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28【あなたは合わないから】


5月30日
ついにこの日がやってきた
Kクリニックに紹介状を書いてもらい
5月2日に初診を受けてから4週間

事前に母にも
同席してほしいと伝えていた。

ムウは大丈夫だとしても
ルウがどうなるかが予測不可能だったから

10時の約束だったので
30分前には千葉大に着くように向かう

正面玄関でムウだけ降ろしてもらって
先に2Cの食道胃腸外科に向かう

ギリギリまで改訂を重ねた
医療チームの皆さんへの手紙を先に
受付の人に渡すために

食道胃腸外科の受付の人は
ものすごく愛想が悪く事務的で怖い

笑顔を見せるのは同僚と何やら
話している時だけで患者と話す時には
ニコリともせず、前に患者がたっても
声をかけるまで顔すら上げない

前からそうだったから予想はしていたけど

こういうところから辛い


「すいません、今日、M教授の確定診断を受ける
 滝川です。事前にソーシャルワーカーの方を
 通してお手紙を渡していたんですがそれから少し
 変更を加えたのでこちらを診察前に読んでいただきたいので
 先生や関係する方にお渡しいただけますか?」


わかりました。お預かりしますね。

すっとクリアファイルに入れ棚に差し込み
何事もなかったように今までしていた事務作業に戻る

え、、、と診察時間の15分前なので
すぐに渡して欲しいんですけど
大丈夫かな。。。。。。


そんなことを言えないもう声をかけないでオーラを
猛烈に発しているので仕方なく待合で座る

眺めていても動く気配が全くない。。。
むむむ、、もしかして書いてきたのが無駄だったか。。

そんな少しのことで患者は安心するのにな。。

どんどん募る不安
そしてやっぱりここでは治療は無理だと言う感覚が
確信に変わる

あーあ、自分の直感を信じて
早く転院をしておけばよかった

と後悔をしているところにルウたちがやってきた

二人ともとても緊張している

M先生の診察室の前に移動し待つ
緊張しているので何度もトイレに立つ

滝川さーん 何番へどうぞ〜 と
予定より10分は早く声がかかる

来た!ついにきてしまった。

これで運命が決まる


あと、どれぐらい生きられるのか
治せるのか治せないのか
死ぬのか死なないのか

あーあ ついに

覚悟を決めて、スライドドアを開ける

滝川です
よろしくお願いします。
妻と母も一緒にお話を聞かせてください。



あ、どうぞ


と席をすすめられる

顔は見ない

ムウが事務員に渡した手紙はそこにない

やはり渡ってはいないんだとガッカリ

そして画面には検査結果が表示されている

まるで初見のようにそれを眺める


事前の説明では毎週木曜日に
全ての部署のあらゆる課の先生で集まって
カンファレンスをして病気や治療法を
検討し決めてから患者に説明すると聞いていたのに

まさかの今、初見なの????


ますます不信が募る

しばし診断しているのか、無言の間が続き一言


えっと 
クリニックのK先生からはなんて言われてるの?



ーやっぱり読んでないね。書いてたのに。

あ、食道と胃の間にあるバレッド食道癌の疑いと
聞いています。


はい、正解 
その通り(本人は診断名を言わない)

ただ、まだこっちでとった検体の結果が出てないから
それだと100%言える訳ではないけどね。。



ーなんだそれ、だとしたらこの1ヶ月待たされたのは何?

と思いながら黙っている

CTの画像を見ながら
ガブちゃんの場所と深度を説明される。

ガブちゃんの深度(深さ)分類は
T1は食道の内側表面のみ
T2は食道の壁で止まっている
T3は食道の壁を突き破っている
T4はその外側まで完全に侵食してる

という分類で

T3との判断


リンパ節転移についても
110番のリンパ節の部分に影が見えるので

近いところのリンパ節に転移ありで N1


遠隔転移については PET CTの画像で確認
全身への転移はなさそうで恐らく

M0ではあるけど
横隔膜への転移があるようにも見えるので
その場合は M1 になると説明される

整理すると

T3N1M0 であれば ステージⅢ(これは確実)


横隔膜転移があれば

T3N1M1 で ステージⅣ(の可能性もあり)


ですね。 

ときた。

とりあえず、ステージⅢの可能性が高いということで
1番心配していた末期で余命宣告という流れではなかった
ことにふーーーっと胸を撫で下ろす

ここまで緊張で忘れていたがふっと思い出して

先生、この会話大事なので録音させてもらってもいいですか?

と尋ねる(本には尋ねたら大体OKされると書いてあった)

ダメです。


とバッサリ。

だからちゃんと聞いてください。 

こんな時、こんな状態でちゃんと聞くってなんだ?
どうやってそんなことができると思ってんねんボケ
と、もうだんだんアホらしくなってくる


そしてその後、唐突に

あなたはわたしとは合わないから


と言われる。

一瞬耳を疑い、なんて言われたかを
咀嚼するのにしばらく沈黙するしかなかった。

え?そんなこと言います?
これからあなたに命を預ける相手に対して
そんなこと言います?

