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50【地獄のはじまり】

7月1日 夜

ピコーン
ピコーン
ピコーン

うるさい、うるさいよ、、何?

ピコーン
ピコーン
ピコーン

徐々に意識がこの世に
戻ってきているよう。。。

誰かと誰かが話す声が
近くで聞こえる

どうも、看護師さんが
ムウの引き継ぎをしているよう

はい、わかりました。

はい、そのようにしますね。

えっと、この方、

イキョジ、、、、、、になったんですよ


そうなんですね

そう、手術中に、、、、、、、。。。

うまく聞き取れなかった。。。

ん?
もしかしてもしかすると

イキョジ、、、、って
胃挙上のことか、、、、、??

え?
ムウ、ダメだったのか???

いやいや、何かの聞き間違いかも、、

嘘でしょ、、、、。。
せっかく、この病院を探し当てて来たのに。。

そんなことを思いながら
また、意識が遠くなって眠った

次に、全身の痛みで
目が覚めた時には
若く、小柄なKさんという看護師さんが
隣りで作業をしていた

あ、目が覚めましたか。。。

担当のKです。
よろしくお願いします。

声が出ないので無言でうなずく

ナースコール、右の手にお渡ししますね
何かあったら押してくださいね。

で、こっちが痛み止めの薬が流れるボタンです
左手に渡しておきますね

ただ、いっぱい押しても
いっぱい出るわけじゃないので注意してください

徐々に明らかになるムウの状態

全身のいろんなところから管、管、管

喉元の体内に溜まった液を出すチューブ
脇腹から体内に溜まった液を出す太い管
背骨には麻酔を入れるチューブ
胃の辺りには栄養を取り込むための胃瘻
尿道には尿を出すためのカテーテル
左中指に酸素濃度を測る機械
手足と胸に心電図のための電極
左手首の動脈に刺さった管
右の腕には栄養と薬を取り込む点滴
鼻には酸素を取り込むための管

10種類もの管、管、管

もちろんこれは後でどれが何かはわかったんだけど
全身、管だらけで機械だらけ

ずっと耳元で電子音が鳴り響き

あらゆる病室からうめき声と
ナースコールのピコーンピコーんが
鳴り響く

まずは 聴覚から地獄は始まった。。。

徐々にはっきりしてくる意識

身体の感覚が戻ってきてなんだか痒い

痒くて熱い、、なんだ、これは。。。


身体の表面じゃなく中がやたら痒い

痒いけど掻けない、動けない
なんだこれは

顔も動かせないので状況がわからないけど

部屋の入り口らしきところで
看護師同士のなんだかじゃれ合う声がする

Kさん(女性)が男性の看護師と
笑いながら、どこかに行くとか行かないとか
なんだかそんな話をしている

しばらくしてムウの身体を
触り始めるがまるでムウはいないかのよう

何も言わず、ただモノを扱うように
何かをしている

どうもうまくできないようで
どこかに行ってしまった

もしかして新米なのかな?

だんだん、不安になってくる
こんな状態のムウを新米1人に任せてるの??

するとベテランの看護師さんを伴って
やってきた

うまく行かないことを説明している

私が見ていてあげるからやってみなさいよ

と先輩看護師。。。

嘘でしょ??
こんな大手術直後のムウを使って
今、OJT(オンTHEジョブトレーニング)
が始まるわけ?

やめてよー
ベテランさん、やってよーーー
怖いよーーー
めちゃくちゃ怖いよーーーー

色々とやり始めるがやはりうまく行かないよう

もう。。。

と先輩がやり始め、

はい、終わりましたからねー

とムウに告げる

一体何が終わったのかさっぱりわからない。。

次はこれとあれをやっといてね
このこと、先生にも報告しておくのよ
と先輩は去っていった

怖い、怖いよー
男性看護師とムウの横でイチャイチャしながら
うまく、処置のできない看護師さんが
ムウの担当なんて、、怖いよー
(偏見なのはわかるけどこんな時は怖いのよ)

こうなるともう、何もかもが怖くなって
どんどん、恐ろしくなってくる

しばらくしてKさんが
誰かに電話をしている声

はい、すいません
さっき、〇〇さんに言われたんですけど
伝えるのを忘れていまして

はい、すいません

すいませんでした
大丈夫でしょうか?

はい、すいません、すいません

え?
一体、何を忘れてたの?

さっき、言われてたよね?
先生にも伝えるように言われてよね?

はい、先生がカルテに描かれいるサイズと
こちらで測っているサイズがどうにも
合わなくてこれで大丈夫なのかと
確認をしたかったんですがそれを忘れていました

すいません。。。

おいおいおいおい
すいませんじゃないし。。。。

怖い怖い怖い怖い
大丈夫なの?

一体、何のサイズが違うの??

自分のことが自分で全くわからない恐怖

頭から黒い袋を被せられて
何かされてるような劇的な怖さ

もう、お願いやから担当変えてー

と思いながら

徐々にひどくなる痒みと熱さと
身体の中を何かが這い回るような痛みに
襲われ始めた

ピコーン
ピコーン
ピコーン

一晩中鳴り響く不快な音、音、音

この後、一睡も出来ずに
ひたすら、痛み止めをお願いし続ける

左手のボタンの痛み止めは全く効かないので
点滴での痛み止めを

だけど、この看護師さん
本当に、やることなすこと全部、ダルい

そして、ムウを全くもって
人として扱わない

痛い、痒いということが
まるで悪でもあるかのように
めんどくさそうに処置をする

そのくせ、他のスタッフとは
楽しそうに話している

もう、やだ


本当に、やだ


痛みと痒みに耐えられないから
眠らせてほしいと睡眠導入剤を頼むも
もう、何時間も持ってきてくれない

あーーーもうやだ
本当にやだ

最悪だ、
これは本当に地獄だ

肉体的地獄と
看護師さんから受ける恐怖で
精神がバラバラに壊れていくような
そんな最悪な状態だった

あーーー

早く、一刻も早く
頼むからお願い。。。


この看護師さんから
解放されることだけを祈っていた

なんでこんな状態の患者を
こんな新人に任せるの?

1番、不安で、1番、大事な時やのに
お願いやから、安心させて

ちょっとでいいからムウを安心させてよ


今までに味わったことのない地獄

本当に地獄というものがあるなら
まさしくこれだ

53年間生きてきて
とんでもない修羅場を潜ってきた

ヤクザの地下牢に監禁された時も
施設でひたすら受ける暴力に毎晩、耐えた時も
トランクに押し込まれ山に埋められかけた時も
布団にくるまれ、集団でボコボコにされた時も
ひとりぼっちで荒野に取り残され時も

そんなの全く地獄じゃなかった
これに比べたら全く

でも、まだこれは
そのハジマリに過ぎなかった。。

教訓
:より深い恐怖は耳からやってくる
:命のかかった地獄はマジでやばい


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