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46【いざ入院】


朝、いつものように3時過ぎに起きる

ルウと娘たち一人一人に
メッセージを書いて
パウチをする

思いを込めて

ギリギリまで片付けと入院の準備をして
朝ご飯を食べる

ムウが絶対に最後の晩餐と決めている
ルウの卵焼き

そして 麩の味噌汁

今日、なんの味噌汁?

お麩だよ

キョウ、フの味噌汁か

そう、恐怖を飲み干すってね

なるほどーー ふふふ

やたらめったら
美味しい

そしてルウはやたら泣く
ムウがもう戻ってこないんじゃ無いかと
思うぐらいやたらポロポロ涙を流す


そんなに泣いたら
ムウ、帰ってこれなくない?

と笑う

そうじゃなくて
寂しいから止まらないんだもん

と泣く
それをみてムウは笑う

母に
行ってきますの電話をして

ムウは一人、特急に乗った

奇跡のような乗り換えがあって
時間通りに虎の門の麓に着いた

見上げるビルディング

虎ノ門ヒルズの隣りの
虎の門病院はそこに聳え立っていた

今日からタワマン暮らしだよー


と努めてごきげんを装って
ムウは最後の外の空気をいっぱい吸った

2度とこの扉から出てこられない
こともあり得るんだということを
思いながら

入り口で消毒と体温を自動で測り2階へ

本日入院の受付の順番待ちのスイッチを押す

間に合ってよかった

そこには大きな荷物を抱えた人たちが
いっぱいいて、それぞれ今日からここで
暮らす同志たちのようでなんだかわからないけど
みんな頑張れ!と心の中で言っていた

ムウの番号がテレビに表示される 002の窓口へ

入院についての注意事項の説明を受け
コロナの検査をした後にまずは9階に上がって
そのさきにあるエレベーターに乗り換えて
15階に行くように言われる

どうやら、窓際ではなかったようで
ちょっとだけがっかりするけど
まぁそれはそれで仕方ないと諦める

2階のエレベーターまで待ち構えている
コロナの検査の手続きをして
全身をブルーのカバーで覆った
看護師さんのいる部屋に行く

名前と生年月日を伝え
鼻の奥に長い綿棒をギュンとされる

はい、これで上がってもらって大丈夫ですよー

と明るく言われ、

あ、そうなのね、
これでもう、大丈夫ってことなのね?

コロナかどうかってそんなに一瞬でわかるのね?
と訝しみながら、荷物をゴロゴロして
エレベーターに乗る

ほとんどが外来の患者とその家族

入院するアタシとは世界が違う

なんだかわからない焦燥に駆られつつも
どこかウキウキしている自分に気づく

丸の内かどこかのおっきなおっきな
オフィスビル、胸からバーコードの着いた
社員証をぶら下げて一般人が入れないところに
入っていく人たちをちょっとだけ羨ましく
思っていたけれど、
今日はムウもバーコード付きの名札
ぶら下げてるもんねー と

9階について電車の自動改札機のような
ところでバーコードをかざすと
扉が開く

あームウの人生の扉が開く
どうか、ここからきっと
出られますように と

入院患者用のローソンを右にみて
突き当たりのエレベーターに乗り15を押す

15はムウのラッキーナンバー
4月15日生まれのムウ
10月15日生まれのルウ

ずっと15が好き
車のナンバーも1515だ

その15階の15号室の1番
15151 がムウに示された部屋だった

それだけでウキウキするには十分で
神様がムウに勇気をくれていることを
感じられる

15階でエレベーターで左に折れ
北棟のインターホンを押す

自動ドアが開いてナースステーションへ

今日から入院の滝川です

と伝えると若い看護師さん(Kさん)が

あ、はい、滝川さんですね
今日からよろしくお願いします

と気持ちよく挨拶をしてくれる

少し、こちらでお待ちくださいね

と面談室に通された

初めての病気で
初めての入院

なんだかちょっと
自分のことじゃないような
現実感の乏しいその経験を
しっかり味わおうと思っていた

Kさんはおそらく
まだ看護師さんになったばかりの人

自信がなさそうな感じで
入院の説明をし始めるも

やっぱり先にお部屋に行きましょうか?

とおそらく緊張して見えたムウを
落ち着かせるために部屋に案内してくれる

15151    15階北棟の1番はしの部屋の廊下側

広い
やっぱりこの病院の病室は広い

あーよかった

なんだかホテルにチェックインしたような気分

なんと言っても窓からは
超高級ホテルのホテルオークラ東京

あそこからの眺めとここからの眺めが
おんなじなんだもの
ちょっと気分は上がるよね

なんて思ってた

その後、病院のトイレ、シャワー
デイルームその他施設を一通りツアーしてもらって
再度、面談室に戻って先輩の看護師さん(KSさん)
と共に、これからの流れの説明を受ける

(このKSさんには退院までずっとお世話になることになる)

ムウが持参したムウの取り扱い説明書も渡して
少しホッとして病室に戻り、荷物を解いた

今日から始まるね
2022年6月の新月の今日から
新しい、ムウが始まるね

きっと大丈夫
きっと大丈夫だよ

長かったここまでのことを
思いながらムウはムウの居場所を
丁寧にセットした

教訓
:いざ当日になるとウキウキするものね
:入院初日はテンションが上がる(ムウだけ?)
:看護師さんの応対はめちゃくちゃ大事

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