらく続く見通しで最終的には5%程度まで引き上げられる、というのが市場のコンセンサスとなっているようです。

2. 米ドルMMFの直近利回りの傾向

 過去の記事で金利上昇局面における待機資金としての米ドルMMFの活用について提案いたしました。6月頃はまだ1%程度の利回りでしたが現時点では3%程度の利回りとなっております。図はSBI証券で取り扱いの米ドルMMFの利回りです。(11/18時点)

SBI証券Webサイトから抜粋

 利回りが2.9~3.2%とばらつきが生じている理由ですが、各ファンドの目論見書と月次レポートからの推測となりますが、①現金比率、②残存期間、が影響しているようです。図で利回りが一番低い「ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド」の月次レポートを見ると現預金等の比率が14.8%となっております。また残存期間も全ての試算が90日以内に収まっています。これは安全性重視のファンドと評価できます。


「ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド」2022年10月の月次レポートから抜粋
「ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド」2022年10月の月次レポートから抜粋

 逆に「ブラックロック・スーパー・マネー・マーケット・ファンド」の現金等は-43.3%となっております。運用額にレバレッジをかけているために現金がマイナス表記となっていると思われます。これは「ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド」と比べると随分と積極的な運用だと思います。

「ブラックロック・スーパー・マネー・マーケット・ファンド」2022年9月月次レポートから抜粋

 また、一番利回りが高い「ゴールドマン・サックス」MMFでは残存期間90日超の資産も一定量保有していることが分かります。

「ゴールドマン・サックス」MMF 2022年9月月次レポートから抜粋

 これらの情報から同じ米ドルMMFと言っても運用各社によって方針は異なり、安全性・リターンが異なるということが分かります。よって利回りの差異は各社の運用方針に起因したポートフォリオ構成によるものと判断できます。基本的にMMFは安全な短期債券等で運用されるため大まかな括りではどれも「安全」であることには間違いありませんが、多少の差異が生じるということです。MMFを選択する際は表面的な利回りだけでなく、このようなファンド毎の差異も理解してファンドを選択するように心掛けると良いかと思います。

3. 他資産の利回りとの比較

 直近の米ドルMMFの利回り状況を確認したところで次に他資産の利回りを確認し比較いたします。比較対象は株式(ETF)・債券(投資適格)・REITといたします。 

 まず株式クラスの利回りですがS&P 500を対象としたVOOの利回りが約1.60 %で、高配当ETFのVYMの利回りが約2.94 %となっております。(SBI証券の外国株サイトの銘柄情報から抜粋)高配当ETFの利回り≒MMFの利回りであり、ややMMFが勝っています。ETFの場合、MMFと異なり基準価格が固定されているわけではないので価格変動リスクが存在します。実際の利回りは、「分配金+価格変動+取引手数料」の合算となります。価格変動は直近の動きを見る限りマイナスに働き、手数料もマイナスに働くことから2.94 %は上限利回りであることが分かり実際に利回りは価格変動次第では0%からマイナスに推移する可能性もあります。 

 次に債券クラスの利回りですがBNDの利回りが2.42 %、AGGの利回りが2.20 %となります。これらの債券EFTは安全性の高い投資適格の短期債券を中心に構成されたファンドです。ETFは債券ですが上場されているため価格変動リスクが生じます。また取引手数料も生じます。よって実際の利回りは、「分配金+価格変動+取引手数料」の合算となります。今年のような金利上昇局面において債券価格は下落しますので「価格変動」部分はマイナスに作用します。結果として利回りは2.42 %を上限として0%やマイナスとなる可能性も存在します。

バンガード米国トータル債券市場ETF(BND)の1年チャート(SBI証券から抜粋)

 図の通り直近一年で85ドルから72ドル付近まで下落しており「分配金+価格変動+取引手数料」で計算すると大きなマイナスです。MMFの場合、基準価格は原則として変動しませんので「価格変動」を無視できるのが強みです。MMFの場合、取引手数料も無料であることが多いので「為替」を無視すると利回り=リターン、となります。今年のような荒れた為替相場の場合には為替変動が損益に強く影響しますが、それは特定口座における円換算評価における結果であり、ドルベースでの資産管理において特段影響は発生しません。(←ここは重要な視点です)
 
 次に不動産クラスの利回りですがIYRの利回りが3.26 %となります。利回りで比べるとMMFと同水準となります。直近の価格推移は下図の通りで金利上昇の影響を受け下落基調となります。110ドルから85ドル付近まで下落しています。REITは借入金でレバレッジをかけて物件の取得・運用していますので調達金利の上昇は利回りにマイナスに作用します。

iシェアーズ 米国不動産 ETF(IYR)の1年チャート(SBI証券から抜粋)