あー最悪、あー最低
でも、ここまでハッキリ最低感出してくれたら
こっちもなんの未練も心残りもないわー

この人も一応、名医図鑑に名前載してたけど
ただただプライドの高いしょーもないおっさんやったなー


ようやく言われてことを理解し

あーそうなんですね。。。

とかえす

手術を好き好んでしたい人なんて誰もいませんよ。
(あ、一応、事前に送った文に目は通してるんだな)

そんなこと知ってるし
ムウはただ今のムウの気持ちを正直に書いてるだけで
他の可能性があるならそれも一緒に検討してほしいって
お願いしてるだけやしそれで治ってる人もいるし
その選択肢を最初から捨てていうとおりにしろってことかー
と思いつつ黙っていると

この症状であれば私は100%手術です。それしかありません。


まぁ一応、説明はしますね。

ここから教授の独壇場が始まる

手術がいかに素晴らしく治ってる人が多いのかを
いうのかと思ったらなんと自分達の保身のための
リスクの説明だけをひたすら繰り返す

やたら死ぬ死ぬ話のオンパレード


手術中に死ぬこともありますよー(4−10%程度)
合併症で死ぬ人もいますよー
抗がん剤をやるかどうかも決められるけど
やらなかったらどうなるか知りませんよー
やってもどうなるか知りませんよー
確率論は全く意味ないですよー
要はあなたに効くか効かないかなので
もう一かバチがでしかないですよー
手術したからって治るとは絶対言えませんよー


とひたすら怖い話だけが延々と続く

何かあった時に、
だから最初に説明しサインもしてもらいましたよね?
とだけ言いたいがための説明が。。

そんな話を聞いて
はい!ぜひ手術をお願いします!
よろしくお願いします!

なんて気になる人がいるとしたら
もう逆にそれが怖いわ

ムウがズレてるのかな???


嘘みたいやけど本当に
手術して良くなった人の話は
ただの一つもなかった


ただの一つも

だから、もう、こっちも思考停止
スイッチを切ってしまった

いろんな聞きたいこともあったけど
もういいや、この人の話はメンタルやられる。

これでよく教授になれたなー
患者の意見とかどうでもいいやろなー
ただただ黙ってハイソウデスカと
素直に先生さまさまする人だけを
相手にしてきたんやろなー

めんどくさい患者でどうもすいませんねー

しかしなんのために医者やってんのやろ。

患者を安心させるどころか
どんどん不安に追い込んで一体何がしたいんやろう

とそんなことを思いながらの“無“の時間だった

もう、完全に絶対に、C大なんかで治療はしない
別れる時には冷たく別れてとみゆきさんの歌にあるように
そういう意味ではキッパリ腹が決まってよかった。。

ロボットのように何か話してるんだけど
何にも話していない教授の話が一通り終わり

セカンドオピニオンの話になった。


セカンドオピニオンはするんですか?

はい、します。
前に書いた通り、2箇所を考えています。


第一希望が放射線治療なので
国立がんセンター東病院の A先生
そして手術だとしたら
虎の門病院のU先生のところに行きたいと思います。


暗に絶対お前のとこなんでやるかーと思いながら

やってもいいけど
そんなことしても時間の無駄になるだけだけどね


と捨て台詞

二人ともおんなじこというに決まってるから


はープライドの塊

本当に自信のある先生なら
自分からセカンドオピニオンを進めるそう。
この人、実は自信がないただのプライドお化けだな
この人の下でよく働けるなーと思ったのでした。

ここで最後に母が
手術するとしたら教授が執刀してくださるんですか?
と尋ねると

まぁそうなるでしょうかねぇ
予定によるので確定ではないですが。。
うちの場合、主治医制でもないんでね


またしても、何にも答えていない。。

ではセカンドオピニオンの紹介状
よろしくお願いします。


あ、それは僕は書かないから
あとで説明をするもう一人に再度伝えてね


なんだそれ

どうもありがとうございました。。。

最後の最後まで不安だけを残す確定診断だった


不安を通り越して 呆れ返っていたけれど
診察室を後にして 3人で呆然とする

でも最初からわかってたことやから

でもこんなにひどいとは思わなかったね、、。

まぁ全身転移がなかっただけよかったよ。。


そこに中にもいた看護師がやってきた

聞きたいこと聞けましたか?

聞けるかーーーーーー!!!


と思いはしたけどまぁもうここにくることもないから
看護師さん関係ないし、そっとしておこうと

まぁはい。。

と答えた

セカンドオピニオン行かれるってことですが
午後の M先生のお話は聞いて行かれますか?


通常はM教授の話で入院の段取りが始まるので
その詳しい説明がされるんですけどね。。。

もし病院が変わるのであればそれも必要ないかもしれないけれど

あーーーでもまだ実際、何にも聞けてないので
もし時間をとってもらってるのであれば
聞きたいことをこれから考えてみます。。。

わかりました
ではそのむねM先生にも伝えてみますね

よろしくお願いします。


しばらくすると戻ってきて
M先生も聞きたいことあるでしょうし
それでよければお話ししますよとおっしゃてますので
では時間になったらお越しください

となった。

約束の時間は13時だったので
近くのイタリアンレストランに3人で向かう

ムウ以外は悲壮な顔をして食欲が無さそう

11時のOPENを待ってテラス席に座り
お茶とケーキを頼んだ

ムウはステージⅢと決まったことで
最悪のシナリオは一旦横に置けたことにホッとしつつ

教授の対応の最低さに逆にエネルギーが湧いていた


普通にあの説明を受けて治療に進む人たちが
あまりに不憫で、この病気を克服したら

絶対、必ず、そういう人の力になってやるという
コンコンと湧き出るエネルギーで満ちていた


結局、お腹も空いてきたので
ランチを2つ頼んで、3人で食べた

この時3人で何を話したかは覚えていないが
ムウはひたすらM先生に聞くことを
整理していたように思う。

つづく

教訓
:自分を事前に知ってもらうことで時短になる
:最悪な物語の先にきっと最高が待っている
:医者だから先生だからといって自動的に尊敬し萎縮してはならない
:やっぱり自分でしっかり勉強し選択するべきだ

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