 整理すると債券・不動産はMMFと同水準の利回り(≒分配金)ながら価格変動リスクが影響しトータルリターンではMMFに劣後し、株式はMMFの利回りに劣後し価格変動リスクの影響も受ける結果となります。長期視点でのキャピタルゲイン狙いの場合には株式クラス一択ですが、待機資産の安全な利回り確保という視点ではMMF一択となります。一部ではインフレのピークアウトの観測も出ていますがインフレ判断が遅れたことを非難されているFRBは早期利下げに転じるよりはインフレ鈍化が確実となるまでは金利を据え置き様子を見る可能性もあることから、来年もしばらくは待機資金の運用先としてはMMF一択の状況かと思います。

4. MMF実践編

 為替を活用した外貨建てMMFの活用法を前回の記事では紹介いたしました。今回は少し違った視点でMMFの利用法を紹介します。 

 私は円建て資産は投資信託の毎日積立を利用しています。一般にドルコスト平均法と呼ばれる運用法です。外貨建て資産は積立は利用しておりません。外株・ETFでも定期買付サービスはありますが、金額指定で端数まで購入可能ではない為、ドルコスト平均法のメリットを享受することは出来ない仕様となっております。これは外貨資産の運用における前提条件となりますので覚えておいてください。ではどのように運用しているかというと「MMF+スポット投資」です。 

 MMFは翌営業日には換金し買付余力に充当されるので換金性の高い商品です。よって平時はMMFで安全に3%の利回りで運用しつつ、中長期視点で大きく下落した局面においてMMFを換金し、VT・VTI・VOO・VIGなどのインデックスの底値・下値を拾いにいきます。このような方法を採用する場合は機械的に取引ルールを定めていると判断に迷いがなくなります。例えば、直近6か月の高値から15%下落したら、余力資金の10%分の金額を買い付ける、といった感じです。(数値部分は各自の判断で調整部分) 

 前半の●%下落したらの部分は安全マージン確保の要素があり、マージンを大きくすると割安価格で購入可能ですが取引機会が少なくなり一年を通じて一度くらいしか取引機会が存在しないかもしれません。逆に5%程度に設定すると結構な頻度で買付チャンスが訪れます。後半の▲%買い付けの部分は時間分散効果が期待できます。一度に50%買い付けるのと5%では2回の取引か20回の取引かで大きな差が生じます。下落局面においては分割回数を多く確保した方がよく、上昇が見込まれている場合は纏めて購入した方が良いです。 

 長期運用資金はマーケットタイミングをあまり考慮する必要はありませんが、短期運用資金の場合には「安全利回り・取得価格・換金性」を意識する必要があります。即換金の必要が生じるような資金の場合にはMMFしか選択肢にありませんが、半年~数年程度の短期資金であれば上記のMMF+スポット取引が有効です。VT・VTI・VOO・VIGは一例ですが投資対象の基準は①長期での価格上昇が期待でき、②銘柄が分散されていて、③運用コストが安く、④償還リスクが少なく、⑤流動性が確保されている、銘柄となります。 

 少し脱線しますが、日本証券業協会のルール見直しもあり今年の夏から証券各社にて外国株の信用取引が可能となりました。外貨建て資産の長期運用において信用取引を利用するべきかどうかという問いですが、結論は“利用すべきではない”となります。金利水準の影響を強く受けますが直近の金利水準だと4.5%程度の金利が発生します。信用取引の場合にはレバレッジETF・投信のような「減価」が発生しない点は利点ですが、信用金利のデメリットが大きすぎます。減価が発生しない商品としてはCFDがありますが、取引ルールが複雑であったりするため正確に理解できない場合は避けた方がいいです。レバレッジ部門での相対比較では信用取引・レバレッジETFよりはCFDの方が良いかと思います。 

 尚、「外貨預金+スポット取引」でも同じではないか?という指摘があるかもしれませんが、米ドル定期預金の1か月ものの金利水準は2.3-2.4%程度、半年もので3.6%程度(銀行により異なる)となります。いつでも換金可能な普通預金の場合は1%程度です。定期預金の場合には機動的なスポット買いが出来ませんので比較対象は普通預金となります。この場合は1%となり、MMFとは2%の差が発生します。 

 外貨定期預金は金利が上がり切るタイミングで中期運用資金を固定化するのに有効です。具体的には来年金利が上がり切るタイミングで余裕資金を3~5年の米ドル定期預金に切り替えます。来年5%超の金利情勢と仮定した場合、外貨定期預金も4%を超えることから(4.5%程度まで上がる可能性もあり)中期で金利が下落する局面において高金利で固定化させるメリットは大きいです。MMFの場合、残存期間90日以下の超短期債券が中心であることからFF金利が低下するとすぐに利回りが低下します。

 考え方は前回投稿時から変わりませんが、今回は金利動向の経過観察を兼ねて前回までと違った視点で米ドル建てMMFを整理いたしました。

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